【15】商標を「使う」とはどういうことなのか?

こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
黄砂のせいでしょうか?最近、目の調子が悪いです。

さて、前回の記事前々回の記事では、「商標登録などの実務における『商標』とはどのようなものか?」について、2回に分けてお話ししました。具体的には、「標章(文字や図形など)」のうち一定の条件を満たすものが「商標」になるということでしたね。そして、その条件が何なのかについてもお話しいたしました。

ところで、この「商標」については、日常でも「商標を使う」という表現をすることが多々あります。では、この「使う」とは、具体的にはどういうことを言うのでしょうか?

こう問いかけると、

「いやいや、そんなの商品のパッケージに表示することでしょ?」

と、事業者である皆様は即答されるかもしれません。

たしかに、そのとおり。「正解」です。
ですが、商標を「使う」と言えるのは、これだけなのでしょうか?

たとえば、商品ではなく、サービスの商標になる場合はどうなりますか?
ホームページとか、広告物などの媒体に表示する場合は?

実は、この「商標を使う」の「使う」とはどういうことかというのは、商標実務において、非常に大切なポイントとなります。これをキチンと理解しておかないと、貴社が商標登録をした際に、そのメリットを受けたり、商標権を上手に活用したりできる余地が半減してしまうと言っても、過言ではありません。

そこで今回は、この「商標を『使う』とはどういうことなのか?」について、お話ししていきたいと思います!

「使う」、つまり「使用」。
商標法という法律では、この「使用」の定義が定められています

ここで具体的な条文を見てしまうと、この先を読む気力がなくなってしまうかもしれませんので、本記事の最後に掲載しておきますね(笑)。法解釈の点でも非常に重要な箇所ではありますが、本記事では厳密な正確さよりも理解のしやすさを優先したいと思います。

ズバリ、ざっくり言えば、「使用」とは以下のような行為だとされています。
※ここでは説明上シンプルにしている点に、くれぐれもご留意ください。

1.商品や商品の包装に、標章を付すること
2.商品や商品の包装に標章を付したものを販売などすること

3.サービスの提供にあたって、利用したり関連したりする物に、標章を付すること
4.サービスの提供にあたって、利用する物に標章を付して、サービスを提供などすること

5.ネットでサービスを提供する場合に、画面上に標章を表示して、サービスを提供すること

6.商品やサービスの広告、価格表、取引書類に標章を付して頒布などすること

7.その他

まずは、このようなイメージで理解しておけば十分でしょう。

文頭に出てきた「商品のパッケージに表示すること」というのは、「1」に当たるというわけですね。そして、このような商品を実際に販売などすることも、「使用」行為となります。これが「2」に当たります。

サービスの場合、それ自体には商品のように形がありませんので、サービスを提供する場面で利用する物や関連する物に表示することが、「使用」となります(「3」)。また、これらの物に表示して、そのサービスを実際に提供などすることも、「使用」行為となります(「4」)。

なお、サービス自体には形がありませんので、ネット上でも提供が可能です。その際、画面上に表示してサービスを提供することも、「使用」行為に含まれます(「5」)。これは「3」や「4」との区別が難しいケースもあると考えられますが、「使用」と言えるか言えないかこそが大切ですので、厳密にどのタイプになるかといった議論は(少なくとも実務上は)重要ではないと思います。

商品やサービスのカタログ、チラシ、パンフレットへの表示も「使用」となります(「6」)。ここでいう広告物には、もちろんネット上における場合も含まれます。自社のホームページに、商品やサービスの広告のために表示する場合も同様です。

要するに、その商品やサービスに関連して表示する行為であれば、リアル、ネットを問わずに、だいたい「使用」になり得ると言って良いでしょう。

ちなみに、商標法の条文では、「この法律で標章について『使用』とは、次に掲げる行為をいう。」とされています。「商標」ではなく、「標章」と言っています。お気付きのとおり、上記の「1」から「6」も、「商標を付して」ではなく、「標章を付して」という文言となっております。

「標章」と「商標」は別物だよ、というのはすでにお話しをいたしました。これらの違いを意識することは大切です。ただ、商標であれば必ず標章になりますので、上記の「使用」がどのような行為をいうのかという点を理解する場面では、あまり気にしなくて良いと思います。実務では、実際に使われているのが、たしかに「商標」となることを確認すれば済む話でしょう。

商標登録をすると、その「商標」を独占的に「使用」できます。
そして、他人が無断で「商標」を「使用」すれば、差し止め等が可能です。

このように、商標登録制度を正しく、適切に活用するためにも、「商標」や「使用」の概念をしっかりと理解しておくことは重要であり、キモと言えます

これから商標登録をお考えの場合も、すでに済ませている場合も、ぜひこれらの概念についてはざっくりとでも覚えておいてほしいと思います。決して損はしないはずです。

最後に、関連条文を掲載しておきますので、より詳細に(正確に)知りたい方はご参照ください。なお、上述の「1」~「7」と、条文の「一」から「十」の番号が対応しているわけではありませんのであしからず…。

(定義等)
第二条 ・・・
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。

次回は、「商標登録にかかる時間はどれくらいなのか?」について、お話ししていきたいと思います!

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