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東京の川は暗闇の中でキラキラ輝く

「この街がすきだな」と思ったのは、初めてひとり暮らしをしたときだった。

毎日家から駅まで歩いて帰る道のりには、川を渡る必要があった。

昼間に見ると水は濁り、若干の臭気を放つその川も、夜に見ると街の光がキラキラと反射し、不思議なぐらい美しく見えた。仕事で失敗したときも、恋愛がうまくいかないときも、夜に見る川はただ静かで、暗闇の中に光が満ちていた。

転職と共に引っ越しをしたため、その街に住んだのはわずか2年ほど。毎日会社帰りに眺めた夜の川と、当時の仕事や恋、友人の記憶。2年間という限られた期間だったからこそ、記憶はくっきりとした鮮明さを残している。

それから数年が経ち、私はカナダのバンクーバーにいた。年齢制限はあるが誰でも取得できる、通称ワーキングホリデービザを取得した。1年間という限られた時間の中で、私はバンクーバーという街が大好きになった。カナダ人もアジア人も欧米人もさまざまな人種が生活している街はコンパクトで、海や山や湖といった豊かな自然にもすぐにアクセスできた。カナダというと、寒いのでしょう、と言われがちだが、東海岸の方に位置するトロントとは異なり、西海岸寄りのバンクーバーは東京よりもやや寒い程度だ。何よりカラッと晴れて夜まで明るい夏の記憶が鮮明で、私の中で寒い冬の記憶を打ち消してしまった。

バンクーバーから帰国して、もうすぐ丸3年が経つ。帰国後立ち上げたアンダーウェアブランドは、昨年のリリースから半年以上が経った。大好きだったバンクーバーの街の記憶は薄れつつある。

東京に生まれ、東京で育った私にとって、今住んでいる街は紛れもなく私の愛すべきホームタウンである。東京の街が好きか、と問われれば、すき、と答えるけれど、何の混じり気もなく「この街がすき」といえるピュアさを見つけられない。外から見たら魅力的に見えるであろう部分も、中にいる者にとっては良くも悪くも慣れ親しんだものである。同時に、一度外に出たからこそ、他と比べて思うこともある。

街も、人も、近すぎるとその魅力が見えづらくなることがある。カラッと「すき」と言える関係性でいたいけれど、過ごした時間が水を吸ったスポンジのようにしっとりと重みを与える。

すきな街で、すきなことをして、すきな時間を過ごすこと。

カナダでの生活を通して初めて、「どこで過ごすか」が、いかに人のライフスタイルやマインドに大きく影響しているかを知った。

多様性を大事にする街で生きれば、さまざまな人の在り方に寛容になる。
環境に配慮する街で暮らせば、ゴミや資源の使い方にも意識的になる。地域活動が活発な街で生活すれば、自然と地域コミュニティに溶け込むようになる。

街をつくるのは人であり、人をつくるのは環境だ。
あなたにとって、私にとって、理想の「この街」はどんな場所だろうか?

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