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デンマークの熱い夜(日記)

2020.春

 学校の地下にあるバーはその日、年に一度の同窓会で異常な賑わいを見せていた。1時間もすると人ごみは50人以上にも膨れ上がり、背が高く陽気なデンマーク人が酒を飲んで踊るので、僕は圧倒されて隅のベンチで丸くなっているほかなかった。

 ある一人の男性に目がとまった。バーの中にはビリヤード台が一台ある。そこでデンマーク人たちの中にアジア系の男性が1人混ざり、こなれたデンマーク語を交わしながらダンスには目もくれずビリヤードに興じていた。彼は日本人と似ていてどこか違う。といって韓国人でもなく中国人でもなく、また東南アジア系でもないような独特の雰囲気を纏っていた。僕は無性に彼に話しかけてみたくなった。重い腰をあげビリヤード台まで歩み寄り、声をかけると彼は気さくに応じてくれた。

 彼はグリーンランド人だった。イヌイットやエスキモーと呼ばれる人たちが日本人と顔が似ているということはテレビや本などで知ってはいた。しかし、ただ知っているのと、実際に会ってみるのとではその印象は全く違う。友達に高校の同級生といって紹介しても多分違和感がないような見た目だが、彼はグリーンランドで育ち僕は日本で育ったというのがなんだか不思議だった。
 僕たちは会話を交わしながらビリヤードを楽しんだ。彼はかなりの腕で、初心者同然の僕は秒速でコテンパンにされてしまった。

 デンマーク国軍で働いていると言ったが、なるほど恰幅がいい。デンマークとグリーンランドの関係のこともそうだが、他にも色々聞いてみたが、相手も僕も多く飲んでいた。色々話したがほとんど忘れてしまった。彼の名前ももう覚えていない。

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