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小説『ヴァルキーザ』 15章(2)


戦いを終えたグラファーンたちは、妖精ようせいの奇声に恐怖して逃げた2人の仲間を探し出し、復帰ふっきさせた。
全員そろった後、野宿に適当な場所を見つけて眠ると、翌日さらに渓谷けいこくを南に下って行った。

道の状態は悪く、低木や草のしげみにはばまれ、一団は川べりのわずかな岩地を足場にして、やっとの思いで歩いていた。

渓谷を旅する途中、ずっと空には魔の雲が厚くかかっていた。昼も辺りは薄暗うすぐらく、時折一団は、雷雨に見舞われることもあった。

この巨大な魔の雲を巻き起こしているのが、エルサンドラという悪魔の仕業であることを知った冒険者たちは全員、その悪魔の強大さに圧倒されていた。
エルサンドラというその存在は、皆の心に暗く重くのしかかっていた。

今までの旅の疲れが出てきたのか、冒険者ぼうけんしゃたちはみな何も言わず、だまったまま歩き続けている。
雲の魔力のせいか、皆の心は次第にすさんでいき、重苦しい雰囲気ふんいきになっていく。

やがて皆の不満が爆発ばくはつした。

きっかけは、ささいなことからだった。
団の皆に食事の給仕きゅうじをしていたイオリィに、エルハンストが文句を言ったのだ。

「イオリィ、おれの分が少ないぞ!」

「そんなことないわよ、エルハンスト」

「他の皆は、もっとあるじゃないか! なあ、誤魔化ごまかさないで、もう少しよこしてくれ」

「誤魔化してなんかないわよ!」

「そんな、馬鹿ばか言うな!」

「馬鹿とは何よ!」

「お前なぁ!!」

「馬鹿はあなたよ!!」

この口喧嘩くちげんかは、他の全ての者を巻き込み、団を二分する大きな対立へとエスカレートしてしまった。

エルハンストの分け前が他の団員と比べて少ないかどうかは、微妙びみょうな感じだったのだが…

「イオリィ、こんな分け方、ひどいよ!」
ラフィアがエルハンストのかたを持ち、なじる。

「ラフィア、それは言い過ぎです、人の奉仕ほうしけちをつけるべきではありません!」
アム=ガルンが思わず声を荒げる。

「みんな、もっと冷静になりなさい!」
ゼラは苛立いらだちを隠さず、皆を叱咤しったする。

「ゼラ、もう少しおだやかに言った方が…」
グラファーンが当惑とうわくする。

仲間割れの危機に、リーダーのグラファーンは上手く対処できなかった。
誰もが自分の考えと思いにこだわって、相手を思いる余裕もなかった。
みな仲違なかたがいしてバラバラになり、一団は、解散の危機におちいった。

「どうして、どうしてなの? いままで、みんなで食べものを同じように分け合って…仲良く分け合っていたじゃない?」
イオリィは泣いている。

このような成り行きから、皆、互いにこの場で別れ、散り散りになるべきかどうか考え始めた。

まずいことに、そのときまた、夜のとばりが下りてきた。
闇に乗じて、恐怖の化物が再び現れるかもしれない。
だが、それに協同の力で対処するには、皆の心はあまりにも不一致ふいっちになってしまっていた。

そしてまた、もめ事が起きた。

ユニオン・シップ団の組合規約では、女性と年少者には、野宿の際の夜の見張り番はさせないことになっていた。だが、これによって利益を受けるイオリィやラフィア、ゼラに対してグラファーンがつい、不満を口にしたのだ。

その場はアム=ガルンがグラファーンを説得せっとくして、何とかおさまったが、皆の心の間にまた亀裂きれつが入ったのは、やむを得ない成り行きだった。

野宿は何とか運び、グラファーンが深夜の見張り番を担当することになった。

この晩にも、危機は容赦ようしゃなく訪れた。

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