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【ご献本御礼】なにはともあれ『67章』

以下、宣伝を兼ねておりますことご了承ください。(まあ、タイトルでわかる人はすぐわかってしまうと思いますけどね!)

連休前に、明石書店からご献本を賜りました。増刷が決まったとのことです。Xeyirli olsun!

昨今の出版の状況というのはかなり厳しい、という話をいろいろなところから伺っているところ、増刷の吉報が届くというのはうれしいことです。この本の編者はもちろん廣瀬陽子先生(最近メディア媒体で拝見することが非常に増えましたね!)なのですが、私(を含め、多くの方)は上記の本、1章ごとに分担で執筆をした次第です。

そう。不肖私も、要するに同書の一部を担当するという機会を得たのでした。エリア・スタディーズそのものをやっている身ではないのですが、アゼルバイジャン語と文字についての解説を、ということだったので、それならお引き受けできるのではないかと思った次第でした。

当時執筆のお話をいただいたときはアンカラにいたのですが、その分アゼルバイジャンが距離的にも近く、年に1度は訪れていたので気分的にもアゼルバイジャン語のことを話題にしやすかったということも幸いしました。

メールを見返すと、最初に依頼を賜ったのが2016年10月末のこと。そこから出版が2018年3月ですから、大急ぎのお仕事だったことがわかります。編集に携わった方々は大変ご苦労なさったことと思います。原稿を集めるのも大変でしょうからね…。

最初のドラフトを提出したときに、編者の廣瀬先生からトルコ語とよく似ているという話を少しでいいから解説してほしいというご注文をいただいたことをよく覚えています。たとえばトルコ語で…

(1)(トルコ語)
a. tatlı   「甘い」
b. Kız Kalesi「乙女の塔」

という語・語句があるとして、アゼルバイジャン語では

(2) (アゼルバイジャン語)
a. dadlı 「おいしい」(「甘い」ではないことに注目です!)
b. Qız Qalası 「乙女の塔」

のように、清音・濁音の対応関係があるように見えるのだけれど、それはなぜなのか、またなにか法則があるのかを少し書き加えてくれないかというご趣旨でした。

トルコ語とアゼルバイジャン語を聴き比べると、たしかにそこは真っ先に気になるところです。

(3)(トルコ語)
a. kızartmak「焼く」
b. tuz「塩」
c. pişirmek「料理する」

(4) (アゼルバイジャン語)
a. qızartmaq「焼く」
b. duz「塩」
c. bişirmək「料理する」

これらの語を実際に音声としてそれぞれ聞いてみると、アゼルバイジャン語の単語に「濁音」の響きを感じる…ということなのだろうと思います。いや、たしかに。その通りなのですよね。

これは要するに、文法書的な言い方なら「有声音と無声音の対応関係がある」となるわけです。有声音とは「声帯を振動させて出す音」くらいに定義しておくと、

(5)
a. /t/と/d/(歯茎閉鎖音が共通;無声(トルコ語)と有声(アゼルバイジャン語)
b. /k/と/g/(軟口蓋閉鎖音が共通;無声(トルコ語)と有声(アゼルバイジャン語。なお、(4a)のqızartmaqの"q"の部分の音韻が/g/に相当します)
c. /p/と/b/(両唇閉鎖音が共通);無声(トルコ語)と有声(アゼルバイジャン語)

こんな感じの対応関係になるでしょう。ただ、/s/と/z/の対立とか、あるいは/f//v/の両言語間の対立というのはあまりなさそうなところがまた興味深いところではありまして、この辺もう少し私も調べておきたいところではあります。手っ取り早いところでお勧めなのは、次の本の参照でしょうね。

もっともエリア・スタディーズの入門の本で「閉鎖音」とか「軟口蓋」とか「声帯」とか書いてしまってもあまりウケなさそうだよな、ということは考えるわけですね。

できるだけこういったものものしく聞こえそうな用語は回避して、しかしトルコ語との「似て非なる」というテーマについて概説するとなると…ということで、わずか5ページの文量ではあれどけっこう執筆に時間を割いた、そんな思い出があります。

文章というのは往々にして、字数が決まっている案件のほうが難しいということはありますのよね~。


バクーの街並みから(2019年6月撮影)

かようにして個人的な思い入れのある同書ですが、自分の書いたところは別としても、とにかく全体として面白いテーマが満載です。社会情勢・国際情勢から文化、日本との関わりに至るまで、トピックの広さも同書のセールスポイントになっていると思います。

とりわけアゼルバイジャンの動向(ナゴルノ=カラバフの件がよく知られていますね)はロシアが関わる地域の安全保障の状況と密接な関係があるとのこと。ウクライナ情勢ももちろん例外ではない、というお話を例の言語研修の文化講演で廣瀬先生ご自身が強調されていたのは個人的にも記憶に新しいところです。

ということで、世界情勢を知る第一歩として、ぜひアゼルバイジャン、さらにはコーカサスをマークしておきたいところですね。そんな我々の一冊目の入門書として、ぜひお手元に一冊、『アゼルバイジャンを知るための67章』を。オススメです。

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