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【ポンポコ製菓顛末記】                   #50 度が過ぎた自分ファースト 自己チュウ

 どこにでもいる「全能感」のオトナ。お山の大将のリーダーも持った部下は悲劇だ。しかし、そういうオトナはリーダーや上司だけではない。部下も同様、お互い様のことが多い。
 トップが自己チュウだと社員もまねるので質が悪い。
 


敵の敵でも本当の敵


 
 すべての悩みは対人関係の悩みであると、精神科医アドラーは説いた。その悩みは多種多様だ。何でも比較してしまい、自らを過小評価して自信を失う場合もあれば、様々な価値観の違いから「何故解ってもらえないのだろう」と悩む場合もある。 
 いずれにしても人間は徹底的に社会的な動物だから決して一人では生きていけない。対人関係とは上手に付き合わざるを得ないのだ。

 そこで価値観の違う方々とは「そういう見方もある、評価もある」と気を付けて付き合えばそんなに難しいことではない。
 例えば価値観が違う人の他人評価の解釈だ。気が合わない人の「アイツはイイヤツだ」というのは気を付けたほうが良い。変な人が良いという人はその人も変な場合が多い。逆に「アイツはダメだ」という場合は案外いい人が多い。つまり敵の味方は敵、敵の敵は味方、ということだ。
 ところが中には敵の敵でも本当に敵(こちらにとっても)という場合がある。誰にとっても超党派で「アイツはダメだ」というケースだ。お山の大将のリーダーもそうだし、リーダーでなくても読者の周りの同僚でもいるはずだ。所謂職場の困ったサンだ。
 
 私の部下でミーハーなM埼広報マネジャーは様々な問題を起こしてくれた。
 
 ポンポコ製菓の役員は皆オンナ好きであったが、M埼マネジャーも負けず劣らずオンナ好きであった。
 
 4年に一回、業界主導のイベントを各地持ち回りで行っていた。2012年は広島で行われ、各社がイベントブースを出展した。運営は営業と広報が担当した。広報はミーハーなM崎広報マネジャーが主管となった。イベントを運営するにあたり説明ガイドのコンパニオンが必要となり、その面接、採用もマネジャーの管轄となった。現地採用すれば費用が低コストで収まるのに、広島のコンパニオンでは派手さが無いというので、わざわざ東京のコンパニオンを採用した。結果、出張費、宿泊費、東京基準の日当と、かなりの割高となってしまった。しかし当のマネジャーは毎晩打ち上げと称して飲み会を実施、エラクご満悦で鼻の下を伸ばしていた。
 
 M埼広報マネジャーはオンナ好きの上、ミーハーである。タレントが大好きである。特にキャピキャピした若い女子に目がない。CSRのイベントでタレントと子供との模擬体験を企画したが、普段全く立ち会わなかいくせに、女子アナや美人タレントが来るとなるとイベントに積極的に日程調整して立ち会った。しかも現場で代理店担当にタレントとの2ショット写真を強要したりして大いに失笑をかった。
 
 10年前当時、当社は女子プロゴルフトーナメントを主催していた。ちょうど同じころ、広報管轄の決算資料外部発表の締め切りが迫っていた。しかし、若いカワイイ女子プロが多数参加するので、ミーハーなM崎広報マネジャーは落ち着かない。締め切りが迫っているにも関わらず、どうしてもゴルフトーナメント決勝に立会いたいと必死にスケジュール調整し、担当専務の制御も振り払って本戦会場に立ち会った。本人が必ず仕上げるというので最終日ギリギリ迄私は待ったが案の定、デキなかった。私は決算資料発表の責任者と同時にトーナメントの大会実行委員長も兼ねていたが、それにも関わらずトーナメント最終日午後、付きっきりで決算資料仕上げの指導を現地ゴルフ場の控室で行った。おかげで当日接戦していたU選手が18番逆転優勝バーディパットをするまで、私は試合の進行に全く気が付かなかった。控室のTVモニターで偶然最終組のパター勝負に気付き、慌てて18番グリーンまでクラブハウスから走って見に行って、危うく大会実行委員長の面目を保った。結局我儘を通したM埼広報マネジャーは試合に立ち会うどころか、クラブハウス控室で缶詰状態だったのだ。
 
 そんな調子でミーハーなM崎広報マネジャーは、仕事のマネジメントが全く出来ていない。その手の人間は、えてして、自分の力量を過信し、為すべき仕事のボリュームを把握できない。結果、スケジュール管理が出来ず、多くの場合期日に間に合わない。しかもギリギリまで進捗を報告せず、時間切れで終わるケースがしょっちゅうであった。

 ある時、半年スケジュールの仕事をM崎広報マネジャーに任せた。いっこうに進捗報告が無いので期日直前に進捗の対応説明を求めると無言であった。さらに問い詰めると1両日中に仕上げるという返事。半年かけて出来なかったものが2.3日で出来る筈がない。ただ、ひたすら、見え見えのウソをついてでもその場を逃れれば良いという心境なのであろう。その場で同席して事の顛末をずっと見ていた外部取引先のパートナーも唖然としていた。もちろん2日経っても仕上がらなかった。
 
