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アートなのかデザインなのか:クリエイターは地域資源

デザイン塾とは

前回の記事で、三島市で開催したデザイン塾について少しだけ書いた。
デザイン塾とは、2016年と2017年に開催した、三島市クリエイティブシティ構想に基づく、地元のクリエイター(主にデザイナー)と企業のマッチングを進め、約半年間かけて新規事業やプロジェクトを開発推進するプロジェクトのことだ。

筆者である私は、そこにディレクターとして関わり、自らも講師として登壇しながらプロジェクトを進めていった。

プロセスはおおよそ以下の通りである。

まずは、参加者をクリエイター側と企業側に分け、それぞれが自分自身の記憶(思い出)の整理を行い、今の職業についてきっかけを明確にし、その思いから派生する自分の人生のおいての目標を作る。
(自分の過去の記憶にアクセスするのはやはりクリエイター側の方がスムーズにしていたようだ。心理学的なアプローチではないので、記憶の奥の方にむりやり入ることはなく、日常から自分の過去と上手くコミュニケーションを取っているかどうかだろう。)

そして、クリエイターと企業が組んで一つのグループとなり、何が自分達にとってワクワクすることなのかをディスカッションして、そのワクワクを活かすにはどうすれば良いか、社会の問題を解決することに使えるかとさらにディかションを続け、ワクワクを活かすペルソナを設定し、方法論を見つけ、新規の事業をクリエイターとともに形作っていく。

最終的には、これをプレゼンテーションという形で発表してもらい、審査するというプロセスである。
(ここで発表されたプロジェクトは、予算をつけて実装していくものではなくあくまでも概要で終わる。はじめから予算のことを考慮するとその枠内に収めてしまうのが心理である。)

2018年は、このデザイン塾を基として静岡県の事業として、デザイン経営についてのプロジェクトとして発展していった。
この事業はVUCAの時代に、企業はどのように事業をアップデートしていくかを中心に据え、具体的な方法としてコーチング、クリエイティブリーダー、デザイン思考、デザインメタファーのワークショップを行った。
(今から考えると、2018年の時点でも時期的には少し早かったかもしれない。まだまだ理解が進まない社会で、特に地方都市はまだ旧態依然の業態が続く中で、デザイン経営のワークッショップはまだまだ受け入れてられなかったようである。今こそこれが必要と思うのだが。)

クリエイターは地域資源

そこに参加してくれた人たちは、それぞれが今もつながって関係性を深めてくれているようだ。
そのつながりは少しずつ育って来て、色々なところで成果を出し始めている。
地元のクリエイター同士がつながったり、地元の企業とクリエイターがつながっていたりしながら、創造的な活動を続けている。
そんな成果がSNSに記事としてアップされると嬉しく思う。

数人でも数社でも、デザインというものに関心をもち、自分の事業を推進しようとする企業と、それを形にするデザイナー、クリエイターとの関係性が地域の産業を推進していくと考えるからだ。

詳しくは書かないが、経産省の統計を見るとデザインを職業とする企業は、首都圏と政令市に集中していて、中核都市にはほとんどいないのが現状である。デザイナーという職種の仕事をしている人もいるが、そのほとんどはインハウスデザイナーで企業に所属している。

デザインを職業としている人は、その地域を豊かにしていく技能を持っているのだが、あまりその価値を認識している企業は少ない。
造形的なデザインの依頼は、信頼関係がそこまで構築されていなくても、発注できると考える企業が多いのだろう。

中核都市において、だでさえ少ないクリエイター(主にデザイナーだが)は少ない。
そこに住むクリエイターは、その地域にある様々な思いを具現化する地域資源と考えた方がよい。

2016年、三島のデザイン塾を開催した当時、デザインを活用した先端の事例としてイギリスのクリエイティブ産業や、アメリカのAirB&B、UBERなどの例が上げられ、企業がイノベーションを起こすにはデザインに着目して経営することが必要だと、様々なところで情報を見かけた。

しかし、それは海外の事例であり、東京でもデザインの活用が進んでいない状態で、静岡で経営にデザインを活用するという話はかなり縁のない話だっただろう。

私の出身地である静岡県の東部(伊豆半島や、富士市、富士宮市、沼津市、三島市、御殿場市など)の町を支えている企業は、日本の主幹産業の下請が多く(最近は協力企業という名称になり、上下の関係というイメージを払拭する雰囲気だが)、売上規模や、従業員の雇用者数は多いのだが、デザインを活用するような企業はほとんどない。

静岡東部在住のデザイナー・クリエイターのほとんどは、住居は静岡だが、クライアントの多くは、首都圏や県内の大手企業であり、静岡県東部以外からの仕事の受注が多いのだ。
それは静岡だけでなく、関東近郊の中核都市に住むクエリエイターは、ほとんど同じ状況である。

地元の企業とデザイン的なつながりで活躍をしていたのは、内装設計のデザイン会社だ。
当時、静岡東部のオピニオンリーダー的な役割を担っていた人物がこの地域のデザインのリーダーだった。
このデザイン会社は、飲食店や雑貨店、カフェなどの内装を手がけ、地域のところどころに感度の高い、センスを感じるような店舗をいくつも出がけていった。

その店舗のロゴデザインや内装に関わるサイン、店内グラフィックなどの仕事を手がけるクリエイターも多かった。

しかし、それはデザインラダー(デンマークのデザイン会社が発表した、デザイン活用の4つのステップのこと)におけるステップ2:造形としてのデザインの状態であり、形や存在としてカッコ良い、綺麗、可愛いと形容できるものを表出する行為としてのデザインである。

クリエイターとともに地域を盛り上げる

デザインラダーのステップ3は「プロセスとしてのデザイン」、ステップ4は「戦略としてのデザイン」に上がっていくには、クリエイター、企業ともに意識のアップデートが必要だ。

デザイナーがステップ3:プロセスとしてのデザインを実践するためには、デザイン思考とアート思考を学ぶことが必要になる。
そして、ステップ4:戦略としてのデザインを実践するには経営を学ばないといけない。

学ぶには、まずそこに興味関心がなかれば学ぶことはできない。
しかし、そこに興味を持つためのビジネス案件も中核都市より小さな町にはあまりない。

そこで、クリエイター、企業ともに、デザインを戦略的に使っていくためのステップの一つ目の段階として、三島市のクリエイティブシティ構想に乗じて、デザイン塾なる企画を地元の仲間たちと立ち上げ、実行していった訳である。

それが4年ほどかかって、少しずつ盛り上がって来ている様に思える。

コロナ禍でビジネスの構造にも変化が見え、さらに企業経営の目指す先が利益のみではないと言われている今、このデザイン塾もブラッシュアップしたもので再開してみたい気もする。

Cover Graphic : Golfer from Won At The Last Hole. A Golfing Romance published by Cassell & Co. (1893). Original from the British Library.

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