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2024年入試の時事問題を考える


 

秋になると各塾から時事問題集が出版されます。
その前に一足早く2024年入試で狙われる時事問題について見ていきたいと思います。


1,時事問題の考え方

(1)時事問題のタイプ

まず、時事問題の考え方からお話しします。時事問題の出題は大きく2つのタイプに分けられます。

A:時事問題に直接的に関係するもの
B:時事問題に間接的に関係するもの

 Aはニュースなどで報道される内容です。一方Bは授業で学習したAに関係するものです。

  例えば2022年に参議院議員通常選挙が行われましたが、選挙の結果(政党別の議席数など)がAとすると、Bは選挙や国会の仕組みといった、授業で学習した内容です。そして実際に出題されるのは圧倒的にBが多いです。その比率は1:9かそれ以上でBが高いです。

 時事問題集が出ると保護者や塾はニュース解説に時間を割きますが、正直に申し上げてそれは賢い使い方とは言えません。時事問題集が出るのは大体10月末~11月初めです。その時期は過去問演習を行い、追い込みをかける時期です。その時期に入試本番であまり出ない細かい部分に時間を割く余裕はありません。それならば、時事問題集の後半に掲載している問題演習に時間を割いた方が効率的と言えます(ちなみに、毎秋個人的に時事問題を公表していますが、ニュースに関する説明はほとんどなく、演習に特化したものにしています)。

※   イメージ図

 以上から中学受験の時事問題は以下のように考えるといいでしょう。
●時事問題はニュースそのものを積極的に扱うことはない
●時事問題のニュースを基に、それに関連するものがメインに出題される
次に、入試問題における時事問題の捉え方を紹介します。

(2)入試問題における時事問題の捉え方

 現在、私はTwitterで学校別の入試問題の分析を紹介しています。
 そこでは時事問題の出し方を紹介していますが、その内容を大きく3つに分けています。

①時事問題を見なくていいわけではないが、対策としての効果は小さい。
②時事問題を基に、授業で習ったものを出す。
③時事問題を基に、それに直接的に関係するものや授業で習ったものを出す。
 
①は正直そこまで時事問題の対策をしなくてよいです。ただ、全ての受験予定校が①になることはないでしょうから時事問題に関心を持つ必要は当然あります。
 ②は(1)で述べたBの「時事問題に間接的に関係するもの」がメインです。ニュースを基にそれに関連する授業で学習したものを覚えておけば対策になります。
 ③は(1)で述べたAの「時事問題に直接的に関係するもの」も含まれます。全てとは言いませんが、ニュースで出てきた言葉を覚えてることを勧めます。もちろん、Bの「時事問題に間接的に関係するもの」も押さえなければなりません。

 ではこの①~③の比率はというとおよそ2:6:2だと思っています。おそらく全て①のタイプの学校を受けることはないでしょう。また、全て③以外というのも少ないと思います。ですので、ニュースで出てきたすなわち(1)で述べたAの内容まで対応する必要はあるでしょう。ただし、やはりそれほどAに力を入れる必要はないと思います。それよりも、授業で習ったことをしっかり覚えることの方が重要です。
 (1)と近いまとめになりますが

●中学受験で社会を使うなら、時事問題の対策は必要
●時事問題に直接的に関係するものを押さえることも大事だが、それ以上に 時事問題に関係する、授業で習ったことを確実に覚える方が大事である。
 と言えます。
 では、2024年入試ではどんな時事問題の出題が考えられるか1つずつ見ていきましょう。

2,2024年入試の時事問題を考える①~今年の注目ニュース

 2024年入試で狙われそうな時事問題を紹介していきます。掲載順は出題されやすいと考えているものです。ただし、後の方が出にくいわけではありませんし、今回紹介しなかったものでも入試で取りあげられるものももちろんあります。とはいえ、全てを扱うのも効率的ではありません。選択と集中で時事問題に取り組むのが有効です。
 今年の注目ニュースを紹介する前に1つ言いたいことがあります。それはここ数年に比べて今年は大きなニュースがないということです。というより、ここ数年大きなニュースが続きすぎたといえます。例えば2019年から2022年を見ると以下の通りになります。

