小説『ヴァルキーザ』 17章

17. 霧きりの沼

アルフェデの街を発ったユニオン・シップ団は、あたりに濃こい霧が立ち込める沼地へさしかかった。

視界は悪く、足元の地面はぬかるみ、湿気しっけのかたまりを吐いている。
毒々しい瘴気しょうきが立ち昇る。

沼の中に転ばないように慎重しんちょうに歩み続け、ユニオン・シップの一団は、道無き道を進んでいった。

突如、ラフィアが叫んだ。
「あれを！」

目の前の沼から、「それ」は現れた。

見ると、霧の中にうごめく巨大な怪物の影かげが映っている。

そのモンスターは、今まで見たこともないような奇怪な形態フォルムを浮かび上がらせていた。

8つの長く巨大な蛇のような首が、ひとつの巨大な楕円形だえんけいの胴体どうたいから生えている。胴の反対側からは、平たく広いひとつの尾が長く伸びている。

「八頭水竜(ハイドロワーム)」という化け物だ。
その大きさは、成長したヒグマの4倍はある。
それは、この「霧の沼」の主ぬしで、「ワイダー」とも呼ばれている。

ハイドロワームはしゅうしゅう声を上げ、16個の眼でユニオン・シップを睨にらみつける。

しかし、らんらんと輝く赤い眼を持つその巨大なフォノン(宇宙精霊) は、力を取り戻し再び団結した冒険者たちの敵ではなかった。

ワイダーの、その異形いぎょうの姿を目の当たりにしたものの、冒険者たちは、強い意志の力で恐怖を払い退けた。

獲物えものを認識したワイダーが襲おそいかかってくる。

おしよせてくる蛇どもの首のひとつをエルハンストが戦斧せんぷではね飛ばすと、その傷口から、すぐに新しい頭が生えてきた。

ラフィアが短弓で怪物の大きな眼を射ると、またたくまに、そのつぶれた眼は治った。

そこでグラファーンが水竜の胴体を「魔法弾撃マジックブラスト」のメディアス(魔法)で攻撃すると、その魔法光弾の威力いりょくによる怪我けがも、みるみるうちに治っていくのが分かった。

ゼラが「竜火炎ドラゴンブレス」のメディアスを唱え、長く伸びる火炎放射を竜の胴に撃つと、それによる火傷やけどは治らなかった。

そこでゼラは再び、同じ箇所かしょに向けてドラゴンブレスを放つ。

迸ほとばしる熱い火炎の帯が水竜の身体を焼いた。炎で大火傷を負った八頭の水竜ワイダーは、苦痛に身をよじり、踵きびすを返して沼の水の中に逃げていった。

ユニオン・シップはハイドロワームに勝利した！

冒険者たちはさらに先を歩いてゆき、やがて沼地から出ることができた。