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『幻』百年文庫39~12月後半の読書記録

2023年の締めくくりの読書記録が、こんなにセンシティブな本で良いのかと思う気持ちは正直あるのですが、どうしても他の人にも読んでもらいたい…という気持ちになった一篇があるので、紹介させてください。

それは、川端康成の『白い満月』という短編です。

ポプラ社の百年文庫39「幻」に収録。
どうしてもこの文庫を読みたかったのですが、近所の図書館に所蔵されていなかったのでアマゾンで中古本を譲っていただきました。
ひとつの漢字をテーマに、三人の作家の短編が収められています。

装丁も美しいです

「幻」は、川端康成、ヴァージニア・ウルフ、尾崎翠おさきみどりというラインナップ。購入した当初の目的はヴァージニア・ウルフの短編を読みたいと思ったからでした。実は、川端康成と尾崎翠は初読みです。

ウルフの『壁の染み』という短編集…これが目的で買ったのですが…正直よくわかりませんでした。(前回読んだ『自分ひとりの部屋』がいかに読みやすかったかが、際立ってわかりました。)

尾崎翠の『途上にて』。なんとなく中原中也ぽい詩のような世界を感じる。読めなくはないかな…という気持ち。尾崎翠について調べてみると、他の作品のほうが面白そうなので、これから読みたいリストにメモ。

前置きが長くなりましたが、川端康成の『白い満月』。あくまで個人の感想ですが、これがもう、ものすっっっごく良かった。読む人によっては好き嫌いが分かれそうなので、おすすめするのもなんですが…。

文庫本の一番初めに収録されています。
出だしの書きぶりからしてエグイです。

姉のは澄んでいるが、妹の眼は濁っている。妹の眼は彼女が父から受けたらしい悪い遺伝を感じさせる。母は死んでいる。

百年文庫39「幻」6ページ、『白い満月』より引用

この時点で、私は頬をひっぱたかれたような衝撃を受けました。ヒリヒリ痛い。正直に言うと、そこから先の文章に、しばらく目が行かなかった。読書をしていてこういう経験は初めて。

普通に生活していて、こんな文章思いつきますか…?(呆然)

この書き出しの通り、話の最後まで「姉妹、遺伝、家…」というエッセンスが、水底に沈んでいるようにぼんやり暗く感じ取れます。

主人公は肺病を患って田舎で療養する「私(男性)」。
名前を持って登場するのは「私」のお世話係である「お夏」という女性と、主人公の同母(明かされていないがおそらく父が違う)の妹二人。
姉の「八重子」その下の妹「静江」。以上。

多分30分くらいで読める短編なので、日本語の美しさと、川端康成の筆力とエグみのある表現、「私」の抱える鋭い繊細さを友人にして、読書好きさんには一度読んでみてほしいなぁ…と思う作品です。でも本当に好き嫌い分かれそう。「衝撃を受けてもいいくらいには時間があるよ。」っていう方は、どこかで心にとどめておいていただけたら嬉しいです。
(青空文庫で読めるかな…と思ったのですが、権利の関係上、掲載されていませんでした。)

文庫本のあらすじを引用しても良いのですが、ネタバレになりそうなので、私が、個人的に、ぎゅっ…となった表現を引用します。

こんな妄想を夜明けまで続けている私はいつも、「生き得る栄光あれ。」と呟いて、この言葉によって眠りを得ようとするのであるが、やはり私は家がこおろぎの声の底へ沈んでいくような気持で、三角形の底辺がだんだん縮まるように尖って細くなる自分を感じて目覚めているのである。

百年文庫39「幻」77ページ、『白い満月』より引用

やっぱ切り口がエグすぎるよ…。





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