2019年 平成から新元号令和へ
2020年 新型コロナウイルスが世界中にまん延
2021年 東京オリンピック・新型コロナウイルス
2022年 ロシアのウクライナ侵攻

 
と、数十年に1度のニュースがここ数年相次いだわけです。そして実際に学校もそれらのニュースを軸に入試問題を出していました。
 それに比べると2023年は今のところここ数年に比べて大きなニュースはありません。そのことを念頭に置いて2023年の時事問題を見てください。

 

(1)広島サミット

 この記事の翌週に開催される広島サミットは2023年のニュースの中では比較的大きなものといえます。サミットでどのようなことが話されるのか、そして各国首脳がサミット開催中どこで何をするかに関心を持ちましょう。
 では、広島サミットを基にどのような出題が考えられるでしょう。先述の通りサミットの内容が出題される可能性は十分にあります。これは第1章(1)で紹介したAタイプの問題といえます。
 一方第1章(1)で紹介したBタイプの問題はどうでしょう。まず考えられるのは広島県の地理の問題です。地形では太田川(三角州)・広島平野・広島湾、農業はレモン栽培、漁業はカキの養殖、工業は広島市と府中町(自動車工業)・呉市(造船業)・福山市(鉄鋼業)などがあります。そして世界遺産の原爆ドーム、日本三景の宮島にある厳島神社といった多くの人が訪れる場所も出題される可能性が高いです。広島県だけで話しをまとめず、広島県のある中国地方・瀬戸内地方の地理まで広げた出題も考えられます。
 地理分野では他にサミット参加国の地理も考えられます。基本的には日本との貿易や交流に目を向けるといいでしょう。公民分野なら各国の首脳の名前が出る可能性があります。
 他に広島県の歴史も考えられますが、それだけで問題を作るのは難しいです。考えられることとして、広島県の歴史を振りに様々なことを聞くというものです。ただし、そこまでいくと時事問題に執着しなくていい内容になりますので特別な対策は不要です。

 

(2)人口

人口に関しては世界と日本の動きに分けてニュースを見ることができます。①世界
●世界人口が80億人突破(2022年11月)
●インドが中国を人口世界一(2023年中)
②日本
●2070年に人口8700万人に減少と予測
●少子化対策

 まず①ですが、人口に関する数字や国が聞かれる可能性が高いです。また中国であれば一人っ子政策を行っていたことが出るかもしれません。
 次に②ですが、地理分野では戦後から現在にかけての人口の推移を通して日本の産業などの変化をみる問題が出る可能性があります。また、日本全体ではなく、過疎地域・過密地域といった特定の地域間の人口差を素材にした出題もあり得ます。
 一方公民分野では2023年4月に発足したこども家庭庁やヤングケアラーといった子どもに関する話題と結びつけて日本の行政について出題する可能性があります。また、多答式の思考型問題として、少子化にどう取り組むかを考えさせる問題が出る可能性もあります。
 少子化の原因は様々です。子どもが生まれてから成人して自立するまでの間、どの年代にも少子化につながる課題はありますし、対策も様々です。そのためどの部分を聞いてくるか分からないので幅広く対策を図る必要があります。

(3)島の数の変更

 受験生が手にしているテキストには日本に島が6852あるとなっているはずです。しかし、2022年の調査により島の数が14125あることが明らかになりました(実際に確認できたのは10万以上ともいわれています)。
 では新たに確認された島が出るかというと、出ません。先述のAタイプの出題を考える必要はありません。出るのはこれまで学習してきた島に関するものです。本州を含む主要四島や東西南北の端の島はもちろん、北方領土・佐渡島・淡路島・種子島・屋久島など、形が問われやすいものや産業などが話題の島に関することが出題されるでしょう。ただし、多くは授業で習ったことですので、しっかりとした対策をすれば高得点を狙うこともできます。

