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短編小説集

84
短編小説を挙げています。
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2020年11月の記事一覧

選択

選択

 テレビを眺めていると感染症の猛威について報道されている。日常に溶け込んだ報道、もう般化して感情が麻痺している。ソファーに腰掛けながらスマホのカレンダーアプリを開き、予定を確認する。クリスマス、大晦日、正月三が日。年末のイベントについて、本気で頭を悩ませる未来は、もっと先のことだと思っていた。けれど現実は悠長に構えていた僕をあざ笑うかのように、目先に突き付ける。考えることが面倒になり、テレビを消し

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帰り道

帰り道

 大人になるってどういうことだろうか?
 自転車を漕いで進む帰り道、そんなことを抱いた。子供の頃に描いたり、見ていた大人の姿とは乖離した自分。何が違うのだろうか。足から伝わる力を推進力へと変えてスムーズに動く手入れの行き届いたペダル。でも頭の中は錆び付いて、耳障りな音が響くチェーンのようだ。
 一番に浮かんだのは外的な要因だった。ステレオタイプと笑われるかもしれないけれど、大人はスーツを着ているイ

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休日の朝

休日の朝

 窓を閉めた部屋にも入り込む冷たい風は、冬の訪れを静かに伝えていた。普遍的な日常にも顔を出す四季。歳を重ねるごとに有り難みを感じるようになっているのは、きっとおじさんになっている証拠だ。天窓から引っ張り出した布団と毛布に包まりながら、眠気眼で天井を見つめる。朝日でしっかりと分かるクリーム色。もう数えるのも嫌になるくらいに見つめた天井は、代わり映えのない僕の姿を投影しているようだった。
 手を伸ばし

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不用意な一言

不用意な一言

 風に含まれる冷たさには冬の匂いが紛れている。夜が来るのが早くなり、通勤通路の住宅街の外灯も合わせて点灯するのが早い。ひどく寒がりの僕には苦手な季節がやってきた。まだ吐息も白くならない季節の中間地点を歩きながら、今年も残り少ないことに自覚的になる。
 コンビニで買ったカフェオレで暖を取りながら歩いていると、幾分感傷に浸る。歳を取ったと自虐的に笑ってみても、年齢ほどの深さが皆無だからこそ、余計に虚し

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