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小説『ヴァルキーザ』 19章(6)


翌日、グラファーンたちは朝早く起き、タイモス王に傍聴ぼうちょうを勧められた裁判に出席するために、王立裁判所に向かった。

グラファーンたちが裁判所に到着し傍聴席に座り、だいぶ時間が経ってから、タイモス王が臨席のために現れ、場内の奥まった席に着いた。

そして開廷の宣言とともに、裁判が始まった。

正面中央真向かいの席に裁判官が座り、その左右に陪席裁判官ばいせきさいばんかんが座る。

法廷にはじつに多数の聴衆が詰めかけており、また、見張りの兵士たちがいた。これだけをとってみても、この裁判が国を左右する重要な裁判であることが分かる。

やがて、正面手前の被告人席に、衛兵たちに連れられて一人の年配の男性がやって来た。

その男は、グリマインという名の天文学者だった。
グリマインが問われた罪は、思想上の犯罪だった。
彼はマーガス国内で著名な天文学者で、マーガスの神への信仰に基づく、公定の教義の中心をなす天動説に公然と異を唱え、地動説を学会で主張したのだ。

被告人宣誓と審問の後、水盤を用いた神判(神意を介した有罪無罪の判定)が試みられた。だが結果が曖昧あいまいだったので、マーガス国独特の方式により、その後暫く裁判官たちだけでの小会議が別室で行われた。しばらくして法廷に戻ってきた彼らにより、その場で判決が言い渡された。

グリマインは本来、焚刑ふんけいに処されるべきところ、臨席していたタイモス王の宥恕ゆうじょを受けた。グリマインは死刑こそ免れたものの、マーガス国の主祭神キュレーン(セレン)とマーガス国、マーガス国王とマーガス国の教会に対する不敬の罪、そして危険思想を流布し国の安全を脅かした反乱の罪で10年間の重禁錮刑じゅうきんこけいに処された。

裁判が終わり、衛兵たちに両腕をつかまれてグリマインが退廷する際、彼は取り乱して大声で何かわめいていたが、それが異国のことばだったので、グラファーンたちはよく分からなかった。

それから王と裁判官たちが退廷し、傍聴人たちも外に出された。グラファーンたちは宿所へ帰された。

グラファーンたちは決して口には出さなかったが、科学に秀でたマーガス国においても、司法の面ではイリスタリアと同じく昔ながらのやり方が残っていることを知り、衝撃を受けていた。

その日の夜、グラファーンたちはみな、早く床についた。



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