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フランスで不動産を買う:古い建物と新しい建物、どちらが高いの?年代別住心地比較

地震がない国、フランスでは築400年を超える物件に出会うこともあります。日本では年代が経つほど、建物自体の価値は落ちていきがちですが、フランスでは、新しいからといって、古い建物より高いというわけでもありません。特にパリの住宅は、基本的に集合住宅で、戸建てを求める場合は、郊外にいかないといけません。今回は、パリの集合住宅に的を当てて、お話したいと思います。

1. 価格に大きく影響する要素は立地

一番、値段を左右するものは立地です。各地域の平均価格が発表されているのですが、よほど建物に特徴があって付加価値にならない限りは、築年数が値段にそれほど影響しません。また内装が多少傷んでいたとしても、入居前にリフォームすることが基本なので、そこもあまり影響を受けません。
建物の様式や造りには地域差があり、地域ごとに似たような建物が集まっているので、地域の平均価格 × 延べ床面積 = 物件価格と考えて良いでしょう。人気がある年代のものは、新しいものより高かったりします。

地域の平均価格は、以前にも紹介しましたmeilleurs agentsに掲載されていますが、最近、更にすごいサイトができました。
2019年4月に、フランス政府は2014年以降の全不動産取引をネットの地図上で公開しはじめたのです。このDVFというサイトで、最近引っ越してきたご近所さんがいくらで買ったのか、などがわかってしまうのです。

今パリで最も値段が高い通りは、モンテーニュ通り。日本でいうところの銀座の鳩居堂前のようなものでしょうか。『モンテーニュ通りのカフェ』という映画にもなりました。少し北に行くと、シャンゼリゼ通りがあります。
この周辺をみてみると、2016年8月30日に4部屋124平米の物件が、日本円で12億円近い価格で取引されています…!これはちょっと極端な例かもしれませんが…。

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2014年からの記録しか公開されていないのですが、その頃から比べてもパリの不動産は値上がりしているので、更に昔のデータは見れないほうが、これから不動産購入する人にとっては、精神衛生上良いですね。

さて、我が家がアパルトマン購入する際に、参考にしたサイトの情報と私の経験や考えも織り交ぜつつ、住み心地という観点でみた、各年代の解説をしたいと思います。

2. 19世紀以前の建物の特徴

表通りからは外観が見えず、後から増築されたオスマニアン様式の建物の中に隠れていたり、住人だけが通ることができる小径沿いにひっそりあることも。パリの1、2、3、4区あたりの中心地、モンマルトル、ベルサイユ宮殿があるベルサイユ市に、多く残っています。

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古くてもリノベーションされているので問題はないのですが、間取りは集合住宅が一般的になる以前のものなので、使い勝手はあまりよくありません。長い年月を経て、床や壁が傾いていることも。この年代の建物で、床が傾いている部屋に住んでいた知人は「三半規管がおかしくなりそう」と引っ越しました。床の傾きは、住んでいても慣れないものらしいです。

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3. 19世紀前半の建物の特徴

いわゆるパリっぽい建物です。パリ改造計画時代に建てられ、オスマニアン様式と呼ばれます。パリの街並みの主要部分を構成しています。重厚な造り、高い天井、大きな窓、広いエントランホール、各部屋をつなぐ廊下があることが特徴です。この年代のものは、かつての貴族の大邸宅を、後から壁で複数の住戸に分けていることも。その壁が薄いと隣からの音が響くので、要注意。床面積が廊下に取られてしまう間取りが多いので、延べ床面積の割に狭く感じることも多いです。

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二重窓を取り付けることで、現在のエコ住宅の基準を満たすことができます。今は住宅も家電のようにエコ基準が設けられ、どの年代の物件情報にも必ず添付されています。古い建物は熱効率が悪かったりするのですが、断熱材を足したり、暖房の設備を交換することで、エコレベルを上げる修繕を行うと、税制優遇が受けられます。

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オスマニアン様式は、基本的には6階建てで、1階部分に店舗が入っていることも多く、2階部分とメゾネットになっていることも。3階部分が一番豪華な造りになっているのは、その当時はまだエレベーターがなかったからです。肉体労働を嫌うお金持ちは、眺めよりも利便性を求めました。

最上階の屋根裏部屋は、かつての住み込みのお手伝いさんの小さな部屋、chambre de bonneがいくつも並んでいます。6階に住むお手伝いさんと3階に住む雇い主の恋愛を描いた『屋根裏部屋のマリアたち』という映画があります。
部屋自体は10〜20平米未満の寝室のみで、水回りは共同です。階段に赤絨毯が敷かれた重厚感ある表向きの造りとは異なり、市松模様に貼られたタイルの床だったり、キッチュだけど可愛らしい雰囲気です。
今は、アーティストや学生に向けて、低家賃で貸し出されています。パリの中心地でも、手頃な値段で借りられるので、なかなかお得な印象を受けますが、アパルトマンによっては、建物の入り口が別になっていて、最上階までは、専用階段で登らないといけない場合も。お手伝いさんのお部屋なだけあって、一般住人とは鉢会わない構造になっているのです。
以前、私が住んでいたアパルトマンに、フランス人のアーティスト家族を招いたら、その家のお父さんが、若い頃、そこの屋根裏部屋に住んでいたという偶然がありました。そんな彼、今は芸術家として成功し、広々とした素敵なアパルトマンで、生活しています。彼にもそんな時代もあったのだと、しみじみ。