(4)情報化社会(AIの進化)

 AIの進化が劇的に進み、社会が変化する可能性があります。そうした中、新たなAIであるChatGPTが注目されています。進化する科学技術を実際に使うことになる受験生がどう考えているかを聞く問題が出る可能性があります。
 具体的にはChatGPTのようなAI技術の使い方の問題点や扱い方について考えさせる問題が出るかもしれません。また、SNSなどの情報発信の在り方について考えさせる問題も出る可能性があります。 
 情報化社会は日々進化しています。だからこそ情報化社会を含む新しい技術に対してどう取り組むべきかを考えさせる問題が出る可能性があるのです。

(5)新紙幣発行

 先ほども述べたとおり、2023年には大きな話題はそれほど多くありません。そのため入試年である2024年に起きることが話題になる可能性が十分にあります。
 その1つに新紙幣の発行があります。新紙幣は以下の通りです。(  )は裏面
10000円札 渋沢栄一(東京駅)
5000円札   津田梅子(藤)
1000円札     北里柴三郎(『神奈川沖浪裏』―『富嶽三十六景』)
 
出題されやすいのは表面の人物の肖像画です。それに関連して歴代肖像画を題材にした人物史の出題も考えられます。実際、紙幣の肖像画に関する問題は入試でも出題されることが度々ありました。また少し細かいですが裏面の東京駅から近現代史、『神奈川沖浪裏』から東海道の地理や歴史といった問題も考えられます。ただ、やはり細かい部分ですので出る可能性は低いでしょうし、時事問題に直接関わるテーマではないので特別な対策は不要です。
 そして、新紙幣の発行に合わせてお金に関する問題が出る可能性もあります。新型コロナウイルスなどがきっかけでキャッシュレスが浸透してきています。また、様々な点で話題の暗号資産(仮想通貨)の出題も考えられます。今後お金の扱い方についてさらに変わる可能性があります。お金に関する話題は幅広く関心を持ってほしいです。

(6)北陸新幹線延伸

 2024年3月に北陸新幹線が福井県の敦賀まで延伸します。
 新幹線が話題の年は沿線の地理に関する問題が出ます。つまり、東京都→埼玉県→群馬県→長野県→新潟県→富山県→石川県→福井県の地理が狙われやすいです。その中でも延伸する福井県と福井県のある中部地方の地理は出題されやすいでしょう
 ここ数年、特定の地域が話題の時事問題をあまり見かけませんでした。中部地方は先述した広島サミットが開かれる広島県(中国地方・瀬戸内地方)とともに注目した方がいい地域です。

 (7)スポーツに関する話題

(WBC・バスケットボールワールドカップ・ラグビーワールドカップ・パリオリンピック)

 2023年は3月のWBC制覇に始まり、夏以降はバスケットボールにラグビーのワールドカップがあります。バスケットボールのワールドカップは沖縄で開催されます。また来年はパリオリンピックが開催されます。
 では何が出題されるか。おそらく開催地の地理と日本と対戦した、もしくは対戦予定の国に関することでしょう。ただし、「日本がWBCの決勝戦で戦った国はどこですか。」のようなクイズ番組のような問題は出ません。メディアが取りあげて盛りあがった内容を覚えるよりも、テキストの内容をしっかり押さえることができれば十分に対応できるでしょう。

(8)財政

 ここ最近の国際社会が背景となって、2023年度予算は前年に比べて防衛費が増額されました。他にも少子化対策にも予算が組み込まれました。
 予算は内閣(財務省)案を提出して国会で審議します。こうした財政の仕組みについて出題される可能性はあります。ただし、公民分野で財政の学習をしていればそれほど難しくありません。時事問題は授業で習ったことの延長として捉え、ニュースとテキストを上手くつなぎ合わせて下さい
 

(9)周年問題

 時事問題とは直接関係しませんが、○のつく年から△△年前といった出題は毎年あります。学校によっては定番にしているところもあります。 
 基本的には歴史分野の振りで使われるだけですが、関心を持っておくといいでしょう。

