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フクシマからの報告 2022年冬 原発事故被害地の農業は どれぐらい回復したのか? 福島産米の価格は事故前を上回り 「風評被害」はもはや実在しない  被害地から農業者が激減したことこそ実害

今回のテーマは「福島第一原発事故被害地の農業はどれぐらい回復したのか」である。

福島第一原発事故が起きてから、2022年3月11日でまる11年である。同原発から噴き出した放射性物質が農地や住宅地、工業・港湾地帯に降り注いで建物や土壌を汚染し、10年以上が経過した。

特に汚染の重篤だった同原発から半径20キロ内の地域から、国は住民約9万1,000人を強制避難させた。「住民が全員強制避難」ということは、農業をする人も避難して農地からいなくなる。当然、農業生産は止まる。避難中の6〜7年の間に耕地は荒れた。

この強制避難対象になった区域には11の市町村がある(屋内退避も入れると12)。全体で1292平方キロ。香川県全県の半分くらいの広さがある。

住民が避難している間に政府は「除染」をした。事故後6〜7年経って強制避難を解除した。「除染が済んだので、住民は帰ってよろしい」という意味である。被害地の農業もここから再スタートすることになっていた。

原発事故直後は、現実に放射性物質が土壌や海洋を汚染した事実ゆえに、福島県産品(主に食品)を買い控える消費者が出た。

その後、こうした買い控えや忌避は沈静化したのか。原発事故被害地の農業は回復したのか。回復したのなら、原発事故以前のどのぐらいのレベルまで戻ったのか。それが今回の取材で調べて報告しようと思った点である。

(こうした買い控えを政府や福島県と、政府に好意的な論者は『風評被害』と呼んでいる。が、私はその呼称が妥当とは考えていない。ゆえに本稿では使わない。本文末で詳述する)

これまで、原発事故被害地の人口がどれぐらい回復したのかを調べて本欄で報告した。原発事故後10年の被害地の回復の指標として、もっとも基本的かつ、わかりやすい数字だからだ。

今回の論点「農業はどれぐらい回復したのか」も、原発事故10年後の被害地の回復の指標として重要だと考えた。読者に報告し歴史に記録する必要がある。

今回の報告では、福島県の農漁業産品の代表的な食物としてコメを例に取り上げる。

福島県の農産品の産出額上位は
①コメ(39%)
②野菜(21%)
③畜産(20.9%)
④果実(13.1%)

である(2019年 福島県による『農業産出額』より)。

 産出金額一位、約4割を占めるコメの価格を調べることで、福島県の農業の実態がわかると考えた。

(冒頭の写真は全農福島の施設『美米蔵』(うまいぞう)で出荷を待つ福島県産のコメ。2021年12月20日、福島県会津美里町で筆者撮影)

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