「ネット情報の海に溺れないための学び方入門」第5回「鬼に金棒」の図書館活用術(その3)本

今回は、自分の悩みを解決するカギになる一冊の本に出逢う方法について、同じように「運命の相手」を探し求める、「婚活」を例にして考えてみましょう。

もちろん、本は「数の限りなく縁を結べる」等の違いも多いですが、あくまでも例え話ですので、どうかご容赦ください。

図書館で本を探す人の多くは、キーワードで蔵書を検索した結果を上から順に眺め、よさそうな本を何点かメモして本棚に向かうでしょう。
それも一つの方法ですが、「網羅性(探す範囲の広さ)」と「適合性(理想の条件を満たせるか)」の両面において、万全とは言えません。具体的な弱点として、主に3つが挙げられます。
1.その図書館にある本にしか出逢えない
2.たまたま思い付いたキーワードを含んだ本しか探せない
3.海外の本は見つけづらい

これらの弱点を「婚活」に置き換えると、以下のような理由で、良縁を見逃しかねません。
1.は、地元や勤め先のような「小さな集団」の中だけで探している
2.は、理想の条件が上手く伝わっていない
3.は、外国人の存在に目が向いていない

それでは、解決策を順に考えていきましょう。
まず1.の探す範囲の広さについてです。公立図書館の蔵書データベースは、その館に加えて市区町村内(広くても都道府県内)くらいまでを対象としています(学校や大学の図書館も自校のみ)。
日本国内では年間7万点もの本が新しく発行されますが、たまたま購入していなれば見つかりません。

そこで「Webcat Plus」(国立情報学研究所)というデータベースを使えば、日本で流通するほとんどの本を探せます < http://webcatplus.nii.ac.jp/ > 。捜査網が全国に広がるだけでなく、「江戸の和本から今週の新刊書まで、あらゆる本の情報を集めています」という説明の通り、時間軸においても広がります。遥か昔に生きた人々からも知見が得られるので、学びの世界では、過去さえも出逢いの対象なのです。

また、国内で発行されたすべての出版物は、国立国会図書館に納入することが義務づけられています。そこで「国立国会図書館オンライン」 < https://ndlonline.ndl.go.jp/ > を使えば、同館の所蔵資料を探せます。さらに「国立国会図書館サーチ」 < http://iss.ndl.go.jp/ > を使えば、全国の公共図書館、公文書館、美術館や学術研究機関等を統合的に検索できます。
また、「カーリル」(株式会社カーリル) < https://calil.jp/ > は全国7,200以上の図書館のリアルタイム貸出状況まで分かり、興味ある本が見つかったときは、直接ここから地元の図書館サイトに飛んで、貸出予約まで可能です。
なお、その図書館にない場合、近隣の市からの取り寄せや購入がリクエストできることが多いので、ぜひ相談してみてください。

次に、2.のキーワードについて考えましょう。図書館の蔵書データベースは、本のタイトルや件名(扱うテーマや分野)に加え、図書館によっては目次・あらすじ情報までも対象としています。
これらのデータに検索語が含まれていればヒットしますが、たまたま自分の頭に思い浮かんだ言葉は、その課題を表す「一つの言い方」に過ぎません。もしも著者が別の言葉を使っていれば、検索できずに見逃してしまいます。

そこで、類語辞典を使えば、さまざまな言い換え方が探せます。『使い方の分かる 類語例解辞典 新装版』(小学館)を収録した「goo類語辞書」 < https://dictionary.goo.ne.jp/thsrs/ > 等、無料で使えるオンライン版も便利です。
たとえば「探究」という言葉であればも、調査・討究・講究・研究・攻究・考究・究明・リサーチ等、当初の発想にはなかった言葉であらためて検索すれば、違った結果が示されます。ふだんの仕事や生活でも、類語辞典でより的確な言葉を探す癖をつければ、語彙の選択肢が増えます。

また、先ほどの「Webcat Plus」には「一致検索」に加えて「連想検索」という選択肢があり、これは「文書と文書の言葉の重なり具合をもとに、ある文書(検索条件)に近い文書(検索結果)を探し出す検索技術」で、嬉しいことに、必ずしも検索語と一致しなくても、関連性の高い本を探し出してくれます < http://webcatplus.nii.ac.jp/faq_002.html > 。

もしも縁結びが、仲介する方の「真の理想条件を忖度する腕前」に左右されるとすれば、こうして「言葉にない意図」までも含めて探してくれる機能は、心強い味方となります。

こうして、解決のカギとなる一冊の本に出逢ったならば、巻末の参考文献・引用文献リストからも、芋づる式に関連する良書が見つかります。また、同じようにデータベースの検索結果画面もよく見てみましょう。
「著者名」をクリックすれば著作一覧が表示できるのは予想通りでしょうが、本のテーマを示す「件名」からも同分野の本のリストを開けるなど、その一冊を足掛かりにして、無限の「知の冒険の旅」が始まります。

さらに、図書館自体にも「類似分野の本に出逢える、アナログながら素敵な仕組み」があります。ある一冊を取りに行った際に、ふと見渡すと近くの棚の本も参考になった経験はありませんか?
これは本をテーマ順に並べるための「日本十進分類法(NDC)」が、似た分野が近くなるように工夫されているためです。
今年はコロナ禍の夏で、なかなか海水浴にも行けませんが、筆者はときおり図書館や書店などの「本棚の海」を隅々まで歩き回り、自分でさえも未知であった興味関心の可能性に気づく「知の遊泳」を楽しんでいます。

最後に、3.の海外の本については、日本語の本に比べると極めて少ないため図書館の蔵書検索だけではどうしても見落としが多くなります。そこで「Worldcat」(OCLC) < https://www.worldcat.org/ > を使えば、世界各国の主要図書館・研究機関の協力により、なんと20億件以上の図書館資料を探すことができ、出逢いの可能性は世界に広がります。

ここまで解決のカギとなる一冊に出逢う方法を説明してきましたが、本はあくまでも広い読者を想定した基礎情報であり、その課題に鋭く特化した最新の情報までは載っていません。つまり本だけでは、まるで指と指が赤い糸で結ばれていたような「運命の相手」を、まだ見逃しているのです。
そこで次回は、さらに一歩踏み込んで、専門雑誌に載った記事・論文を探す方法について紹介します。

(続きはこちら)
第6回:「鬼に金棒」の図書館活用術(その4)専門雑誌とオープンアクセス

※この連載が、大幅な加筆のうえ書籍化され、
岩波ジュニア新書から
「ネット情報におぼれない学び方」として刊行されました。https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b619889.html

[筆者の横顔]

梅澤貴典(うめざわ・たかのり)中央大学職員。1997年から現職。2001~2008年理工学部図書館で電子図書館化と学術情報リテラシー教育を担当。2013年度から都留文科大学非常勤講師を兼任(「アカデミック・スキルズ」・「図書館情報技術論」担当)。2012~2016年東京農業大学大学院非常勤講師(「情報処理・文献検索」担当)。主な論文は「オープンアクセス時代の学術情報リテラシー教育担当者に求められるスキル」 (『大学図書館研究』 (105) 2017年)等。

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