Talk-Night表紙_01-2

#01槇文彦×真壁智治② オープンスペースを活かした街づくり

書籍 『アナザーユートピア』(NTT出版)を起点として、これからの街づくりのヒントを探るトークイベント「Talk Night オープンスペースから街の未来を考える」。2019年10月24日に開催した第一回目では、「アナザーユートピアをめざして」をテーマとし、建築家の槇文彦氏とプロジェクトプランナーの真壁智治氏をお招きしてお話を伺いました。(全3回)
▶ ①なぜいまオープンスペースなのか?
③オープンスペースは誰のものか?

低層・低密度のヒューマンなスケール――《ヒルサイドテラス》

ヒルサイド(クレジット入り)

:代官山の《ヒルサイドテラス》は、1967年からプロジェクトが始まりまして、計6期、足掛け25年にわたってつくりました。こういう建物になったのは、オープンスペースを大切に考えていった結果でした。広い立派な道路に沿って、店舗やレストラン、文化施設をつくって、人が訪れやすいようにしました。また、この場所は容積率・建蔽率が低いため、敷地内の空地が多いので、緑をたくさん残したりと、いろいろな空間の仕掛けをすることができました。豊かな道と低密度の街区とのコンビネーションが、ヒルサイドテラスのスケールと雰囲気を決定づけたのです。

都市建築の研究者、バリー・シェルトンによれば、東京に限らず日本の大都市では、幅の広い道には容積率の高い大きな建物が並び、内側に入ると、道が狭く建物も低くなっている、と指摘しています。私はこれを「皮」と「あんこ」という表現をしました。《ヒルサイドテラス》は、普通なら大きい建物が建ってしまうような広い道に面していますが、「皮」にいきなり「あんこ」がくっついているという、非常にヒューマンなつくりになっています。そして、性格の違うオープンスペースを各所に設け、木によっていろんな重層関係を視覚化しています。

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の人たちが、20世紀の代表的な建築のなかで見るべきものを国際的な建築家に尋ねたアンケートがあります。1番目が、ミース・ファン・デル・ローエの《バルセロナ・パビリオン》。2番目には、ル・コルビュジェの《サヴォア邸》《ロンシャンの教会》《ラ・トゥーレット》と並んで、《代官山ヒルサイドテラス》が入っています。オープンスペースを活かした空間の重要性が国際的に認められています。

建築とオープンスペースの一体化――《風の丘葬斎場》

風の丘(クレジット入り)

1997年に、大分県の中津市に《風の丘葬斎場》をつくりました。通常、葬祭場は絶えず煙が立っていて、あまり評判のいい施設ではありません。そこで、ここでは、建築とオープンスペースを一体化させるということを試みました。大きな公園の後ろに葬祭場を少し沈めたかたちでつくれば、公園に来た人は気にならず、ゆっくり安らげるのではないかと考えました。つまり、図と地を反転させるように、公園であるオープンスペースを前面に出し、建築である葬祭場を小さく分節化して、建物の大きさやかたちを顕在化させないようにしました。葬祭場であることを意識せずに、くつろぎ遊べる場所になっています。

この建物ができたときに、街の方に「これで私たちは平和に死ねます」という言葉をいただきました。建築家にとって、最大の賛辞だったと思います。ここでもやはり、オープンスペースが重要な媒体になっています。

街に開かれたオープンスペース――《東京電機大学 東京千住キャンパス》

電機大学(クレジット入り)

北千住にある《東京電機大学 東京千住キャンパス》のある場所は、以前は大きな企業の社宅があり、全部塀に囲まれた場所でした。このキャンパスをつくるにあたっては、足立区から、門も塀もない、人が自由に行き来できるバリアフリーな場所にしてほしいというリクエストがあり、それを受けてこのオープンスぺースを活かした建築ができました。

施設の1階にイタリアンのレストランがあるのですが、その手前に小さなオープンスペースをつくりました。イタリアのボローニャのような街に行くと、このような市民の集まるロッジアという場所があります。誰でも地域の人が来てお茶を飲んだり、学生が演奏会をしたり、ギャラリーとして使ったり、夜になると映像のスクリーンにもなる。いろいろな使い方ができる場所です。

子供丸柱

キャンパスの広場というと、普通は大学のためのものですが、近所の保育所の人が大学の先生の子どもを連れてきて遊んだりしている。つまり、オープンスペースのシェアリングです。ここで非常に面白かったのが、子どもが円い柱に抱きついている風景でした。おそらく、お母さんに抱いてもらった経験からきているのではないでしょうか。子どもは、四角い柱よりも、丸い柱が好きなんです。建築をつくるうえで、やはり人間の行動を考えること、つくりっぱなしにするのではなく、そこから絶えず学ぶことが大事ではないかと思います。

鎮魂のオープンスペースに寄り添う――《4ワールド・トレード・センター》

4WTC(クレジット入り)

海外の事例を一つ挙げてみましょう。ニューヨークの《4ワールド・トレード・センター》です。2001年9月11日の同時多発テロの跡地に建てられた建物です。

ニューヨークというと摩天楼が立ち並ぶ垂直の街というイメージがあるかと思います。レム・コールハースの『錯乱のニューヨーク』に出てくるドローイングでも、スカイスクレーパーがあらゆる意味で立体的であることを表しています。しかし、私は、実際にニューヨークに住み、仕事で何度も訪れて、一番記憶に残っているのはオープンスペースです。セントラルパークや、MoMAのオープンスペース、スケートリンクになっているロックフェラーセンターのサンクンガーデン、ダウンタウンの入口にあるワシントンスクエア。つまり、建物は変わっていくかもしれないけれど、必ずオープンスペースは残っている。それが私にとってのニューヨークの原風景でした。あくまで広場が主役で、建物は脇役なのです。

こうした記憶があるため、9・11のメモリアルパークというオープンスペースに接して建設されるタワーの設計を依頼されたとき、そのデザインは、落ち着いた、簡明で気品のあるものであるべきだと考えました。そこから、自然と、形態のシルエットを尊重した、ガラスによる彫刻のような建物にしたいという決定に至りました。結果として、天候、距離、時間帯によって、周囲の環境をリフレクトし、さまざまな表情を見せてくれる建築になったのです。

この建物を見た人が、「ここへ来ると、この建物が亡くなった3000人の魂を映し出してくれる」という感想をいってくれました。さきほどの《風の丘葬祭場》での「これで私たちは平和に死ねます」という言葉と同様に、作り手としては、こうした一般の人が空間と独り向き合い、安らぎを感じた際に、ふっと出てくる言葉が非常に大事だと思うのです。

画像8

画像7

画像8


→ 次回 槇文彦×真壁智治
③オープンスペースは誰のものか?


日時・場所
2019年10月24日(木)@シェアグリーン南青山
主催
 NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
撮影
高橋宗正
グラフィックレコーディング
 藤田ハルノ+津布久遊 (テクストの庭)

第一回概要および記事一覧へ