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色節の島

人で賑わう5月のフェリー。

デッキの手すりにもたれ、清々しい海の風を頬で受ける。

海は凪。空も凪。

麗らかな日差しが水平線に降り注ぎ、光はさざなみに反射して無数に輝く。

浮き立つ気持ちと裏腹に、目指す島は、ゆっくりと近づいてくる。

新緑に萌える山は笑っていた。

乗客が皆、一斉に手を振る。

「ただいま」の人も、「おじゃまします」の人も。

手を振る先は、高らかに「大漁旗」を掲げた漁船の大集団。

島民総出の出迎えは、フェリーに併走する色鮮やかな漁船群。

風の光にさそわれて、幾重にも連なる極彩色が、紺碧の中に映えわたる。

そう、今日は、「島びらき」。

ここは、新潟県の粟島。日本海に浮かぶ小さな島。

それは春の訪れを祝う日。島がお祭り騒ぎになる日。皆が待ち望んでいた日。

島での出会いを想うと心が色めく。

なぜ、こんなに晴れやかな気持ちになるのかは、皆が知っている。

それは冬があるから。

冬が厳しくなるほど、春は美しい色に染まる。




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