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本屋、はじめまして #5 ヤンヤンー後編

「本屋、はじめまして」について
オープンしたての独立書店の店主が、本屋を開くまでのリアルなお話を綴る本屋開店エッセイです。本屋をやってみたいなーとぼんやり思っている人の背中を一押しできるような、そして開店準備にとりかかってもらえるような記事をお届けしていきます。後編は本と仕事と店主の方についての一問一答。そして、お店に並ぶ商品で(本に限らず)、おすすめのものを紹介していただきます。 前編はこちらから。 



本と仕事と店主についての
8問8答



1 オープンから 約半年、率直な感想は?

8ヶ月もよく続いてきたな、というのが正直なところです。それでも、こんなに見つけづらいお店でも通ってくれる方や、お店のテーマに共鳴して語りかけてくれるお客さんたちとの会話は楽しいですし、これによって自分が得られる知識や、お店自体が変化してゆくことを身をもって実感しているので「これがお店を運営するということなのか」と日毎に学んでいます。


2 仕事の必需品は?

書籍のスリップ挿しです。
京都の左京区にある古道具屋さんのitouで購入しました。買ったタイミングは、いざ書店にするぞ!と決意をしたとき。一見、何の変哲もないようなスリップ挿しですが、そういう経緯があったため大事なものです。スリップが挿入されていない書籍や道具が売れた際は、自作のスリップを使って売り上げ管理に使っています。


3 最近気になったニュースは?

やはり7/7に行われる東京都知事選でしょうか。都民として、単純にこれまでの8年間で公約を果たせたとはいえない方を再選させるのはおかしいのではないか、という疑問とともに、未来を見据え少数派の方にも生きやすい社会をつくる候補を支持して投票に臨みたいと思います。また、最近は大阪であった「下請けに無償でやり直し 2万4600回で印刷会社に公取委勧告」というニュースに着目しました。お店の傍ら、デザイン業務や編集業務を請け負うわたしからすれば、このような労働力の搾取は見過ごせない問題です。


4 今読んでいる本は?

『日本のまちで屋台が踊る』(屋台本出版)

知人に、ある神社の境内で屋台を開く方がいることがきっかけで出会った本です(残念ながら当店には置いていません)。まず、屋台というかりそめの装置を街中に出現させ、それによって街の見え方や地域の人たちでのコミュニケーションのあり方が変わってゆくという現象に興味があります。5名の屋台実践者に、屋台を開くまでの経緯や屋台によって何が変わったのか聞いてゆきつつ、専門家による「屋台論」が多数収録されたこの本。読むたびに発見が。


5 読書をするシチュエーションは?

夜に自宅に帰り寝るまでの時間に読むことや、仕事中の隙間時間に読むことが多いです。勢い余って、やることがあるのに読書へ自ら熱中しにゆくことも、ままあります。


6 これまでの人生で記憶に残る1冊は?

『定本 城侑詩集』(青磁社)
手前味噌(?)で恐縮なのですが、わたしの祖父が残した詩集です。祖父ははたらく傍ら、取材や自らの出自・経験を通して散文詩を制作する詩人でもありました。わたしの幼い頃にアルツハイマーを患い、生前に碌な会話もできなかった祖父。かれが亡くなった事をきっかけに、大学時代はじめて「ちゃんと」向き合ったこの詩集を読んで、祖父は生前何を考え、どのようにものを書いていたのだろうかと考え、かれの残した作品や記録、部屋の佇まいからもさまざまな事を思ってきました。そういう経験が、いまのヤンヤンのコンセプトを構成するひとつの要素であったことは間違いありません。


7 城さんが考える「本の魅力」とは?

「稽古とは、一より習い十を知り、十よりかへる、もとのその一」とは千利休が述べたといわれる言葉ですが、本も稽古のうち。読めば読むほど、自分の中のモヤモヤや世界の理不尽な仕組み、セルフケアについて知ることのできる装置であると同時に、翻って読書することは、そうやってわたし自身を作りつつ「ありえたかもしれない自分の生きた道」をも思い起こさせるような、他を知り自らのことも理解しなおすきっかけにもなります。そして読んだことをベースに、また考え直す。その繰り返しが、これからも他者と生きてゆくよすがとなっているのだと思います。これが魅力です。
ちなみに冒頭の千利休の言葉は、わたしの応援する埼玉西武ライオンズの辻前監督の座右の銘になっていることから知りました。


8 本屋さんとしてこれからやってみたいことは?

