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気象予報士さんに聞いた、海で気をつけるべき雨と雷と風の話/海のお天気教室note版

「大気が不安定なので、注意しましょう」は雷の合図だと知っていますか?

知らなかった方……はい、私もその一人です。

雨が降ったら遊泳禁止」、「雷が鳴ったら海を出て避難」などのほか、「雨水は冷たい」といったピンポイントの知識しか持っていないことに気付いた私たち海のそなえ事務局。

「具体的かつ実践的な海の情報を届けねばならぬ!」ということで、気象予報士であり、サイエンスライターであり、2児のママである今井明子さんに突撃Zoom取材をさせていただきました。

今回は、海の天気の意外と知らない理由や背景、必ず注意してほしいポイントをご紹介します。みなさんが海へ行く際、とくに役立つ知識になると思うので、ぜひ最後までお読みくださいね。

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今井明子さん
京都大学農学部卒。酒メーカー商品企画や印刷会社営業職などを経て、現在はサイエンスライターとして活躍中。最新著書『こちら、横浜国大「そらの研究室」! 天気と気象の特別授業』(三笠書房)発売中。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師、気象科学館の解説員も務める。


雨の話「雨が降った翌日、近くに川がある海水浴場は要注意」

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―雨が降った後、海にはどんな変化がありますか?

今井:
雨は海や周辺の山へ降り注ぎます。山に降った雨は川に流れ、やがて海へたどり着きます。そこで注意してほしいのが川の水。多くの場合、大雨によって川から流れてくる水は濁っています。その濁流が海へ流れこんでくるため、海も濁りやすくなるんです。

木やゴミが入り込んでいる可能性もあるので、泳ぐ時は注意しなければいけないし、濁っていると何かあった時に気づきにくくなりますね。

ですので、海水浴場の近くに川がある場合、大雨の翌日に泳ぎに行くのは注意が必要です。晴れていても、できることなら控えた方が無難です。

また空から落ちてくる雨は冷たいので、雨のあとは浅い場所の水温が低下します。泳いでいた場合は、陸にあがって体をあたためましょう。

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雨の注意ポイント
・浅い場所は海水温が下がるので、陸にあがって体を温めるのが良い
・海水浴場の近くに川がある場合は、大雨の翌日は泳ぐのを控える


雷の話「海はどこにいても落雷の危険性アリ」

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―雷の音が聞こえたら避難した方が良いと聞きますが、なぜですか?

今井:
雷の雲というのは、水平の直径が数キロ~十数キロ程度なんですね。なので、頭の上に真っ黒な雲があれば、遠くでゴロゴロ音が聞こえたとしても、次の瞬間、頭の上から雷が落ちる可能性があります

よく、ピカッと光ってから音が聞こえるまでの時間で距離を判断する人がいますが、誤った認識です。どこかで光ったら、次は自分に落ちるかもしれないと思っておいた方が賢明ですね。

―驚きの事実です……。今までずっと秒数を測っていました……。では、海に雷が落ちやすい理由や、落ちるとどうなるのかを教えてください。

今井:
雷は基本的に高いところに落ちます
。広くて平坦な場所だと、少しでも高さがあれば落ちますね。海は広く、周りに高いものが少ないので、海の中にいれば潜り続けていない限り人に落ちやすいのです。また、海は塩を含んだ水。電気が伝わりやすい特徴もあります。

海に落雷した時は、泳いでいた人に雷の電気が伝わったり、浜辺にいる人が感電したりすることもあって、かなり危険です。

雷にあたると多くの場合が、呼吸停止や心肺停止で死亡。死亡に至らなくても、意識を失う、火傷を負う、体の麻痺、難聴や耳鳴りなどの症状が起きる……、と本当に危いんです。

ちなみに、金属をつけているから危ない、長靴を履いているから安全などは全く関係ないんですよ。長靴くらいのゴムならば、雷はなんなく通します。

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―海にいて雷の音が聞こえてきた時は、どのように避難したら良いのでしょうか?

今井:
とにかく海から離れて、鉄筋コンクリート製の建物や木造建築物の中に入ること。ただし、建物の軒先ではいけません。軒先だと、建物に落ちた雷が外壁をつたって地面に落ちていく時にそばにいる人間の体を通るので、感電してしまいます。また、同様の理由であずま屋のような屋根や柱だけの建物や、掘っ立て小屋、テントも危険です。

建物以外だと車の中でもOKです。ただし窓やドアなどを触っていると感電するので要注意。お子さんにも触らないように教えてあげてください。

もし、近くにどうしても建物がない場合は、頭をなるべく低くしてしゃがむと、人体への影響を最小限に抑えることができます。ただし、腹ばいの姿勢は近くに雷が落ちた際に心臓に電気が走る恐れが高いため、おすすめできません。

―雷音が聞こえる以外に、雷の予兆やサインがあれば教えていただきたいです!

