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災害時におけるドローンおよびRFID活用の可能性

2022年1月に開催された「国際防災・人道支援フォーラム2022」では、地球温暖化の影響で「洪水・土砂崩れなどの住民の生命に関わる自然災害の発生リスクが一層高まる」という懸念点が挙げられており、「国土交通白書2021」でも津波以外の水害被害額が2019年に統計開始以降最大の被害額を更新し、また大規模地震の発生確率も高まっているなど日本が大きな災害リスクに直面していることを指摘しています。

こうした災害リスクを背景に、地球温暖化対策や老朽化インフラの再整備、防災力の強化など様々な課題解決に向けた取り組みが急務となっていますが、その一つが災害発生時の支援物資輸送の円滑化です。

国土交通省が2019年に発表した「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」では、「熊本地震や平成30年7月豪雨においては、支援物資到着状況等の情報の共有が国・地方公共 団体で十分ではなく広域物資輸送拠点から先の避難所までのラストマイル輸送が混乱し、支援物資が届かないなどの課題が顕在化」した事例を挙げ、必要な時に、必要な場所へ、必要な量の支援物資を届けるためのラストマイル輸送の最適化が求められています。

各自治体で検証が進む災害時のドローン活用

災害時の物資支援等課題を解決する手段として期待されているのが、ドローン活用です。すでに愛知県豊田市では災害時に孤立集落などにドローンで物資輸送を行うための取り組みを進めていたり、北海道旭川市ではウィズコロナ時代に向けてオンライン診療とオンライン服薬指導、そしてドローンによる処方箋医薬品配送の実証実験を行うなど、自治体での導入検討が行われております。

東芝テックの投資先である株式会社トラジェクトリーも、5都市(愛知県豊川市、愛知県新城市、静岡県浜松市及び裾野市、石川県加賀市)で災害時における官民連携モデルとして、ドローンを活用した高精度3D地図及び航路整備と、災害時情報収集システムの実証実験を進めてきました。

その中で、東芝テックも参加した浜松市春野町のプロジェクト(医薬品の緊急物資配送)をご紹介したいと思います。

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浜松市の災害時ドローン活用実験に、東芝テックのRFID技術を提供

今回計画したのが、浜松市春野町における土砂災害時の河川や道路の状況把握と、孤立地への医薬品輸送のドローン活用。浜松市の災害システムと連携し、災害が発生した地域の状況把握と物資輸送を複数のドローンで行うことで、災害時のドローン活用の可能性を検証するものです。

浜松市は以前もドローンによる医薬品輸送の実証実験を行ったことがありますが、複数機をコントロールした被害状況の把握と物資輸送は初めての試みとなります。また、トラジェクトリーが熱海市との取り組みで、ドローンで撮影した画像を罹災証明書に活用した事例を紹介し、今回の実証実験でも罹災証明書の発行を検証することになりました。

もう一つ、実証実験のポイントとなったのが、RFIDを用いた検証です。

もともとトラジェクトリーでは実証実験等で現場を撤収する際の機材チェックに手間がかかっていることやバッテリー充電回数の把握に課題がありました。そこで機材やバッテリーなどの個体管理にRFID技術を活用することや、ドローンを飛ばす前後でのRFIDの可能性を検討していました。

今回東芝テックのプロジェクトメンバーと話を重ねる中で、緊急時にラストマイル輸送が混乱すると避難所の物資管理が煩雑になるという課題を想定し、課題解決のためのRFIDを活用した緊急物資配送前のピッキング・物資管理・ドローン機と物資の紐づけ等について検証を行うことになりました。

具体的には、医薬品にそれぞれ識別番号を付与したRFIDタグを貼り付け、段ボールで梱包します。複数の段ボールが積み上がった状態から運びたい段ボールを探索してピッキングし、対象地域に飛ばすドローンの元に持っていきます。ドローン機器にもRFIDタグを貼っているので、どの地域にどの物資を運んでいるのか、リアルタイムで確認・管理することができます。これにより、万が一届け先を間違えたりドローンが落ちたりした場合も、どのドローンに何を積んでいるのか、どのドローンが落ちたのかが一目瞭然なので素早い対応が可能になります。

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前日準備の様子

実証実験は無事成功。実用化に向けて一歩前進

2022年2月、開催当日は浜松市役所や近隣企業の方々が40人以上見守る中、河川と国道2箇所で土砂災害が発生したことを想定して実験が行われました。

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まずはドローンを複数機飛ばして、土砂災害が発生した場所の被害状況を確認。画像を撮影して罹災証明書を発行します。そして、孤立地域から医薬品の緊急配送依頼を受けたことを想定して、RFIDを活用した配送品のピックアップと在庫管理を行いました。

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災害時、複数の段ボールが積み上がる中から、わずか10秒程度で対象物資(医薬品)をピックアップし、RFIDで管理されたドローンに荷積。孤立地域への物資輸送を行い、無事に現地での物資受領が確認されました。

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今回の実証実験の手応えはどうだったのでしょうか?浜松市とトラジェクトリーにコメントを頂きました。

■浜松市役所 危機管理課 事業推進グループ長 藤田様のコメント
今回の実証実験は期待以上でした。特にRFIDの活用はこれまでにない新しい試みができたと思っています。今後、実用化できるかどうかという部分で実力が問われると思っています。例えば、RFIDの倉庫管理は素晴らしいアイデアで、災害時のみならず平時の資産管理にも活用できる可能性があります。しかし、現状運用するシステムはありませんので、今後は実際の運用がどこまでできて、どこまでできないのかをはっきりさせた上で考えていく必要があると思います。また、物資にRFIDタグを貼り付けるタイミングはメーカー搬入時と倉庫保管時でどちらがベストなのか、検討すべき課題があることが分かりました。これらの情報を整理した上でサービス提供範囲を考慮しながら、今後の実証実験を継続していきたいと思います。

■トラジェクトリー 代表 小関様のコメント
今回は狭いエリアでの実証実験でしたが、複数機の自律飛行により災害発生時の状況把握を行うことができました。またドローンによる映像・画像が罹災証明の発行にも役立つことや、浜松市が導入している災害者生活再建支援システムとの連携確認ができたことが収穫でした。さらにドローン飛行以外にもピッキングや物資受け取りのプロセスに、RFID技術活用の可能性が見出せたと思います。従来と比べると今回は関係者が多く調整作業は大変でしたが最終的には地元企業から大手企業の皆様それぞれの持ち味を発揮して実証実験が行えたと思います。

ここまで災害時の状況把握を繰り返してきた中で、ソリューションの完成度は確実に高まってきています。今後も浜松市と連携しながら、地域企業をはじめとする皆様と一緒にスーパーシティの実現を目指し、市民のQOL向上に貢献していきたいと思います。

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東芝テックCVCとしては、私たちのアセットを提供して出資先企業のプロジェクトに役立てられたことが非常に意義のあることだと思っています。一方、実用化に向けて取り組むべき課題も見えてきました。今後もトラジェクトリーの成長支援を行いながら、社会課題の解決に貢献するサービスの創出を進めてまいりたいと思います。

なおnoteでは、「裾野市×トラジェクトリー×東芝テック」の共同プロジェクトも紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。


#3/31は記事の更新はスキップいたします。また4月よりよろしくお願いいたします。

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