#01槇文彦×真壁智治③ オープンスペースは誰のものか?
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#01槇文彦×真壁智治③ オープンスペースは誰のものか?

NTT都市開発 デザイン戦略室
書籍 『アナザーユートピア』(NTT出版)を起点として、これからの街づくりのヒントを探るトークイベント「Talk Night オープンスペースから街の未来を考える」。2019年10月24日に開催した第一回目では、「アナザーユートピアをめざして」をテーマとし、建築家の槇文彦氏とプロジェクトプランナーの真壁智治氏をお招きしてお話を伺いました。(全3回)
▶ ①なぜいまオープンスペースなのか?
②オープンスペースを活かした街づくり

無償の愛/Unconditional Love

サンティアゴ広場

:数年前、スペインのマドリッドに友人を訪ねたときのことです。サンティアゴ広場にいる人々がみんな、オペラハウスの外壁についた小さなスクリーンを見ていました。一体なにを見ているのかと聞いたら、上演しているプラシド・ドミンゴのヴェルディのオペラだといいます。ドミンゴの歌がタダで聴けるのか、と思ったときに、私は「無償の愛」という言葉を思い出しました。聖書にも「Unconditional Love」という言葉がしばしば出てくるそうですが、文化とは無償の愛に支えられているのではないでしょうか。

思い返せば、1959年に、アテネにあるパナティナイコという競技場を訪れました。競技場が街に開かれた馬の蹄のような形をしており、広場と一体となっているのです。もっともすばらしい競技場の光景ではないかと思いました。というのも、競技場の外からでも中の様子が見えるのです。2004年にアテネ・オリンピックが開催されたときに、テレビに映った風景が変わらず残っており、私は二重に感動しました。人がいないときの空間も素晴らしいし、多くの人が集えばさまざまな衣服で彩られた風景が広がる。このような風景こそが、無償の愛の一つの例ではないかと思うわけです。

今、世界中で「Conditional Love」が強調されるあまり、さまざまな分断が生まれてしまっています。そうではなく、あまねく開かれた「無償の愛/Unconditional Love」こそが重要である、と強調してこの話を終えたいと思います。

みんなのために、独りのために

真壁 槇さんはこれまで、建築界にとって非常に重要な論考や提言を数々発表されてきました。そのなかで、「都市の孤独」をテーマにした、2008年の「独りのためのパブリックスペース」(『漂うモダニズム』左右社、所収)は、オープンスペースを考えていくうえで、とても貴重な論考です。文学や美術の世界では、多くの人が「都市の孤独」に取り組んでいますが、なぜか建築家は向き合ってこなかった。

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都市においては、群れる豊かさと同時に、孤独になる豊かさも考えなければいけません。たとえば、槇さんのつくった《スパイラルホール》の青山通りに面した2階の階段が「居場所」になっているように、オープンスペースは、「都市の孤独」を充足する場所に十分なりえます。

今日のお話で僕が特に感銘を受けたのは、《4ワールド・トレード・センター》です。「都市の孤独」と「群れる」こと、そして死者へのつながりというトライアングルのなかで、オープンスペースが潜在的に持ちあわせる力を見たように思いました。

《風の丘葬祭場》は、オープンスペースと建物が滲みあって、ボーダーレスになっていました。つまり、建物とオープンスペースが主従関係ではない、一体となった新しい関係に、私は「アナザーユートピア」の一つのエッセンスを感じたのです。

冒頭に、モダニズムという大きな「船」がなくなった、というお話がありました。建築家はデーターベースとコンテンツのポタージュのような海を浮いている「なんでもあり」の時代だ、と別のところではおっしゃられています。しかし、2019年の今日を振り返ってみると「なんでもあり」が底を打ったように感じます。みんなが同じ方向を向きつつある。特に近年は、隈研吾の《アオーレ長岡》や青木淳の《杉並区大宮前体育館》のように、建物とオープンスペースを峻別せずに、オープンスペースから建築を捉えた建物が目立ってきています。

その背景にはやはり、2013年の論考「漂うモダニズム」から2015年の「アナザーユートピア」へ続く、槇さんの提言があったように思います。槇さんは「自分は評論家ではない、観察者である」とおっしゃっていますが、観察者であるがゆえに、外的なイメージやディティールを重ねていくことができる。この視点が、今の建築家のベクトルをゆるやかに束ねる力になっていると思います。

槇さんは、みんながぼんやりと思い始めていることに対して、的確に言葉を与えます。「アナザーユートピア」もしかり、多くの人が、建物の限界をオープンスペースからもう一度見直してみようという感覚があったところに、この言葉を与えてくれた。それは過激なことではないけれども、よく咀嚼すると、広範な理解力や推進力へと繋がっていく。こういう力を、僕は槇さんの存在から感じました。

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日時・場所
2019年10月24日(木)@シェアグリーン南青山
主催
 NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
撮影
高橋宗正
グラフィックレコーディング
 藤田ハルノ+津布久遊 (テクストの庭)

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NTT都市開発 デザイン戦略室
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