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『DOOM(2016)』で奮い立たせろ、内なる怒りと衝動を。

 先日、会社のキャリア研修にて履歴書を書く、という機会があった。なんでも、履歴書を改めて書くことで今の自分の強みや長所を見直してみよう、ということらしい。なるほど、履歴書を書くのは求職中の時だけだからこういう試みは新鮮だし、今頑張っておけば転職活動をする際に楽できる。さすが一歩先を見据えて動くのが経営者だ。隙が無い。

 さて、問題は今の自分が履歴書を書いたらどうなるか、ということだ。そうなれば必然、趣味は「デーモンを虐殺すること」であり、長所は「状況に応じた適切な武器選択とリソース管理による殲滅戦ができる」になってしまう。人事もなんでこんな奴雇ってしまったのだろうと頭を抱えているはずだが、よもやその原因が一本のゲームにあるとは思うまい。一人の善良かつ優秀で非の打ち所がないサラリーマンを、殺戮大好きデーモンスレイヤーに変えてしまった、悪魔的に面白いゲームがこの『DOOM(2016)』なのだ。

【注意】
CERO:Z(18歳以上対象)のゲームの話をするので、
刺激的な表現や画像が含まれます。
未成年の良い子のみんなは
『アイドルマスター シャイニーカラーズ』を遊ぼうね。
【注意】

 『DOOM』とはFPSを普及させたシューティングゲームの代名詞で、2016年版はシリーズ二度目のリブートかつ続編で……という一切合切はこの際どうでもいい。何せ私は「ロック様の映画にそんなタイトルのやつがあったな」と思っていたら、実はそのゲームが原作の映画だったと後追いで知ったくらい、ゲームの軌跡というものに疎かった。ただ、このDOOMはプレイする前から確実に面白いという確信があった。何せ内に秘めた暴力衝動を映画とかゲームで発散させている、そんなロクデナシ共が集う弊タイムラインにおいてDOOMは神のごとき扱いを受けていたからだ。そしてその評判に違わず、『DOOM(2016)』はまさしく神ゲーだった。硝煙と返り血と肉片にまみれた神ではあるが、神は神だ。矮小な人類はその面白さにひれ伏すしかない。

火力 is 快楽

 こんなテキストに辿り着いた好事家の諸氏には釈迦に説法だが、『DOOM(2016)』がどんなゲームかを一応読み解いていこう。本作は「マッドサイエンティストが地獄の門を開いたおかげでホント火星は地獄だぜ!フゥハハハーハァー」というシンプルな物語の下、プレイヤーは長きに渡る眠りから目覚めた無慈悲な殺戮者ドゥームスレイヤーとなって、向かってくるデーモンをぶっ殺す、これまたシンプルなゲームデザインとなっている。そのシンプルさたるや凄まじく、FPSがリアルな戦場体験を追及し続ける最近の潮流とは正反対にカバーアクション(隠れて身を守る)・リロード・エイム(銃のスコープを覗き遠くを狙撃するようなアレ)を廃止するという大胆さがウリだ。主人公が常人ではないので移動速度も速く、従ってゲームスピードも速くなり、悪魔の巣窟に自ら飛び込み銃弾と物理攻撃で敵を迎え撃つ。そういったアグレッシヴなプレイでなければ即座に悪魔共の餌食になるだろう。

 ドゥームスレイヤーが携えるのは、ショットガンやライフルといったおなじみのものから、プラズマ砲にガトリングなど個性豊かな重火器たち。それらは全てフィールド内を飛び交うドローンから「MOD」と呼ばれる拡張機能を入手することができ、アサルトライフルにマイクロミサイルを生やすこともできれば、プラズマガンにスタン弾を装備させて敵を一方的にタコ殴りすることだってできる。お好みのスタイルで敵を蹂躙して良しと公式が選択肢を用意してくれているので、思う存分暴れまわるといい。

 そしてこれが実際の戦闘場面なのだが、どうだろうか、この威力。これはスーパーショットガンと呼ばれる武器で、「弾を2倍消費するし射程距離が極めて短い分威力が普通のショットガンの4倍」というバカ銃なのだが、この武器を使い込むと(といっても2~3時間あれば達成できる)なぜか「威力はそのままで弾薬消費が半分になる」というワケの分からないことになってしまい、デーモンミンチ製造機として猛威を振るう悪魔と化してしまう。その圧倒的殲滅力の前にデーモン共が肉片と化し床を血で汚す様をたった今ご覧いただいたところだが、『DOOM(2016)』というゲームは徹頭徹尾その連続と言ってもいい。襲い掛かるデーモンを打ち払うことこそが全て。それがドゥームスレイヤーであるおれと、そしてこれからドゥームスレイヤーになる画面の前のおまえの心の中で生まれた衝動そのものだ。

 敵兵に見つからないよう移動しヘッドショットを決める?シールドを盾にジリ貧の持久戦を生き延びる??そんなしゃらくさい“リアル”など『DOOM(2016)』の前では児戯に等しい。持てる限りの弾薬を小汚いデーモン共にぶち込んで、撃って撃って撃ちまくる。これ以外に生き残る術などないし、それ以外を望んでなどいない。目覚めた時から内なる怒りを抑えられないこの男は、銃を手にした瞬間から怒髪天のデストロイヤーだ。その本能に従い、デーモンの血しぶきに彩られたクソッタレで最高な冒険を楽しもう。そういうゲームだ。