●「3」のつく年の出来事(○は重要)
1993年 環境基本法
1973年 石油危機○
1963年 部分的核実験停止条約
1953年 奄美返還・テレビ放送開始・朝鮮戦争休戦
1933年 国際連盟脱退
1923年 関東大震災○
1883年 鹿鳴館完成
1873年 征韓論争・地租改正○・徴兵令○
1863年 薩英戦争
1853年 ペリーが浦賀に来航○
1603年 江戸幕府成立○
1573年 足利義昭が京都から追放される→室町幕府滅亡
1543年 種子島に鉄砲伝来○
1333年 鎌倉幕府滅亡
1293年 竹崎季長が『蒙古襲来絵詞』を制作
1213年 源実朝『金槐和歌集』を完成させる
1083年 後三年の役
743年 墾田永年私財法○・東大寺建立の詔○
723年 三世一身法制定
663年 白村江の戦い○
603年 冠位十二階の制○
593年 聖徳太子が摂政になる○

●「4」のつく年の出来事(○は重要)

1964年 東海道新幹線開業○・東京オリンピック○
1954年 自衛隊結成○
1924年 甲子園完成○
1914年 第一次世界大戦○
1904年 日露戦争○
1894年 領事裁判権の撤廃○・日清戦争○
1884年 秩父事件1874年 民撰議院設立建白書の提出
1854年 日米和親条約○
1804年 レザノフ長崎来航
1774年 杉田玄白・前野良沢『解体新書』刊行
1624年 スペイン船来航禁止
1614年 大坂冬の陣
1584年 小牧・長久手の戦い
1404年 勘合貿易○
1334年 建武の新政○
1274年 文永の役○
1184年 一の谷の戦い
1164年 平清盛、厳島神社に『平家納経』を納める
894年 菅原道真、遣唐使廃止を建言○
884年 藤原基経、関白になる
804年 最澄・空海、遣唐使として渡航
794年 桓武天皇、平安京に遷都を行う○
784年 長岡京遷都
754年 鑑真来日
724年 聖武天皇即位
694年 藤原京遷都
604年 憲法十七条制定○
404年 倭国、高句麗と戦い広開土王に敗れる
 「3」のつく年は関東大震災から100年が狙われる可能性が高いです。また1973年の石油危機も大きな出来事です。これらは災害・環境問題・産業・サミットなどと結びつけて出題される事も考えられます。こういう話題が広げやすいテーマは出題されやすいです。テキストを通してよく確認するといいでしょう。
 他に1873年の地租改正・徴兵令も出題される可能性が高いです。他の「○」をつけた出来事も同様です。歴史分野の学習とともに理解を深めてください。
 一方、「4」のつく年はまず1894年の日清戦争、1904年の日露戦争、1914年の第一次世界大戦といった戦争に関する出来事です。これらは周年問題関係なく出題されやすいですが、特にロシアのウクライナ侵攻と結びつけて日露戦争が出る可能性が高いです。
 そして1924年の甲子園完成も注目です。甲子園自体が出題されることはおそらくないでしょう。むしろ狙われるのは甲子園の由来になった十干十二支の「暦」に関するものです。歴史の授業で出てくる暦が由来の主な出来事として以下があります。

645年 大化の改新(乙巳の変)
670年 庚午年籍
672年 壬申の乱
690年 庚寅年籍
1592年・97年 文禄の役・慶長の役(壬辰・丁酉の倭乱)
1868年 戊辰戦争
1894年 甲午農民戦争
1911年 辛亥革命
 授業で普通に扱うものは用語自体が聞かれる可能性があります。扱わないものでもそれを基に関連することが聞かれることがあります。
 他にも暦は色々なところで使われています。ここ最近暦を素材に問題を作る学校を見かけませんでした。ですのでそろそろ暦にちなんだ問題が増えるのではと予想しています。
※    2023年入試は例年に比べて祝日に関する問題が多く出ました。ここ数年 祝日の移動があったため出題しづらかったと思います。だから、2022年は通常の1年になったことで2023年入試での出題が増えたのだと思います。
 周年問題は特定の出来事を軸に様々なことを聞くテーマ史や、「○」のつく年で年表を作ってそれらに関することを聞くというタイプをよく見ます。ただし、いずれにしても歴史分野の問題です。歴史の内容をきちんと覚えた上で、今年はこういうのが出やすいとプラスアルファの対策をするといいでしょう。

