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【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

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小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
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2022年6月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』 17章

小説『ヴァルキーザ』 17章

17. 霧の沼

アルフェデの街を発ったユニオン・シップ団は、あたりに濃い霧が立ち込める沼地へさしかかった。

視界は悪く、足元の地面はぬかるみ、湿気のかたまりを吐いている。
毒々しい瘴気が立ち昇る。

沼の中に転ばないように慎重に歩み続け、ユニオン・シップの一団は、道無き道を進んでいった。

突如、ラフィアが叫んだ。
「あれを!」

目の前の沼から、「それ」は現れた。

見ると、霧の中にうごめく

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小説『ヴァルキーザ』 16章(3)

小説『ヴァルキーザ』 16章(3)

力を取り戻したユニオン・シップは、再びその帆を上げた。

彼らは、そのときアルフェデの廃墟に襲来してきた黒僧侶のビショップを団結して斥けた。

その後、ユニオン・シップの組合員たちは円陣を組み、内側にそれぞれの右手を差し出し、重ね合わせた。

そして皆が、うなずく。

彼らは、組合結成時の誓いの言葉を思い出したのだ。

「われわれは、常に誠実に…」

団員たちが、ひとりひとり、言葉を継いで口にして

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小説『ヴァルキーザ』 16章(2)

小説『ヴァルキーザ』 16章(2)

冒険者たちは、アルフェデの街の復興のために日夜働き、とうとうその力を使い果たしてしまった。みな、体力も精神力もまさに尽きようとしていた。

「頑張ってきましたが、ここが限界のようです」
アム=ガルンが膝をつく。

「この先、旅を続ける力はもう、残っていない」
エルハンストもくずおれる。

「みんな、これが最期か…」
グラファーンも倒れ伏す。

冒険者たちは皆、ここで死ぬ覚悟をした。

空は薄暮とな

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小説『ヴァルキーザ』 16章(1)

小説『ヴァルキーザ』 16章(1)

16. アルフェデ水彩画のように透き通る景色の中、遠く奥の方から差す一条の陽光に浮かび上がるようにして、幻の街・アルフェデは有った。

真昼の白い雲の下、グラファーンたちは、シャイニング・ロードに囲まれたその街に入っていった。

通りを行く人の影はまばらだ。街の中央広場に向かうと、広場の中心に人々が集まって、力を合わせて、何か高い柱を立てているところだった。

それは木製の円柱で、装飾が施されてお

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小説『ヴァルキーザ』 15章(3)

小説『ヴァルキーザ』 15章(3)

野営中の深夜、不意に冒険者たちはみな、何かの気配を感じ、目が覚めて起き上がった。

見張りのグラファーンは、みなに警戒を呼びかける。

突如、暗闇の中から何者かの影が現れ、冒険者たちに向けて、魔力を帯びた強い声を放った。

それは、馬の鋭いいななきに似ていた。
その高音の叫びは、聞いた者を恐怖に陥れた。

エルハンストやアム=ガルン、ゼラは恐怖に飲み込まれ、意識を失った。
そして、魔法の眠りの中で

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小説『ヴァルキーザ』 15章(2)

小説『ヴァルキーザ』 15章(2)

戦いを終えたグラファーンたちは、妖精の奇声に恐怖して逃げた2人の仲間を探し出し、復帰させた。
全員揃った後、野宿に適当な場所を見つけて眠ると、翌日さらに渓谷を南に下って行った。

道の状態は悪く、低木や草の茂みに阻まれ、一団は川べりのわずかな岩地を足場にして、やっとの思いで歩いていた。

渓谷を旅する途中、ずっと空には魔の雲が厚くかかっていた。昼も辺りは薄暗く、時折一団は、雷雨に見舞われることもあ

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小説『ヴァルキーザ』 15章(1)

小説『ヴァルキーザ』 15章(1)

15. 妖精渓谷

暗い闇の中を手探りで、失くした物を捜すかのように道を探りながら、冒険者たちは山の下り道を歩いてゆく。

ルーア人の描いてくれた詳しい地図をたよりに、ひたすら南へ行くと、冒険者たちの一団は、やがて渓谷らしき場所へさしかかった。

「これが、妖精渓谷でしょう」
アム=ガルンがささやく。

夜の帳が下りてから、辺りはいっそう深い闇に沈んでいた。

そこは、6人が横になるには充分に広く

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小説『ヴァルキーザ』 14章(2)

小説『ヴァルキーザ』 14章(2)

雪魔女(スノー・ウィッチ)のミュランが潜むという鍾乳洞を降りて歩いてゆくうちに、冒険者たちは、周囲から放たれる冷気によって少しずつ体力が奪われていっているのに気づき、耐え難くなった。

このまま洞内に長くいては、凍え死んでしまうかもしれない。

団員の僧アム=ガルンが皆に、ここから早めに出ようと提案したとき、誰も反対しなかった。

足を滑らせないよう、床面の岩の路地を踏みしめてゆくと、やがて洞内は

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小説『ヴァルキーザ』 14章(1)

小説『ヴァルキーザ』 14章(1)

14. ミュランの鍾乳洞

バラゴの小屋に一晩泊めてもらったユニオン・シップ団は、その翌朝、バラゴとザッカビー、ディアに見送られて、集落を発った。

そして一団は、バラゴたちから予め情報を得ていた、雪魔女ミュランのいる鍾乳洞のある位置を目指して、尾根伝いに山を進み、降りて行った。
それは登って来たときとは反対側の、西へ向かう方角だった。

白銀の雪に覆われ、固く凍った地を踏みしめながら、冒険者たち

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小説『ヴァルキーザ』 13章(4)

小説『ヴァルキーザ』 13章(4)

テミ・ドーラを訪問したその日の夜、冒険者たちは酋長バラゴのすすめで、集落より少し上った所の尾根へ、星を見に出た。

澄んだ夜の空に散らばり輝く銀河の星々は、静かに、冷え冷えとした光を放っている。

星の光は、常に透明で冷たい空気によって、遮られることなく、空を観る者たちの瞳にちらちらと映えている。

皆、ただじっと静かに星を眺めている。

つと、冒険者たちの間から2人の人影が前へ進み出る。司祭アム

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