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EXIT兼近大樹 初小説「むき出し」 貧困と正義感からの暴力と、理解力

EXITかねちの初小説、読みました。

月10冊は読むくらい、読書が趣味です。EXITも好きだし。
又吉も好きだし、又吉を尊敬して本を全部読んでるかねちがどんな小説を書くのか見てみたかったし、買いました。

電子で購入なので、もともと少しお安くなっている中、コミックシーモアのハロウィンクーポン20%OFFも使って1200円くらいでした。

まさかの火を焚き付けたところから出版

何がすごいって、今回文藝春秋から出版されていますが、例の報道が出たのが文藝春秋が運営する週刊文春から。
普通、報道出てあんなに嫌な思いしたところから本出しませんよね。
本出す代わりに報道引っ込めた可能性もありますが。(あくまで妄想です)
ここ一番驚きました。


完全に個人の感想であり、解釈も自分なりにだしたものなので、違うと思われることも多々あると思いますが、つらつら感想書いていきます。


まず、良くなかったんじゃないかなと思ったところから。

文体と描写が残念。

小説家のそれではないです。行動や情景・風景の描写が圧倒的に少ない。自分視点で進められていて、この時こう思った、がメイン。
冒頭の、フロアディレクターの爪の描写が良かった(後述)だけに期待してしまいましたが、少し残念でした。後半は特に少ないなと感じました。

他の人の話と、主人公自身の話が混ざる部分があり、これは今誰の話をしているのか、わかりにくい部分がありました。

これは別にいいかなとも思うのですが、文字が少ない。一行ずつ改行していて、この改行必要か?とも思う部分多々ありました。なのでページはわりと白め。よく言えば早く読めます。


自分の語彙の中で、伝えたいこと・気持ちを的確に表現できるものを、上手に選択できていると思いました。

テーマは冒頭から最後までしっかり感じ取れましたし、ずっと主人公の辛さや困惑や伝わってきました。

そのへんの、小説っぽく書いている小説や、テーマは置いといてとにかく物語の雰囲気重視の小説よりは、よっぽど本らしいなと思いました。
文章の構成力がもっとあれば、もっとしっかりした文学になると思われます。

全体的にどこまでが真実なのかフィクションなのかは明かされていないので不明ですが、作者が語っていたエピソードがいくつか被る部分があり、私小説に近いかなと思いました。でもこれカテゴリ的にはエンタメ・ミステリなんですね、文藝春秋さん。



※以下ネタバレ部分極力伏せてはいますが、相当する部分も出てきます。

未読の方は本書を読んでからお進みください。



ハッとした一文でスタート

さて、先程記載した冒頭の爪の部分。ネタバレ少なくしたいので引用極力しないようにしたいのですが、良いなと思ったのでここだけ引用します。


お笑い芸人である主人公のテレビ収録の様子からスタートする本書。
大声でスタートをかける、明るい雰囲気ですが、3行目ではカウントダウンをするフロアディレクターの指先の描写。

爪の先には、黒い垢が溜まっている。

引用「むき出し」(兼近大樹・文藝春秋)

普通のサラリーマン生活では味わえないような、彼らの特殊な苦労がにじみ出ている描写。黒い垢という清潔ではないものから暗い印象を受け、これからの物語の空気を作っていったなと思います。


貧困、暴力…社会問題

主人公の毎日は辛いことばかり。普通に生活ができない程の貧困。
洗濯機は壊れたまま。生活保護を受けない母。そして最近よく耳にするようになった、貧困で生理用ナプキンが買えないという社会問題。そういった表現も見られました。(※ナプキンがないという説明はありませんでしたが、私はそのように解釈しました)

主人公は幼少期、祖父からしつけを超えた過度な暴力を受けていました。
また"貧困家庭の子ども"という目で見られたり、友人とやんちゃをしては、友人が離れていくことを繰り返し、だんだんと自分の気持ちの処理がうまくできなくなってきます。
そして、祖父から受けて辛かったはずの暴力を自分の武器にすることで、社会の中で間違った立ち位置を見つけてしまうのです。

そんな辛い日々の中、家族への愛をあちこちで感じました。作中では、繰り返し母親を気遣う様子が描かれます。両親の離婚でさえも、母親が楽になると思い嬉しかったと書かれ、母親の仕事終わりに迎えにいったり、家計を助けるために働いたり。また妹の誤った行動を、自分のせいだと責めるシーンもありました。

こんな家族思いで優しい行動ができる子が、どうして暴力に走ってしまうのか。
自分が間違った生き方を選んでしまう辛さ、社会に受け入れられない辛さ、自分の正義感から行動していたのに間違っていたと言われてしまう困惑。あちこちから伝わってきました。