 ここまで2023年、また2024年の注目の時事問題などを紹介しました。しかし、2023年より前のニュースであっても現在も話題になっているものなら2024年の入試でも出題される可能性があります。次はそうしたニュースについて紹介したいと思います。

 3,2024年入試の時事問題を考える②~関心が続いているもの

 次に2023年以前から注目され、来年の入試でも出題される可能性の高い時事問題を紹介します。ここからは去年書いた記事をベースに作成しています。去年の記事のリンクを貼っておきますので、詳細を知りたい方はこちらを御覧下さい。 

2023年入試の時事問題を考える|中貴社 (note.com)

 では、どのようなニュースがあったか見ていきましょう。

(1)ロシアによるウクライナ侵攻

 去年の2月の終わりからロシアによるウクライナ侵攻が続いています。いつ終わるかは見当がつきませんが、早く終わることを願います。
 第1章(1)のAタイプの「時事問題に直接的に関係するもの」になると以下の通りです。
ウクライナ・キーウ・チョルノービリ(注)・ゼレンスキー・プーチン・クリミアなど
(注)去年表記が変更されたもの(例 キエフ→キーウ、チェルノブイリ→チョルノービリなど)がいくつもあります。大分時が経って浸透しましたので、「キーウ」・「チョルノービリ」などで覚えておくとよいでしょう。
 一方、Bタイプの「時事問題に間接的に関係するもの」はどうでしょう。幅広い出題が考えられますので、テーマ毎に見ていきます。
①国際連合
 
今回のことで国際連合の問題点がさらに浮き彫りになったと思います。それを表す例題がこちらです。
「国際連合の安全保障理事会がロシアのウクライナ侵攻を止めることができない理由を説明しなさい。」
 これは2023年入試でもよく見かけた問題です。
 解答例として「ロシアへの制裁などに対してロシアが拒否権を行使するため議決が無効になるから。」などが考えられます。
 もちろん、国際連合の基本的な組織についても聞かれるはずです。授業で習ったことを復習して覚え直すといいでしょう。 

②日露(日ソ)外交史
 
1792年のラクスマン来航から、現在の北方領土問題までの江戸時代後半から現代までの歴史の問題が出る可能性があります。
 特に日露戦争については2024年からみて120年と周年問題でも出題される可能性が高いでしょう。 

③世界地理・貿易
 
世界地理については当然ヨーロッパの出題が考えられます。
 また貿易に関しての出題も考えられます。例えば、ロシアやウクライナは小麦生産が盛んな国です。確かに日本は両国からは小麦を大量に輸入していません。しかし、両国から小麦を輸入している国が、アメリカやカナダなど日本が大量に小麦を輸入している国に輸入相手先としてロシアやウクライナから乗り換える可能性は十分にあります。そのことが日本の食糧事情にも影響を及ぼすおそれもあります。そのため、農業に関する問題が出る可能性はあります。
 そして貿易に関しては現在の円安傾向、そして貿易赤字と関連づけた出題も考えられます。さらにそこから日本の工業といった産業にまで視野を広げた出題も考えられます。ただ、そこまでいくと時事問題というより貿易の単元になりますので、特別な対策は不要になります。