オンラインショップ、本屋さんの中でのライブ企画、写真や絵の展示、podcastの拡充、高円寺の本屋さんを周遊してもらえる仕組みを作る、作家を支援する仕組みづくり、政権交代、、あげたらキリがありません。




店主のおすすめ(本に限らず)



1 ためさるる日 井上正子日記 1918-1922

井上 正子 著/井上 迅 編
(法藏館)

京都の町寺に生まれ育った百年前の女学生が残した日記。百年前といえば、米騒動や、スペイン風邪の大流行もあった激動の時期です。そんな歴史的な出来事も、彼女にとってはすべて「きょう」のものでした。当店でも、無名の方が残したアルバムや手書きの日記を扱うことがありますが、そこからも学べるように、たったひとりの人物が残した日記も、今となれば立派な史料。それも、これまで見えてこなかった歴史の一側面を浮かび上がらせます。また仔細な注釈と3つの寄稿が、大正時代の荒波の只中にあった彼女の輪郭をさらに浮かび上がらせ、力作としか言いようのない良書です。


2 あらゆることは今起こる

柴崎 友香 著
(医学書院)

小説家の著者が、ADHDであるとの診断を受けて振り返る、世界との関わり方や日々の困りごと、そしてフィードバック/オーバーレイしてゆく記憶と現在のことごと。さらに作家という職業と自らが付き合ってゆくことや、診断を受けて生じた変化などが、ときに話を脱線させながら丹念に描かれています。柴崎さんの小説、それも「<私>は他でもない<この私>でしか世界を体験できないこと」を小説世界に現す作風には以前から影響を受けていて、この本でも作家の経験する世界の感じ方(そしてこれはわたしの話でもある!と感じることも)に興味津々で読みました。


3 Revisit

VIDEOTAPEMUSIC
(カクバリズム)

国内の様々な土地をフィールドワークしながら楽曲制作を行う作家が、全国各地を再訪し楽曲それぞれを再構築。音源カセットの他、各地での滞在制作〜再訪の日記など、作品や訪れた土地にまつわる記録、記憶を書き綴る書籍も収録されています。
耳をすませば聴こえてくる、場所それぞれの固有な音や要素たち。書かれた記録には、作家自身の経験だけでなく、場所ごとの歴史や情報や作家の覚えた感情など、さまざまな要素がミックスされ、音楽が生まれるきっかけたちが断片的に示されます。角銅真実さんが朗読で参加した「野母崎」を題材にした楽曲では、その土地にゆかりにある角銅さんが自らの記憶をたぐり寄せながら言葉を寄せています。情感豊かに場所に対する想像力を掻き立て、すごく印象的でした。

<ご案内>
7/5より、この作品にちなんだ映像展示を予定しています(一部予約制です)。実際のレコーディング風景や曲中で使用されたホームビデオの映像などをコラージュし制作された、まるでDub Mixな映像をじっくりと。会期中にヤンヤンへお越しの方へは、今回の展示にあたって、作家へ事前に行うインタビュー音源を視聴可能なリンクも配布いたします。ぜひお越しください!




ヤンヤン
住所:〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3丁目44-18 2F(高円寺駅から徒歩5分)
営業時間:13:00〜20:00
定休日:火曜・水曜
SNS:https://www.instagram.com/yanyan_kouenji/                                         https://x.com/yanyan_230909


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後記、はじめまして

無名の個人の古写真はなかなか目にする機会がないので、眺めながらぼやーっとさまざまな想像が掻き立てられ、つい長居してしまいます。店主の城さんとのおしゃべりも楽しく、不思議な居心地の良さがありました。
前編の記事内に登場する、あるカフェ・バー「なかなかの (東中野)」もとても良いお店です。是非に!


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