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短編小説集

84
短編小説を挙げています。
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#熟成下書き

昼下がりの逃避行

昼下がりの逃避行

 聡との関係が本当の意味で始まったのは、トーテムポールの腰巾着こと藤村教諭の下手くそな朗読を聞いていた五限目のことだ。退屈のあまり居眠りを試みるも身体にまとわりつく蒸し暑さのせいで、なかなか眠ることができなかった。
 午前中勢いよく降っていた雨は午後になった途端止んでしまい、真っ青な空と暑さが代わりにやってきた。教室の窓から見えるグラウンドには、幾つもの大きな水たまりが出来上がっている。それを埋め

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先制パンチ

先制パンチ

 子供からの脱皮、そして大人への変態が求められる次なる空間の記憶はやけに鮮明に覚えている。身体の各所に変化が現れ、心が揺れ始める思春期の始まりに足を踏み込みながら、漠然とした形無き社会という化け物に取り込まれる準備及び、化け物で生きる為の順応力を鍛えることになる新たな場所。妙に大人びた思考回路は、読み漁ってきた小説と見続けてきたドラマ、所謂フィクションによって形成されていた。それによく遊んでいた近

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すれ違い

すれ違い

 キッチンから聞こえる『Bitter Sweet Samba』のメロディが、夢の世界から現実の朝へと戻した。楓はもう起きているようだ。ベッドの上で眠気眼を擦りながら、今朝の出来事を思い出す。楓に甘えてしまったことに恥ずかしさを抱いてしまうけれど、充実感が全身を巡っていた。ベッドから起き上がり服を探す。折り畳みの机の上に綺麗に畳んであるラジオ番組のオリジナルTシャツとスエットが置かれている。思わず頬

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胸騒ぎ

胸騒ぎ

「ねぇ、今度京都行こうよ」
 夕食で使った食器をキッチンに持っていくタイミングで楓は呟くように言った。今日は僕が当番なのにと思ったけど、そのことには触れずに「いいね、京都」と答えるボクはきっと幸せ者だ。
「本当に? じゃあ、桜が綺麗に咲く時期に行こ。絶対だからね、約束だよ」
 キッチンの向こうから無邪気な声が聞こえる。水道が流れ落ちる音も聞こえたから、どうやら今日の洗い物は免除らしい。意図している

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トリップ

トリップ

 久々に歩く新宿周辺の夜の散歩は、気付けば二時間も経過していた。目的地を敢えて迂回して彷徨っているうちに疲れてしまった。大学生の頃は悩んでいることがあると、頭を冷やすために最寄りだった中野駅から東京駅まで夜通し歩いたこともある。あの時も疲れたけれど、今は疲れの質が違う。不用意な形で年齢を重ねていることを実感してしまう。
 腕時計を見て、時刻を確認する。気付けば、草木も眠る丑三つ時。言葉通り、街は明

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