④国際紛争
 
ロシアが関係していることなので、戦後の東西冷戦に関する問題が出る可能性があります。また現在紛争が起きているスーダンも出題される可能性はありますが、スーダンがどこにあるか(エジプトの南)が分かっていればまずは大丈夫でしょう。
 また、ここ数年のニュースで見かけるアフガニスタン・ミャンマーについても関心を持っておくといいでしょう。ただし、それほど細かく押さえる必要はありません。スーダン同様、両国の位置を覚えておけば大丈夫でしょう。
 最後に、このテーマは入試前日に大きな出来事が起きてもおかしくないです。そのため、2023年末の出来事まで扱われる可能性があります(ラ・サールのように入試直前に起きた出来事を聞く学校もありますが)が、入試関係なく心を痛めない範囲内で関心を持っていて欲しいと思います。

(2)新型コロナウイルス

 来年の入試でも新型コロナウイルスに関する問題が出ることでしょう。ここ何年かで多くの学校が出題しました。ですので、過去問による対策を進めていけば自ずと新型コロナウイルス関連の問題の対策ができるはずです。その一方で新型コロナウイルスに関する新しい話題もあります。そこで、出題量の増減に注目して新型コロナウイルスに関する問題を見ていきます。
 まず新型コロナウイルスそのものの出題は減るでしょう。おそらく理科でウイルスについて出題するくらいです。また感染症の歴史も多くの学校で出しましたので、同じテーマの問題をすぐに再び出すこともないと思います。先日新型コロナウイルスが季節性インフルエンザと同じ扱いの5類に変わりました。社会的な関心が薄れる中、それ自体に関する出題はさらに減ることでしょう。ただ1点、今回の新型コロナウイルスを受けて秋に内閣感染症危機管理統括庁が新設される予定です。具体的な機能までは聞かれないでしょうが、名称は覚えておくとよいでしょう。
 そして出題が比較的多そうなのが、新型コロナウイルスによる影響です。新型コロナウイルス前、感染拡大した時期、5類後のこれからの世界、この3つの時期のうち2つもしくは全体を通して社会がどのように変化したか、変化していくかを見ていく問題が出る可能性があります。
 例えばインバウンド需要でみてみると、コロナ禍前の2019年の訪日外国人はおよそ3100万人でした。しかし、コロナ禍でインバウンド需要は大きく減少しました。これにより観光業は大打撃を受け、倒産や失業した宿泊業もありました。そして2023年のゴールデンウィークはインバウンド需要だけでなく国内の観光客もコロナ禍前に近づきました。しかし、それによりコロナ禍前に問題になっていたオーバーツーリズム(観光公害)の問題が再び起きつつあります。では今後観光業はどうなっていくか。そうしたコロナ後の社会を受験生に考えさせる可能性があります。
 また労働にも大きな影響がありました。先述した観光業もそうですが、コロナ禍で多くの人が他の仕事に移りました。そのため需要がコロナ禍前に戻っても労働力不足で十分に対応できないといった業種もあります。そのため、外国人労働者や人工ロボットなどを利用して労働力不足の解消に取り組んでいるところもあります。先述の少子化による労働力不足の問題と合わせて出題される可能性があります。
 さらに労働についてはコロナ禍で進んだテレワークといった働き方にも注目です。今後もテレワークが進んでいくのか、それともテレワークを止めて再び対面での労働に戻るのか、受験生はどちらを選ぶのかについて考えさせる問題が出るかもしれません。

(3)人権問題

人権に関するものとして次の3つの関心が高いでしょう。
①男女差別(ジェンダー)
②難民問題
③ヤングケアラー
 
①については最近の入試でも扱われるジェンダーギャップ指数に関する問題が出る可能性があります。

「共同参画」2022年8月号 | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)

