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小説『ヴァルキーザ』 16章(1)

16. アルフェデ

水彩画すいさいがのようにき通る景色けしきの中、遠く奥の方から差す一条の陽光に浮かび上がるようにして、幻のまち・アルフェデは有った。

真昼の白い雲の下、グラファーンたちは、シャイニング・ロードに囲まれたその街に入っていった。

通りを行く人のかげはまばらだ。街の中央広場に向かうと、広場の中心に人々が集まって、力を合わせて、何か高い柱を立てているところだった。

それは木製の円柱で、装飾そうしょくほどこされており、祭礼用のものらしい。周りの住民たちもそろいの礼服で着飾っており、若い男女がほとんどだった。住民の皆は力を出し合って柱の頂上に巻かれ、下へ伸びている何本ものつなを引き、柱を地面の小さくへこんだくぼみにはめ入れ、地面に垂直すいちょくに固定しようとしている。

柱を立て終わると、皆は並んでそれを見ているユニオン・シップの前で綱を手に取って、笑って歌をうたった。彼らは唄いながら、柱の周りをめぐるように歩き、陽気にダンスをした。しばらく後に祭りは終わった。

長い昼の後、いつの間にか夕暮れ時がせまっていた。

グラファーンたちが街の人々に話を聞いてみると、このアルフェデの住民たちは皆、時間の流れのよどんだ世界に住んでいるのだという。

「ここは『時のぐ街』とも呼ばれています」
住民の男性、コーブランが教えてくれた。

次いで、シムリスという女性が話す。
「アルフェデは昔、信仰を失ったため街をおそった恐ろしい流行はやり病(ペスト)によって、ほとんどの住民がほろんでしまいました。しかし、慈悲じひあまねき神のおはからいによって、私たちは許されて、滅びる前の時の世界に留め置かれ、時の流れをせき止めてもらいました。それで、こうして生き続けていられるのです。ですが、間もなく終わりの時がやって来ます。そうしたら、私たちは街と一緒にまぼろしと共に消え去ってしまうでしょう」

冒険者たちはおどろいて、返す言葉もない。

コーブランとシムリスは、冒険者たちに頼んだ。

「お願いがあります。アルフェデは今夜、消えて無くなります。そうしたら街は、疫病えきびょうにまみれた廃墟はいきょに戻ってしまいます。そのとき、あなた方に、いま私たちの街の者が力を合わせたように力を合わせて、街の片付けと、私たちの供養くようをしていただきたいのです。どうか、お願いできませんでしょうか?」

冒険者たちは、ただうなずいて引き受けるより他は無かった。

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