間違っていることが理解できない。正そうとする周囲を敵だと認識してしまう。

主人公は、暴力をふるうことが悪いこと、という認識がありませんでした。彼にとって暴力は自分の居場所を作るため、自分を守るための道具でありました。
自分の正義のための暴力でした。教師等からはさんざん社会的に間違っていると指導を受けるも、逆になぜ自分を理解してくれないのかと反抗していました。

年齢を重ねるのつれ、殴りたい衝動を自制できるようになってきましたが、あるときリミットを超えてまた暴力をふるってしまいます。大怪我をした相手の背景を知り、自分のしたことの重大さに気づくのです。


この、誤ったことを理解できないという話、あちこちで見かけました。「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治)や、「御子柴礼司シリーズ」(中山七里)でも出てきます。

「ケーキの切れない非行少年たち」は、少年犯罪を犯した子どもたちに関わる精神科医が執筆した新書です。少年たちは軽度の知的障害があるため理解力・想像力が乏しく、犯罪を犯した自分たちの何が悪かったのかがわからない、という記載がありました。

「御子柴礼司シリーズ」は、中山七里先生のミステリー小説です。少年犯罪を犯した主人公が、弁護士として活躍するストーリー。
少女を殺害するという少年犯罪を犯し、少年院に送致された際、彼は自分の罪に対して罪悪感がありませんでした。刑務官の指導にも反発していました。
しかし、ある事件をきっかけに、自分の起こした過ちがいかに凄惨なものだったのかをやっと理解することができるのです。


目の前の人にも、今までとこれからの”人生がある”

また、殴った一人の人物の背景について考えるシーンがあります。「脳科学捜査官 真田夏希」でも、犯人の背景について考える部分ありました。どんな家族で生まれ、どのような学生生活を過ごし、どのくらい苦しい思いを抱き、犯行に走ったのか。

加害者も被害者も、親が居て、背景があって、今までの人生と、これからの生活があること。これは、すぐにでも全員頭の片隅に置いておく必要があると思います。誰かを傷つけようとしたとき、自分の正義感を誰かにぶつけようとしたとき、相手の人生を思えば、言葉選びが慎重になるかもしれません。


これらが最初から理解できていれば、主人公の過ちは防げたかもしれません。


終わりに 私が思うこと

最近は、芸能人の信じられない貧困エピソードがよく語られるようになりました。
私は幸せにも、貧困を経験したことがないため、共感はすることはできません。しかし、なんとかならないのだろうか、と考えます。給食以外でも栄養のあるものを食べられるようになるとか、給付金や、危険だと思ったときには親から離して保護するとか…。
でも、貧困を経験したことがない私が、私の幸せの定規で彼らを測り、対策を考えるだなんて、上から目線かな、とか思ってしまいます。

昔、人権の研修に行ったことがあります。同じ人間の中で区別をなくそう、というのがテーマでした。
その中に一人すごく印象に残っている方がいらっしゃって、”傷ついている人のために!かわいそう!私がなんとかしてあげなくちゃ!”という思いが強すぎる方でした。
私はその人から、助けて"あげたい"んだなという、すごく上から目線な印象を受けました。その方は自分の正義感と良心から動かれているのだとは思いますが、助けて"あげる"その方と、助けられる方の間に、段差を感じ、これは平等ではないのでは?むしろ区別ができてしまっているのでは?と思いました。

宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬの中」で、日本は貧しい国だというセリフがあります。その頃から何も変わっていないのではないでしょうか。
ここ30年間、給料は上がらないのに、物価や税金だけが上がり続けているようです。私も普段の生活で日本は貧しいと感じることがあります。

資本主義だから、この主人公のような生活をする人がいても仕方がないのでしょうか。
選挙が行われたばかりですが、この貧富の差について触れていた国会議員が居たでしょうか。

私は国政に携わっていないので、直接主人公のような人を救う法律や制度を整えたりはできません。
それでももし、将来自分の子供の同級生がこのような家庭で育っていたら、何か手を差し伸べることはできるかもしれない。
金銭の援助ということではなく、子どもの成長に影響するような、地域の教育が。

暴力が悪いことだと理解ができない。親の教育も、学校の指導も伝わらない。そうしたら、やはり、彼らの心に指導を響かせられるような別の人間が、社会で生きていくために正しいことを教えなければならないかなと思っています。

読後、こんな長々とブログを書いてしまうくらい、考えさせられる小説でした。



普段は読書メーターとInstagramで読書管理をしています。
読んだ本を簡単な感想を添えて投稿しています。



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