 日本の場合、経済分野と政治分野が低いことが話題になります。ですのでそれにちなんだ問題が出る可能性が十分に考えられますし、実際に出ています。
 それ以外にも先述した少子化対策とも関連づけて出題する可能性があります。
 また、性に対する多様な考え方について出す学校が増えてくるかもしれません。女子の方が男子より性に関する理解が早く、女子中でこうしたテーマの問題が出題されやすいです。実際、数年前にある女子中で同性婚をテーマにした問題が出たことがありました。
 このテーマは家庭の考えが大きく反映されます。ですので塾で話すことについ二の足を踏んでしまいます。家庭で会話する機会を持ち、理解を深めて下さい。
 ②の難民については、2021年の東京オリンピック、2022年のロシアのウクライナ侵攻がきっかけで注目されるようになりました。そして政府も難民の受け入れについて徐々に方針を変えつつあります。難民への対応の変化や法務省の動きについて関心を持つといいでしょう。例えば外国人の入国などの管理を行う出入国在留管理庁は法務省の外局です。
 ③のヤングケアラーについても2023年4月に発足したこども家庭庁といった具体的な対策が進みつつあります。ただし、こちらもまだ対策に動き始めたばかりですので具体的な成果が出るには時間がかかります。また、受験生と同年代の子たちが抱えているテーマですので、学校としては関心を持ってほしいという思いから来年の入試でも出題されると思います。

(4)環境問題(エネルギー問題)

 パリ協定による目標設定以降、環境問題がさらに注目されるようになりました。時事問題でも「カーボンニュートラル」や「ゼロエミッション」といった言葉が出るようになりました。一方、現在の国際情勢を背景にしたエネルギー問題も重要なテーマになりつつあり、環境とエネルギーを軸にしたテーマも考えられます。
 環境問題では、1972年の国連人間環境会議から現在までの環境問題の取り組み(1992年地球サミット、1997年地球温暖化防止京都会議、2015年パリ協定など)が出題される可能性があります。また環境問題は地球温暖化を軸に出題されるでしょうが、他の環境問題と関連づけた出題、例えばオゾン層破壊や熱帯林伐採などの出題も考えられます。
 環境問題は他にも食品ロスやマイクロプラスチックゴミに関する出題も考えられます。もっとも、これらはここ数年の入試で頻出の話題でしたので、過去問を通して十分に対応できるはずです。
 一方エネルギーに関しては、主なエネルギー資源の輸入先の出題が考えられます。また、日本の電力事情についての出題も考えられます。いずれも地理分野で学習した「貿易」と「資源」の単元をおさらいしておくといいでしょう。 

(5)災害関連

 時事問題として扱われることがないのが望ましいですが、大きな災害が起こるとそのことが入試問題で扱われることが多いです。 
 今年のゴールデンウィーク中に能登半島で、その後も千葉県・北海道などで大きな地震が起きました。あっては欲しくないですが、もしかしたら今後も大きな地震が起こるかもしれません。
 そして地震というと2023年は関東大震災からちょうど100年になります。震災の起きた大正時代の出来事、災害全般を通したテーマ史の出題が考えられます。他にも災害への備えといった取り組みや、自助・共助・公助に関する問題が出るかもしれません。 
 災害に関する問題は入試対策になりますが、それ以上に災害から身を守るために取り組んで欲しいです。 

(6)SDGs

 時事問題ではないですが、SDGsは今や中学受験では必須のテーマです。しかし、通常の授業でSDGsについて詳細に触れる機会はあまりありません。また、市販の時事問題集で扱うこともあまりありません。だからこそ、自身でSDGsについて学び、その重要性を知って欲しいです。
 ではどのような対策をすればよいでしょう。17の目標を知ることは確かに重要です。しかし、「SDGsの目標の13番目は何?」みたいな聞かれ方はしません(因みに13番目の目標は「気候変動に具体的な対策を」です)。実際に聞かれるのは例えば、「SDGsの13番目の目標は「気候変動に具体的な対策を」ですが、あなたができる取り組みは何ですか。」といった具体的な取り組みを考えさせる、もしくは正しい取り組みを選ぶ問題です。また、「○○と言った取り組みと関係の深いSDGsの目標を選びなさい。」と取り組みとその効果を結びつける問題も出ます。しかもこういう取り組みは複数の目標に関係することが多いですので多答式の選択問題の出題も考えられます。
 SDGsについては日ごろからの実践が大事と言えます。日ごろからSDGsについて関心を持って下さい。

(7)世界遺産は時事問題では今年も出ない?