加速する暴力

 とはいっても、デーモンは圧倒的な数で攻めてくるし、攻撃も苛烈だ。ドゥームスレイヤーもジワジワと体力が削られ、とてもユニークな死亡モーション(腕をもがれその腕でタコ殴り、生首ポロリ、ターミネーター2)に心癒された後、長くもないが短くも感じない絶妙なロードに苛立ち始めるだろう。なぜおまえは負けたのか?それは暴力が足りなかったからだ

 そもそも、怒り狂ったドゥームスレイヤーが銃を撃ちまくるだけで満足するはずがないだろう。デーモンが瀕死の状態になるとよろけ出し、身体が白に(有効範囲に入ったらオレンジに)点滅したらさらなる暴力へのチャンスだ、近接攻撃ボタンを押してみろ。たった今、おまえは目の前のデーモンの腕をもぎ取り、目玉を抉り、頭を潰してミンチにして、なぜか元気になったはずだ。そう、おまえがやったんだ。これを「グローリーキル」と言う。ゲーム的に解説すると「瀕死の敵に近接攻撃をすると特殊なキルとなり敵を瞬殺できるし、回復アイテムをドロップする」ということになる。虐殺をすると胸がすく、そんなドゥームスレイヤーの心境を表現した素晴らしいシステムだ。

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 体力は満たされた。だが、次は弾薬が足りないときた。あぁ、今すぐ醜悪なクソッタレどもに弾を打ち込みたいのに。そんなイライラが募ってきたら、チェーンソーを取り出すといい。こんなデカブツをどこに仕舞っていたのかって?そんなことはどうでもいいから、さっさとその電動の刃を目の前のヤツに押し当ててみろ。おまえの火薬庫が満タンになったはずだ。

 言い忘れていたが、この世界における最強の武器はスーパーショットガンと、BFGと、チェーンソーだ。日用雑貨店でも買えるこれが、おまえの命を救う最高の相棒になると、すぐに知ることになるだろう。チェーンソーは、燃料さえあればボス以外のデーモンを瞬殺できるし、その肉片は弾薬となっておまえをさらなる暴力へエスコートしてくれる。そして何より、無慈悲な暴力を敵に押し付けるのって、気持ちよくないか?????さぁ、やってみろ。

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 これでわかったと思うが、『DOOM(2016)』に“守り”などというものは存在しない。強いて言えば攻撃こそが防御、それが唯一にして普遍の真理である。生き延びたければデーモンを殺し、より闘争を望むのならデーモンを殺せ。弾薬を節約してビビりながら探索したければバイオハザードをやれ。今おまえが遊んでいるのはDOOM(運命、破滅、死、最後の審判)だ。おまえが神となりて、愚かな悪魔に死の鉄槌を下すのだ。暴力こそが生きる術だと理解したとき、おまえも立派なデーモンスレイヤーだ。

現実より地獄なものなどない

 暴力的で冒涜的。そんな魅力に溢れた『DOOM(2016)』のことを、洋ゲーだから難しそう……と避けてしまう奴もいるだろうが、安心してほしい。難易度設定が絶妙で、最低難易度なら心地よく無双ゲーが楽しめるし、そこから段階的に生きるか死ぬかの極限のサバイバルが熾烈化していく高難易度帯もいい。ゲーム中に気軽に切り替えられるので、その日の気分に合わせて変えてみるのもオススメだ。

 そして何より、本作を遊ぶべきなのはこのストレス社会を残念ながら生きていかねばならない日本人全員である。不況に疫病の蔓延と混迷極める現代、人々から生活や心の余裕を奪っていく理不尽な暴力がこの世に存在し、我々の卑近に迫りくるものであると知ってしまった我々は、しかしその怒りの矛先を見失ったまま身近な他者を傷つける愚かさだけを振りまいてしまう。

 現実は地獄だが、生きていかねばならない。そうなれば、たとえデーモンが跋扈する火星で眠りを邪魔されたとしても、おまえには銃とチェーンソーと怒りに燃える心と拳があって、それを振るうことが許されている『DOOM(2016)』の方が、幾分かマシに思えてこないだろうか。そう、『DOOM(2016)』とはおまえの心に蓄積していった怒りが具体的な“行為”として出力されるその前に、それらの衝動を受け入れてくれる「器」なのだ。おれは、怒りや暴力衝動を映画やゲームといった何かに託すことは悪だとは思わない。社会生活を円滑にするにあたって、自我を抑えなければいけない場面は数えきれないほどにある。そうした行き場のない感情を溜めこんで鬱屈するよりは、発散したほうがいいに決まっている。その結果としてデーモン共が肉片に変わっただけで、おまえの人生基準でいえば些細な犠牲だろう。

 対応機種はPS4/Xbox One/Windows/Nintendo Switch と間口は広いから、十分手に取りやすいはずだ。さぁ、おまえも『DOOM(2016)』で闘いに身を投じろ。その怒りを力に変えて、この地獄を生き延びてみせろ。

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