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4. 19世紀後半の建物の特徴

オスマニアン式をベースに、花や、植物の蔓など、自然をインスピレーションとした装飾品で飾られていることが特徴の美しい建物です。アール・ヌーヴォーと呼ばれ、なかなか出会えない物件なので、人気があります。エレベーターの有無に注意。

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(Googleストリートビューより画像引用)

5. 1920、1930年代の建物の特徴

幾何学系を基調としたアールデコの時代です。あまり装飾はなく、シンプルな外観です。パリ16区と、そこに隣接するブローニュ=ビヤンクール市でよくみられます。
これまでの邸宅を切り分ける方式から、1世帯あたり少なくとも3部屋70平米という計画された造りになっていきます。合理的な間取りで、キッチンと一体になった大きなダイニング、日が当たる浴室、共有部分の日当たりを考慮され始めたのもこの時代です。配管の老朽化と、湿気には注意。

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また、パリで時々みかける赤いレンガの建物も、この時代のものですが、当時は低家賃の公営住宅でした。今見ると、非常に立派な造りなんですけどね。

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(Googleストリートビューより画像引用)

6. 1950年代の建物の特徴

戦後のベビーブームによる人口増加が起こり、それに対応するためにコンクリートの建物が、短期間で大量に建てられました。造りが単純化された建物は、低品質な素材でつくられていることも多く、断熱性、防音性が低いでのですが、断熱、防音のリフォーム自体は簡単なので、後から改修することもできます。良い点としては、間取りが広々としていて、窓が大きく室内がとても明るいことです。
建物も大型化し、世帯数が何百という超マンモス住宅が多いのも特徴です。モダニズム建築の巨匠、ル・コルビュジエが、マルセイユのユニテ・ダビタシオンを設計したのもこの時代です。量産型住宅の第1世代ともいえるものですが、今見ると団地っぽいですね。

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7. 1960、1970年代の建物の特徴

巨大な集合住宅は減っていく一方で、共益費が高騰していった年代です。世帯数も80戸を超えることは少なく、遮音性も向上しました。オイルショック以降、共用空間が縮小され、その代わりに、駐車場、エレベーター、セントラルヒーティングが装備されました。そのためにコストも上がり、共益費も高くなっていったのです。この年代の建物は、その前後に建てられたものと比べて、平均で40%共益費が高いといわれています。

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パリ15区のセーヌ川沿いに集中して立っている高層マンションは、70年代中盤のものです。私がエッフェル塔に登ったときに撮った写真ですが、きっと向こうからもエッフェル塔が良く見えていることでしょう。ハリウッドセレブが、最上階をセカンドハウスとして、持っているという噂も。

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8. 1980、1990年代の建物の特徴

70年代に高騰していた共益費を安くするために、セントラルヒーティングを採用していない建物が多いのですが、建築規制が増えたので、遮音性、断熱性は充分に高いです。モダンなデザインの外観が多く、パリ中心地ではあまりみられません。ペリフェリックという環状道路周辺にいくにつれ、増えていきます。品質は悪くないのですが老朽化は進んでいる年代のものなので、管理組合が来たる大規模修繕に向けて、充分な資金を備えているかどうかの確認が大切です。購入前にマンションの総会の議事録で確認することができます。

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9. 2000年代の建物の特徴

2000年代初めに、新築不動産購入の際、税制優遇が受けられる政策ありました。最低保有期間の5年間が過ぎて、売りに出される部屋が増え始め、今はお買い得に。質の良い素材、充分な断熱材が使われていて、オープンキッチン、テラス、エレベーター、暖房が完備、エコ基準を満たしています。地下の駐車場へは部屋の前のエレベーターからアクセスできます。パリの18、19、20区の再開発エリアに多く立ち並んでいます。画像は19区の公営住宅ですが、フランスの新しい建物は、挑戦的なデザインが多いのも特徴です。

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パリ市のサイトより画像引用)

10. 有名建築家による、高級住宅街の最新公営住宅

2019年、パリの高級住宅街16区に、公営住宅が建ちました。なんと、日本人建築家SANNAの設計です。もちろん家賃は破格です。なぜ、そんな一等地にそこまでするのか、という議論が起こりました。というのも、各自治体、公営住宅の建設が義務になっているのです。16区はお金持ちの区なので、どうせ建てるなら素敵なものを、ということなのでしょう。

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前述の1920年代の公営住宅も立派だし、街並みに寄与するものには手を抜かないという、パリ市の姿勢を感じますね。
パリは統一された街並みのイメージが強いですが、実はいろんな年代の建物が混ざっているのです。

日本人駐在員の住宅サポートをしている知人に聞いたところ、赴任でパリにくる日本人の多くは、新しい建物を希望するそうです。やはり、会社から任命されて来られる方は、特にパリが好きだから来るというわけでもないので、日本で住宅を選ぶときのように、あまりに古いものは避けたいのでしょう。ですが、新しいからといってトラブルが少ないわけでもないのが、フレンチクオリティ。水漏れ、断水、エレベーターの故障などは、どの年代の建物にも平等に起こるのです…。

フランスの不動産に関する記事は、こちらにまとめてありますので、もしよろしければ。

参考サイト:
HOMESELECT
UN JOUR DE PLUS A PARIS
Capital


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