 2024年入試に「時事問題」として出ないテーマがあります。それが世界遺産に関する問題です。日本は昨年UNESCOに世界遺産の登録が申請できませんでした。そのため、今年は日本から新しい世界遺産が誕生することはありません。
 ただし、世界遺産に関する出題は毎年多くの学校で見られます。日本の世界遺産は計25あり、地理・歴史・公民どの分野でも扱いやすいものばかりです。ですので、時事問題に関係なく対策が必要です。むしろ、新しい世界遺産が誕生しないことで世界遺産全般の問題が出るおそれがあります。対象を絞れず日本の世界遺産全体に目を向けなければならないため、むしろ厄介かもしれません。 

 以上、2024年入試で狙われる可能性がある時事問題を紹介しました。ここ数年と比べると話題の中心となる大きなニュースがない代わりに、様々なニュースが出題される可能性があります。ポイントが絞りにくいからかえって扱いにくいかもしれません。

4,まとめ~時事問題対策の進め方に変えて

 以上、時事問題への考え方と、2024年入試問題で狙われやすい時事問題について解説しました。最後に時事問題への取り組み方を時期毎に述べたいと思います。

(1)今の時期の時事問題の考え方

 今は授業で学んだことの理解に専念してください。おそらくこの時期は公民分野の学習をしているはずです。社会科が専門で、経験値の高い先生なら単元学習と並行してそれに関する時事問題について触れるはずです。そうした話に耳を傾けて時事問題の理解を図るだけで十分に効果があります。
 それだけでは不安もしくは社会科が得意で日頃からニュースに関心の高い子であれば家庭でも時事問題について話し合ってください。6年生になるとかなり踏み込んだところまで学習するため保護者は学習スケジュールなど生活面のフォロー(それだけでも十分助かりますが)はできるものの、学習自体のフォローが難しくなります。しかし、日頃からニュースを見ていれば時事問題について話し合うことができます。保護者もニュースに関心を持ち、親子で話し合う。そうした習慣を持つことは時事問題の理解以外にも例えば語彙力を増やすといった様々な効果が期待できます。さらに「○○についてどう思う?」といった議論が進めば長文記述対策にもなります。
 時事問題は保護者が子どもに教えることのできるものの1つです。是非保護者もニュースに関心を持ち、親子間で話しあってください。

(2)過去問の利用

 6年の1学期が終わる頃には3分野の学習が終わり、総合演習に入ると思います。また経験を積ませるために過去問に取り組むかもしれません。塾によっては『有名中問題入試問題集』(声の教育社)や『中学入学試験問題集』(みくに出版、通称銀本)や『近畿の中学入試問題集』(英俊社)などを購入させて過去問に取り組ませるかもしれません。第3章でも述べたとおり、2024年入試は2023年より前に起きた今も関心の高いニュースも出題される可能性があります。つまり2024年入試で出題されるかもしれない時事問題が過去の入試問題にある可能性があります。志望校の入試問題だけでなく志望校の傾向に近い入試問題にも目を通し、第3章で紹介した時事問題が載っていたら取り組ませるといいでしょう。 
 通常、時事問題は継続することがないため古い年度の過去問を取り組むことを積極的には勧めません。しかし、ここ数年大きなニュースが続き現在も話題になっているため、過去問を通して時事問題対策が行うことができます。是非入試問題を利用して対策を進めて下さい。
 最後に地理分野・歴史分野・公民分野の学習単元から見た時事問題についてまとめた表を掲載します。その単元を復習する際にどのような時事問題と関連づけて出題するかを確認しておくと良いでしょう。

 

今回の記事全て(画像含む)をPDFにしたものも添付します。編集やコピーはできませんが印刷はできます。noteの記事が読みにくい人はこちらの方が読みやすいかも知れません。お好きな方でお読み下さい。


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