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日の名残 カズオ・イシグロ ハヤカワepi文庫 土屋 政雄訳

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オススメ度:⭐️⭐️⭐️⭐️ ※4星満点

4星理由:個人的にイシグロ作品で最も好き。主人公の執事にどんどん引き込まれて、クライマックスで抱きしめたくなる。

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ストーリー

時代は第二時世界大戦前後。自らを律して品格を追求し続くた執事はかつて仕えた、女中頭に会いに短い旅にでる。

英国の美しい田園風景の道すがら、長年仕えた卿への敬慕や、尊敬する父、大戦の間に邸内で催された重要な外交会議へ思いを馳せる。

やがて、自らの人生を振り返り、彼は得たものの代償として失ったものに気がつく。そして沈みゆく夕日に涙する。

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こんな人は執事を包み込めます

わかってるよ、もっと自己表現したほうがいいなんてさ。でも誰もが出来ないでしょ。生きるために選択してるんだよ。それが大人の品格でしょ、って方はきっと品格ある執事を温かいココロで受け入れてあげられると思います。

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こんな場所で読んでみて

英国の館。イングリッシュガーデンにある白いベンチ。アールグレイがあるとなおよし。もし、淡い気持ちを寄せる人がいるなら一緒に(゚∀゚)

赤線ポイント

「雇人が過去に他人のために働いついたという印象を与えることも、じつは、あまり好ましくはございません。(中略)私どもの職業につきましても、同様の習慣がございます。    P180

新しく雇主になったアメリカ人が、なぜ本物の由緒ある屋敷で仕えているプロフェッショナルな執事だと言わないのかと、質問された執事スティーブンスの回答だ。

職務に忠実。忠誠心を持ち雇い主に仕える、孤高の職人。一歩下がりあくまで自分は影の存在と律しているのがとてもわかるシーンだ。

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カズオ・イシグロ

漢字表記:石黒 一雄、1954年11月8日 - は、長崎県出身の日系イギリス人作家である。1989年に長編小説『日の名残り』でイギリス最高の文学賞ブッカー賞を受賞した。ロンドン在住。2017年にノーベル文学賞受賞。

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最後に

文体は執事の語り口調で感情を抑制し、理性的だ。

職務を全うし、人と一線を引き、品格ある執事はとは何かを追求したスティーブンスの人柄がとても伝わる素敵な文体。

訳者もきっとそうとう苦労しただろうなぁ。ありがとうございます😊

僕はそんな真面目な執事が、後半になるとギャグを言ってスベったり、反復して練習するところがとても好きだ。

なぜなら、それは彼自身が執事ではない自分を取り戻そうとしているように感じるからだ。

きっとそれは品格ある執事になったときに、失ったものの大きさに気がついたからだと思う。

この物語は、実は人って、偉大なこととか、崇高なことをして世界を動かしているみたいでも、ホントは時の流れからしたらちっぽけだよ。誰も知らないし、忘れてしまう。

日が沈む間近に振り返ると、大切なのは日常にたくさん含まれてる。愛とかギャグとか、なんでもないような瞬間だ!

そんな風な読後感です(*´∇`*)

ちょっと怖い話

スティーブンスの姿を見れば見るほど、僕は警戒心を抱く。ユダヤ人をガス室に効率よく送り続けたアインヒマンを想起してしまうからだ。実直。忠実。職務に自分を合わせる。忠誠心。

ちょうどこの物語の背景の影響もあるかもしれない。








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