 ミーハーなM崎広報マネジャーは部下管理も出来なかった。当社には珍しい、複数語学が出来る有能な中国人女性新入社員が彼の部下になった。彼女が仕事の正当性によって判断する傾向をみて、彼は彼女を評して自分の好きなことしかやらないと私に不満を述べた。中国人には「黙って言うこと聞け!」は通用しない。私はマネジャーの素行を熟知していたので、真相は正確には解らないが少なくともお互い様だろうとマネジャーに諭した。マネジャーはミーハーで約束を守らない、という自分の事は棚に上げて不満そうであった。ちなみにその中国人女子は当社のようなローカルな仕事ではなく、もっと価値ある国際的な仕事を希望であった。私は可能性を見出し、マーケティング、財務、広報の職務についてレクチャーした。1年後転職したいというので背中を押してあげた。その後、CNN、グーグルと転職し、スイスで国際結婚をして、現在は幸せに暮らしている。
 
 

会社に貢献しなくてよいから、まず給料分の仕事をしなさい


 
 さてミーハーで自己チュウなM埼広報マネジャーみたいな同僚、上司は読者の周りにも沢山いるのではないか?
自分のことは棚に上げ、自立して主張する部下を自己チュウだと言い張るような上司だ。
 
 そもそも今の若者は自信が無いとか、仕事が出来ないとか文句を言うオジサンが多いが、いきなり仕事もできるはずもなく、自信も持てるわけがない。
 
 新入社員が仕事を覚える順序があるそうだ。

 まず第1にMUST(マスト)やるべきことをやり続けること。それにより第2 CAN(キャン)やれることが増える。そのうえで第3 WILL(ウィル)やりたいことが見つかる可能性がある。期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないというのだ。
 給料をもらうということはプロフェッショナルになるということ。かつてベンチャーの雄であった、宋文州氏の新入社員入社式の出来事。
「1日にも早く会社に貢献できるように頑張ります!!」という新入社員の熱い挨拶に対してこう述べた。「会社に貢献しなくてもよいから、まず給料分の仕事をしなさい」と。
 
 今時だったら「冷たい」だの「やる気なくなる」だのとSNSの文句が出そうだが、そのとおりである。まずやるべきことをやってから、自信や希望が出てくるのだ。

 まず貢献あっての自立、自己愛、自信である。

 フランスの哲学者モンテーニュは
少しも他人のために生きないものは、ほとんど自分のためにも生きていない、と述べている。
逆に自分を愛せない者は他人も愛せない。
 
 

顕在的自尊心と潜在的自尊心


 
 そしてこの自己愛、自分を愛するというのは自己チュウとは違う。利己よりも利他を優先するからだ。

自己愛のないものは自尊心、自信が持てない。

 昨今の日本の若者が自信が無い、自尊心が無いと言われるが、この自尊心には、自覚がある・表に出す顕在的と無意識・表に出さない潜在的があるそうだ。

 この顕在的と潜在的を独立して考えると4つのタイプになる
①    顕在的自尊心も潜在的自尊心も高い
②    顕在的自尊心も潜在的自尊心も低い
③    顕在的自尊心は低いが潜在的自尊心は高い
④    顕在的自尊心は高いが潜在的自尊心は低い

 一般的に自尊心が高い、自信があるというのは①のタイプで成功者の部類だろう。逆に顕在的にも潜在的にも低い②のタイプはうつ病と診断されたりする。
 しかしこの両者は全体の中ではごく一部だ。自尊心が低い、自信が無いといわれる日本人の多くはじつは③のタイプが多いという。同調圧力の強い日本社会ではうかつに自慢すると叩かれるので目立たないように振る舞うことが無意識に染みついているというのだ。逆に欧米や中国の若者は④のタイプが多く、外面上は自信満々だがけっこうコンプレックスが強い場合がある。ポンポコ製菓の会長などこの典型で、こういうタイプのリーダーは悲惨だ。よっぽど③のタイプのほうが良い。
 先のMUST➡CAN➡WILLの経験を積んでいけば①にたどり着ける。逆にその修練を積まないと③で終わり、へたをすると②に陥ってしまう。
 
 ミーハーなM崎広報マネジャーは③のタイプで部下が言うことを聞かないので上司の私に同調を求めたらプイと横を向いてしまった。けっこうプライドが高いのである。
 
 思うに自他ともに認める自信も自尊心が高い人、逆に両方ともに低い人というのは各々わずかで、ほとんどが③や④の普通の人だろう。
 正規分布2:6:2どころか、1:8:1くらいではないかと思う。程度のグラデーションの違いによる程度差であろう。 この自分と他人の各々実力の認識ギャップが様々な対人関係トラブルを招く。だから心がけ、やり方次第で課題にも解決にも進むのではないかと思う。その事例はおいおい紹介していく。
 
 ちなみにミーハーなM崎広報マネジャーは異動願いを出し、支店の経理責任者を希望した。しかし全国どこの支店も引き取り手が無かった。皆、ちゃんと人物評価しているのである。結局子会社の閑職に左遷となった。

 そこに単身赴任したものだから、あろうことか現地社員と不倫し、結局離婚の憂き目にあった。彼が持て余した中国人部下はグーグルへ転職、国際結婚と華々しい道を進んだ。かたや本人は子会社左遷、不倫、離婚と明暗が別れた。


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