今井:
出かける前に天気予報をチェックしましょう。「大気の状態が不安定です」と予報されていたら雷が発生しやすい天気です。

そのほか、海で以下を感じたら雷のことを意識してください。
・空が急に暗くなる
・どこからかゴロゴロ音が聞こえる
・急にひんやりした風が吹いてくる

また、スマホで簡単に天気の状況をチェックできるサイトやアプリがたくさんあるので、インストールしておくのもひとつの手。

私がよく使うサイトは気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」です。雨雲がどこにあって、今後どのように進むかが分かりやすくなっています。雨雲の位置、雨雲の今後30分の動き、雷の落雷状況などがわかるようになっています。

例えば、左端のボタン「雨雲の状況」と左から2番目のボタン「30分後までの強い雨の降水範囲」をおすと……

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※気象庁「雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト)」ページを元に操作方法を加工。(https://www.jma.go.jp/jp/highresorad/)/株式会社 都恋堂 作成

雨の降っている場所や強さが色別に表示され、黄色い線で強い雨を降らす範囲が今後どうなるかが表示されます。黄色線(太)は現在の場所、黄色線(細)は今後30分後の動きです。

そのほか、左から3番目のボタンは竜巻や雷が発生する可能性がある場所、左から4番目は雷が発生している場所を示します。

もしも自分がいる海水浴場に、今後強い雨をもたらす雨雲がやってきそうであれば、避難の準備をしましょう。気象庁以外にも、ウェザーニューズ日本気象協会などの大手気象会社から発信されている情報には、雨雲の位置がわかるレーダー画像が公開されているので、ぜひ活用してくださいね。

雷の注意ポイント
・天気予報で「大気の状態が不安定」というワードがないかを確認
・ゴロゴロ音が聞こえたら海から離れ、建物に入るか車に乗る
・「急に暗くなる」、「冷たい風が吹いてくる」は雷サイン
・天気予報サイト、アプリで雨雲の位置をチェック
(高解像度降水ナウキャストなど)


風の話「風の向きや強さ、台風のうねり、大潮、波と関わる要素が多数」

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―波が高くなったり、潮の流れが変わったりするような天気を教えてください。

今井:
波は風の状態が大きく関係
しています。風の向きや大きさによって、海が荒れたり凪いだり、高さも変わってきますね。

例えば気圧配置の関係で沖から海岸へ風が吹いている場合は、もともと海風が昼に吹くこともあって、より風が強くなりやすいです。風が強くなれば、風によって発生する波も高くなります。このような風によって発生する波のことを「風浪(ふうろう)」といいます。

一方で、気圧配置の関係で吹く風が海岸から沖に向かう方向の場合は、波がおだやかな時が多いです。これは、風が陸地でさえぎられることでやや弱まったり、昼に吹く海風によってある程度打ち消されたりするからです。

ただし、海で泳ぐことを考えると、海岸から沖へ向かう風で遊泳中に流されることもあるので、とにかく風が強い時は泳ぐのを避けた方が良いでしょう。

また、波は台風の影響を受けやすいため、夏〜秋は“うねり”に注意してほしいです。台風が発生すると、猛烈な風によって大きな波がつくられます。その波は“うねり(土用波)”となって、離れた海岸などに伝わることがあるのです。

沖縄の方にある台風のうねりが、神奈川県まで到達することもあります。たとえ晴れていたとしても、うねりによって波が高くなることがあるため、天気予報では“波浪”の状況にも意識を向けてみてください。

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―波浪注意報と波浪警報の違いはなんなのでしょうか?

今井:
気象庁で公表している波浪の基準では、1mを超えるものは「多少波がある」、1.25〜2.5mは「波が高い」などに分けられています。

お住まいの地域によって注意報や警報の基準が異なるのですが、波浪警報や注意報が出ていたら、海へ行くのは控えた方が良いでしょう。

天気予報の「波の高さ」や「マリンレジャー予報」などを確認し、海の状況を事前に調べてくださいね。

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出典:気象庁 波浪表(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/harou.html
※キャプチャー画像を使用

―風や台風以外で、波に影響が出ることはありますか?

今井:
大潮も波の高さに関係してきます。
海面の水位(潮位)は半日周期で変化をしていて、月が地球に及ぼす引力や地球が自転することで生まれる遠心力の関係で、海岸では1日に2回ずつ、干潮や満潮といった現象が起こります

そして、干潮や満潮の中で1日の潮位差が大きくなる時期を大潮と呼びます。新月や満月の時期が大潮にあたります。逆に上弦の月や下弦の月の頃は、潮位差が少ない時期で小潮と呼ばれます。

大潮の調べ方はいろいろな天気予報のサイトなどで調べられるので、一度チェックしてみてください。気象庁でも、場所や時期を入力すると検索できるようになっています。

■気象庁 潮位表https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/tide/suisan/index.php

場所によって元々の潮位が異なるので、お出かけの際に一度調べてみてくださいね。

風の注意ポイント!
・“波浪警報”、“波浪注意報”の時は海へ行くのを控える
・晴れていても風浪や“うねり”で波が高いことがある
・大潮の時期はカレンダーでチェック!元々の潮位が高いことも

出典:
気象庁ホームページ 雨雲の動き 高解像度降水ナウキャスト
https://www.jma.go.jp/jp/highresorad/

気象庁ホームページ 潮位表
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/tide/suisan/index.php

気象庁ホームページ 波浪表
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/harou.html


編集部より

子どもと海へ行く際に気になる、雨、雷、風の3大トピックを今井さんに伺いました。今井さん、お時間をいただきありがとうございました!

雷パートでは編集部一同「まさか……」と衝撃を受けることばかりでした。個人的に長靴は防御アイテムのひとつだと思っていましたし、ピカッと光った後は必ず秒数を数えて「まだ遠いから大丈夫!」と安心を得ていた今までの人生……。危ない橋でしたね。

今日から情報をアップデートして天気と向き合います。みなさんも、海へ行く際は、ぜひ今回の内容を参考にして、お子さんと楽しく安全に過ごしてくださいね。

リアルなパパママからの疑問にお答えした記事も公開予定なので、更新をお楽しみに!(アカウントをフォローいただくと、公開後すぐにお読みいただけるかも……!プチ宣伝でした)

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