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和樂がデザインの教科書だった

最近、和樂webのラジオにハマっています。先日は、メディア運営の裏側のお話がテーマでした。私はSNSを色々を始めてみて2ヶ月ほどが経ち、相変わらず日々のアクセス数も増えず、凹みかけていたところでした。
和樂ほどのコンテンツを持っているプロの編集者の方々ですら、SNSは日々試行錯誤をされていると知り、こんなことでへこたれてちゃいけないなと気付かされました。

和樂との出会い

和樂との出会いは、大学1年生の頃でした。大学のデザイン科に入学して早々、就職のことを念頭に、現役のデザイナーに話を聞きにいきました。色々、アドバイスはいただいたけど、一番印象的だったことは「良い本を定期的に購入すること」でした。その方は、キレイな写真が溢れる分厚い洋書を毎月1冊買っていました。1万円を超えるような立派なものです。
学生だった私には、金銭的に難しかったので、何か雑誌を定期購読しようと思ったのでした。

そんなことを考えていたある日、和樂という雑誌の創刊号が本屋さんに並んでいました。創刊号だけお試しで店頭で買えて、それ以降は定期購読のみという、エクスクルーシブ感。日本の文化を主に、日本美術、茶の湯、工芸などをテーマとして扱っている、富裕層や知識人を対象とした小学館の雑誌です。最近は「日本文化の入り口マガジン」というキャッチコピーのようです。

すぐに大学図書館で申し込みました。奇しくも創刊大特集号は「海外で見つけた和」PARIS編。その頃は将来パリに住むことになるとは、夢にも思っていませんでしたが。
和樂の編集をされていた方も、まさかこんな18、19の小娘が熱烈な読者だったとは思わなかったでしょう。私にとって、背伸びをした誌面は、大変学ぶことが多く、その後の私のデザイナーとしてのものの見方に深く影響を与えてくれるものになりました。

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就職活動に向けて

メーカー系デザイナーの新卒就職活動は、企業実習という数日間泊まり込みでデザイン提案するという長丁場の試験で採用が決まります。多くの企業と大学は提携を結んでいるので、授業の一貫とみなされ、単位に置き換えられます。まずは作品集を企業に送り、選考を通れれば参加できるのです。私の頃は、大学3年生の冬から春にかけて、大手から順に行われました。大手から先に良い人材を採用していくのです。
以前も書きましたが、私の大学は超放任主義だったので、授業の作品だけでは、東京の美大に太刀打ち出来ず、一般公募のデザインコンペなどに応募して、作品集の増強をする必要がありました。

何かをつくり始めるとき、よく和樂のページをめくっては、イメージを膨らませていました。和樂自体はデザイン雑誌ではないので、うっかり見たものを作品として無意識にパクってしまう心配はありません。
和樂から着想を得た、走る縁側「えんがわちゃん」という作品は、ホンダのバイクの賞を頂きました。当時はまだ存在していなかった電動キックボード状の乗り物で、使っていない時に折りたたむと縁側になり、腰掛けられるというもの。立ち乗りなので、着物姿でも着崩れずに乗れるというコンセプトでした。全然、和樂の高級感はないし、今はちょっとお見せできる代物ではないのですが、私が自動車のデザイナーを目指すきっかけになった賞でした。

また、自動車会社の企業実習の課題でも、これまた和樂に出てきた「ジャポネズク」という言葉を元に、未来の車のデザインを提案したところ、内定を頂くことができました。「ジャポネズク」とは、侘び寂び云々の小難しい精神世界を含んだ日本らしさ「ジャポニズム」とは異なる、豪華絢爛フジヤマゲイシャ的なわかりやすい日本らしさ、と当時の誌面では定義されていました。国際社会に向けて日本らしさを全面に押し出した車、というコンセプトでした。

自動車のデザイナーになる

その後、私は会社と国を変えつつも常に自動車のデザイナーとして働いています。一括に車のデザイナーといっても色々あり、私は色と素材のデザインを担当するカラーデザイナーと呼ばれるものになりました。
他にも車の外形のデザイナー、内装のデザイナー、グラフィックのデザイナー。最近ですと、画面のUIのデザインを専門にする人達もいます。自動車は非常に部品の数が多く、デザインですら分業されているのです。

私は新卒で日産自動車に入社したのですが、初めて担当したのは高級車でした。自分では買えないような商品のデザイン。こんなときにも助けてくれたのは和樂でした。
その頃から、伝統工芸を車に取り入れられないかと試行錯誤し、理解のある上司の元で、地方に焼き物や織物をつくりにいかせてもらっていました。まだ新人だったので、自由研究のような時間でしたが、完全に和樂の影響です。

そのときの活動の集大成ともいえるコンセプトカーが、2012年にパリモーターショーで発表されたNISSAN TERRAでした。見出し画像はそのコンセプトカーが、これまた憧れの外国雑誌INTER SECTIONの表紙を飾り、当時、狂喜乱舞し何冊も買ったものです。

私はあくまでも色と素材のデザイン担当なのですが、このときばかりは使いたい素材を元に、形状の変更をお願いしました。日本工芸の技術力をパリでアピールしよう!と、特に内装素材に力を入れて、ダッシュボードからドアパネルにかけて積層させた木を使いました。木と木の間にアクリル樹脂を挟み込み、削り出すことで、斜めに切った年輪のような面の抑揚を表現。少しわかりにくいのですが、グレーのシートの脇に、木目と同じ色合いで、細くラインが入っています。これは薄くスライスした木を、京都の西陣で織り上げた特製のものです。何度も試作を重ねて出来上がりました。

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和樂関係者のみなさんへ

先日の和樂webラジオで「伝統工芸でハイテクな製品つくれないかなー?ロボットとか?」という話が出ていたので、ぜひ和樂の関係者の方々に、ここに既に影響を受けて試みた人がいますよ、と今までのお礼も兼ねてお伝えしたいと思いました。一個人がこのように想いを伝える場にもなる、noteにも感謝です。
和樂web自体は、高尚な雰囲気の本誌とは切り離して活動されていて、遊び心溢れる、とても親しみやすい空気を感じます。
こちらの記事に詳しい運営の裏側が紹介されているので、ぜひ!

和樂web編集部のみなさん、今後も素敵な活動を楽しみにしております!




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