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小説『ヴァルキーザ』 15章(1)

15. 妖精渓谷ようせいけいこく

暗いやみの中を手探りで、失くした物をさがすかのように道をさぐりながら、冒険者ぼうけんしゃたちは山の下り道を歩いてゆく。

ルーア人のいてくれたくわしい地図をたよりに、ひたすら南へ行くと、冒険者たちの一団は、やがて渓谷けいこくらしき場所へさしかかった。

「これが、妖精渓谷でしょう」
アム=ガルンがささやく。

夜のとばりが下りてから、あたりはいっそう深い闇に沈んでいた。

そこは、6人が横になるには充分じゅうぶんに広くなかったので、野営やえいをするのにもっとてきした場所を求めて、道をらす灯火とうかの数を増やし、一団は先へ歩みを進めた。

不意に、一団は、闇夜やみよのなかで騒々そうぞうしい物音を立てる怪物の一群に遭遇そうぐうした。

青白く、ほの明るい、何か人間の小指ほどの大きさのものが、ウンカのように群れをなして、やや遠く左前方に現れ、なにか聞くにえない奇声きせいびせてきた。

底知れぬ闇の深淵しんえんから、その、得体えたいの知れない物の怪もののけの発する、けたたましく、かん高い声が虚空こくうひびき渡る。

妖怪の言葉なので、何を言っているのか分からない。

その奇声は、子供の幽霊ゆうれいのようで、また悪意に満ちているように感じられる。それらが冒険者たちに向けられたものか、それともひとり言の叫びなのか、それとも魔法の呪文なのか、区別がつかなかった。

「気をつけろ!」
グラファーンは仲間たちに向かって叫んだ。

彼はかつておさない時、トルダードのまちの家で母マックリュートから聞いた伝説を思い出した。
闇にひそんで集団で旅人をおそう妖精たちがおり、その叫び声は、聞く者に心の底からの恐怖きょうふを及ぼすと言われている。

「やつらは、バンシーだ!」

「何だって⁉︎」
彼女たちのけるような大声に負けまいと、エルハンストが大声で聞き返す。

「やつらは妖精だ! やつらの声を聞くな!」
グラファーンは耳をふさいで、エルハンストに怒鳴どなった。

しかし、エルハンストとラフィアは、妖精の恐ろしい声に心をまれた。 2人は錯乱さくらんしたかのようになって、その場から脱兎だっとのごとく逃げ去った。

イオリィとゼラ、そしてアム=ガルンは持ちこたえている。

「妖精なら!」
アム=ガルンが奇声のする方へ向けて、鋼鉄はがねの持ち物を2つ取り出し、勢いよく打ち鳴らしてみせた。

鋼鉄のにぶい金属音が鳴り響く。

すると、その音に驚いたのか、妖精の奇声はかなり弱まっていった。
妖精は、鋼鉄のものを嫌うのだ。

グラファーンはその間に体勢を立て直し、魔法弾撃マジック・ブラストの呪文をバンシーたちの群れに向けて放った。

魔法の光弾こうだんを放り込まれると、人を嘲笑あざわらうかのような彼女たちの奇声は、痛手を受けた者の叫びに変わった。

さらにゼラが、より強力なダメージをもたらす雷撃ライトニングの魔法を放つと、雷の直撃を受けたバンシーたちの群れは、ぎゃっと悲鳴を上げ、消散した。

冒険者たちは、バンシーを退けることに成功した。


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