見出し画像

小説『ヴァルキーザ』 22章(3)


こうしてエルサンドラ軍の前線基地・ローレリア鉱山は、ライゼルとマーガス、南部都市同盟(イリスタリアの植民都市)、西方にむミリヴォグ族たちが結成した連盟大軍を前に陥落した。

基地に駐留していたエルサンドラ軍は全滅し、本拠からの増援部隊もそのほとんどが討たれた。
北から侵攻してきたそれら敵のうち、生き延びた少数の者たちは、再び北へ敗走していった。

このとき、ローレリアは、晴れてまわしきエルサンドラの手下どもの支配から奪回された。

奴隷にさらわれてきた人々は、すべて開放された。

総司令官のローレットは、逃走したわずかな敵たちを深く追撃はしなかった。
まず、奴隷にされていた人々の心身の回復を優先に考えたうえでの決定だ。

飢えと渇きに苦しんでいる、囚われていた人々に、後方のライゼル市からやって来た市民たちが、パンと料理と水を配って回っている。
傷の痛みにあえぐ人々のために、医者たちも巡回していた。

ライゼルの民兵たちは、空が暗くなってもなお、坑内に取り残された人がいないか見回っている。

奴隷化されていた人々は、ライゼルの市民たちが持ってきた毛布を身にまといながら、もつれた足取りで平原を南に渡り、ライゼル市に向かって歩く。

グラファーンたちは再び、テンスの指揮下で、エルサンドラの配下のドラゴンや黒騎士どもが新たに鉱山を取り戻しにやって来はしないかと、空と陸の境界線を見張っている。

その他の連盟大軍の兵士たちの一部は、鉱山の占領に取りかかった。また別の一部は、陣をさらに北へ進めて、占領部隊を守るように、エルサンドラ軍の反攻に備えて防御体制を整え、おもに北の方向を警戒した。

夜が明けると、連盟大軍の軍人たちとライゼル市民たちは協力して、広野に横たわるおびただしい数の遺体──連盟大軍の兵士たちと、鉱山から逃げてきた奴隷、敵の兵士たち──をその場で埋葬した。
その墓前でライゼル騎士団員たちが列をなして鎮魂歌レクイエムを歌い、兵士や市民たち皆が黙祷もくとうを捧げた。

その後数日間、エルサンドラからの新たな侵攻がないことを確かめた後、ユニオン・シップはテンスの隊を離れることを決めた。

エルサンドラが隠した「自由の宝冠」奪回のため、天幕の中で連盟大軍のリーダーたちと協議したうえで、彼らの了解を得て、エルサンドラの本拠地に向かい北上する旅に出た。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?