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異世界交流ファンタジー『風雲児たち』(1979年~の漫画)

よくきたな。最近読んでいる本を「夏の推薦図書」に推薦するよ。

『風雲児たち』みなもと太郎

やがて異世界からの来訪者が訪れ滅亡することが予言された中世風世界の400年描写する大河ファンタジー作品。

特徴的なのはそのギャグのキレ。エバーグリーンな小歩危大歩危と連載当時の時事ネタが相まって古文書のような風合いを表現している。本作品自体が近代ギャグ史の歴史書であると言っても過言ではない。

序章 1~3巻

中世騎士政権である徳川家政権が成立するまでを丹念に描写する。以降数百年の礎になる部分だが、人間ドラマやキャラクターの成長・転回が見事であり非常に読ませる。

一方で徳川家に敗れ去った亜人種が描写される。敗北し虐げられる民になったゴブリン。大将格を任されながらも慎重さゆえに動けず勢力を切り崩されてしまったエルフ。そして、その苛烈さから敵本陣へ向けて退却をしたという伝説を持つドワーフ。

彼らはやがて訪れる開闢の刻に再び活躍されることが暗示され、主な視点は徳川家が支配するEDOシティに移される。

異世界交流奮闘編 4巻~12巻

実は異世界からの来訪者はすでにEDOへ到達していた!ということが明らかになる。

おいおい、本編開始前にすでに異世界との交流を開始していたというのかい? それじゃあ本編の面白みがなくなってしまうのでは? と思いきや、実は異世界と交流が可能なのは出島機関に限られており、かつ文字が通用しない=辞書がないということが明らかになる。

そこで担ぎ出されるのは、旺盛な学習意欲を持つ医者、学者、町民たち。異世界ファンタジーでは珍しく騎士同士の大規模戦闘はほとんど発生しない作品ながらダイナミックな展開や意外な人物同士の繋がりが生まれていき、読み応えがある。丁寧に物語を展開しすぎたせいで終盤では急きょダイジェストで登場人物の最後が語られる等、作者の熱のこもり方にも愛嬌を感じるシーズンであった。

主人公大量発生!

最終的な決着が見えにくい状態で大量の人物が出現するので、主人公額が大量発生するあたりからは一気読みを推奨。(複数同時進行するが最終的に絡まりあってアベンジャーズになるため安心してほしい)

前半部分では、天才平賀源内とその知り合いを中心にした才気煥発のハイパー翻訳バトルが繰り広げられる。禁書とされる人体図ターヘルアナトミアをめぐる大冒険であり手に汗を握り、翻訳が完了したときには熱い涙を流すこと請け合いだ。

後半部分では、徳川王国の政争を背景に北方異世界との交流が描かれる。この時代にここまで深く異世界へ迷い込み、帰ってきた人物がいるということは驚きの限りだ。前半部分で活躍した人物の余波が世界を一周して彼らに到達するという驚きと感動はひとしおである。

ちょっと超人すぎるキャラ設定もある

登場人物に関しては物語の進行を優先したためか、ちょっとやりすぎな主人公格のキャラクターも散見される。

万能天才「平賀源内」
よくあるオーバーテクノロジー博士から着想を得たとみられる天才科学者にして粋人。博物学のみならずマーケティングやパルプスリンガーまでこなしフォロワーが非常に多いがすぐに金儲けに走るのでRTはミュートされている。

究極能吏「最上徳内」
あらゆる辛酸を舐めながら身分制度の壁を越えて実力で立身出世を果たすというやりすぎ超人。フィクションだとしても、その能力はすさまじく、ページ間で何件もの事業を成功させるほど。シーズン終了時に老衰したと思われたが次シーズンにも重要人物としてしれっと登場。すごい。

異世界激闘編 13巻~

こうして徳川政権は本格的な異世界来訪者との戦いに備えていく、というわけではなかった。彼らは脅威を握りつぶし来訪者を返し帰還者を飼い殺して封殺してしまったのだ。この「みすみす進化するチャンスを逃したこと」が冒頭で見せられた破滅につながるのだろう。

クロフネの襲来を待たず、それ以前から異世界との交流を続けていれば、何かもっと良い結果が生まれたのでは?

歴史にifは禁物である。希望を見せたうえで冒頭で予感させる世界の終わり、破滅最終戦争を際立たせるつもりなのだ。我々は作者のダンシングハンドオブタナゴコロ。

なぜだ! なぜ、このようなひどい目にキャラクター達を合わせるのだ!

そして、年代ジャンプした新展開。
ドイツ人医師シーボルト編が開始される。これは完全に異世界転生フォーマットにのっとった物語であり皆もなじみ深いところだと思う。

「なんだ?外科手術をしただけなんだが?」「俺は剣術33戦無敗だぜ」「(ラブロマンスの音)」そして、彼は異世界EDOの地図やアーティファクトを故郷へ持ち帰ろうとするのだが……大事件が起こる!!

(大波によって難破した帆船が城を突き破るシーン)


とりあいず、ここまで読みました。
全20巻のクライマックスはもうすぐだ。

<ネタバレ注意>

『風雲児たち』は裏設定が豊富。

どうやらこの作品シリーズ、めちゃくちゃファンが多いらしくインターネットで登場キャラの名前を検索すると二次創作やゼロ次創作の各種設定が頻出する。解釈違いでもめることがあるかもしれないけど、基本設定を外しているケースは少ないので参考資料にインターネットしてみてもよいかもしれない。

いじょうです。

Kindle Unlimitedでぜんぶ読めるよ。たのしいね


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