祈り
目を閉じると、心に浮かぶ景色がある。
平成から令和へ。
時代が変わったまさにその日。
北海道の利尻島は、日本晴れだった。
霊峰「利尻富士」を眺めながら、島を一周し、
最後に辿り着いた場所が「姫沼」だった。
針葉樹が生い茂る森の中、
あゆみを進め、視界が開けた先に「姫沼」はある。
沼のほとりに踏み入ると、空気は凜と澄みわたり、風は止み、音は消えた。
水面(みなも)は、穏やかで、鏡のように美しい。
見上げれば、荘厳にそびえ、迫り来たる「利尻富士」。
眼下には、見まごうほどに、水面に映える「逆さ富士」。
この静謐な空間に、ただ、佇む。
時は確かに止まっているのに、陽は傾いていく。
和らかな風が吹き、木々がささやきはじめる。
それでも、悠揚迫らぬのは、寧静の富士。
あの令き日、忘れがたき情景の前で、目を閉じた。
時の旅人を、いざなう先は、何処(いずこ)か。
今、想い巡らせ、心を静めて、時を待つ。
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