【14】商標登録の対象になるのはどのようなものか?(後編)
こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
ゴールデンウィークの連休で、少し間が空いてしまいましたね。
前回の記事では、「商標登録の対象になる『商標』とは、どのようなものか?」について、それはまず「標章」であるという点を、お話ししました。この「標章」とは、文字や図形、これらの結合などであるということでしたね。
そして、「標章」のうち一定の条件を満たすものが、「商標」となります。
今回は、この「条件」について、お話ししていきたいと思います。
さて、前回の復習になりますが、商標登録の対象となる「商標」というのは、商標法という法律の中で、次のように定められていました。
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
「標章」が「商標」になるための条件とは、ズバリ「標章」であって、下段の「一」または「二」を満たす場合ということになります。
条文に書いてある文章だとわかりにくいと思いますので、ざっくり言い換えますと、
一 業として商品を取り扱っている者が、商品に使用するもの
二 業としてサービスを提供する者が、サービスに使用するもの
ということになります。
ここでの最初のポイントは、「業として」という条件です。
「業として」とは、「一定の目的の下に継続・反復して行う行為として」と解されるとされています。少しわかりにくいですが、「業務として」とか「事業として」のように解釈して特に差し支えないと思います。ただし、営利目的があるかどうかは問われません。なので、協同組合とか公共団体であっても、この条件を満たし得ます。
これを踏まえて、めちゃくちゃわかりやすく言えば、
「商標」とは・・・
(営利・非営利を問わず)事業者が、
商品やサービスについて、使用する「標章」
ということになるでしょうか?
ここでのポイントは、
(1)事業者が使うものであること
(2)商品やサービスについて使うものであること
の両方を満たす必要があるという点です。
ちょっと細かく見て見ましょう。
(1)事業者が使うものであること
(営利・非営利を問わず)「事業者が使う」文字や図形などの「標章」でなければ、「商標」ではないということです。
たとえば、学生さんが頭の中で面白いネーミングを思い付いて、それを気に入って自分のノートとかカバンに表示したとしても、「商標」にはならないということです。これは、あくまで「標章」にとどまります。
(2)商品やサービスについて使うものであること
「商品やサービスについて使う」文字や図形などの「標章」でなければ、「商標」ではないということです。
たとえば、事業者が何か斬新なネーミングを考えたとしても、それを口頭で誰かに伝えるだけでは、「商標」にはならないということです。また、事業者が、そのネーミングを自分の愛用しているノートとかカバンなどの私物に表示したとしても、それらは「商品」ではありませんので、やはり「商標」にはなりません。
この点を理解することは、非常に重要となります。
なぜなら、商標登録によって生じる商標権の効力とは、他者(他社)が無断で「商標」を使った場合に及ぶものだからです。つまり、どのようなものが「商標」になるかを理解しておけば、貴社がビジネスにおいて、「やるとマズイこと」や「やっても問題がなさそうなこと」、(商標登録をした場合に他者に対して)「やめさせられそうなこと」や「やめさせるのが難しそうなこと」などの判断がつきやすくなります。
逆に、これを正しく理解しておかないと、「商標登録をすると、その言葉を独占できる」といったような誤解をしてしまうことになります。しばしば、商標関連のネットニュースなどが出た際に、ネット上の一般ユーザーのコメントなどを見てみると、実際にこういった誤解をしている人が非常に多く見受けられるのです。(この点は、また後で詳しく書きます。)
ちなみに、それが本当に「商標」と言えるかどうかとか、申請が本当に事業者によるものかどうかという点までは、特許庁の審査ではチェックされませんので、上記の条件を満たしていない「標章」であっても、商標登録をすることは可能です。たとえば、普通の主婦が斬新なネーミングやマークを思い付いて、それを趣味で自分の私物に表示するだけだとしても、個人名義で商標登録を申請すれば、登録を受けられなくはありません。
ただ、その場合は、「商標登録をする意味があるのか?」という話になります。
もちろん、そのネーミングをビジネスで誰にも使われたくないというこだわりがあれば、それを商標登録しておく意味は一応あるでしょう。しかし、自身が「商標」としてこれを使うことはありませんから、いつかは「不使用取消審判」(※これも、また後でご説明します)によって、登録が取消となってしまう可能性があります。
まぁ、商標登録をするにもそれなりのお金がかかりますので、よほどのお金持ちでもなければ、普通はここまでの商標登録はしない気がします。逆に、理解不足のために、わざわざお金をかけて無意味な商標登録をしてしまうケースの方が、個人的には心配かもしれません。
いずれにしても、やはり商標登録は、「商標」を対象にするからこそ意義があると言えるのは間違いないと思います(当たり前のことを言っている気もしますが…)。
そんな感じです。
後半、少し専門的になりましたが、なんとなく理解できたでしょうか?
一般的なイメージの「商標」と、商標法における「商標」のちがい。
そして、「標章」と「商標」のちがい。
ぜひ、忘れないようにしてくださいネ!
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