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「ときわ亭」の事例から探る外食DXの現在地

飲食業界では、DXを活用したビジネス変革にチャレンジするさまざまな取り組みが注目されています。今回は、先進的な取り組みをしている「ときわ亭」を取り上げ、雑誌「飲食店経営」副編集長の三輪大輔さんに現状をレポートしていただきました。

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そもそもDXとは何か

コロナ禍で外食業界のDXの流れが加速している。2018年頃から注目されていたDXの動きが一気に広がった結果、2021年こそ「DX元年」だという識者も多い。
しかし、言葉だけが一人歩きをして、本来の意味からかけ離れた使われ方をされているケースも目立つ。特に混同されがちなのが、アナログデータをデジタル化する「デジタイゼーション」と、業務プロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」だ。現に、いわゆる“ガチャレジ”をPOSレジに置き換えたり、自動発注システムを導入したりしているので、DXを進めていると思っている飲食店が多い。しかし、それらはデジタイゼーションとデジタライゼーションに過ぎない。

DXの定義は諸説あるが、2018年に経済産業省が公表した、下記の内容が一つの指針になっている。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

つまりDXとは「データとデジタル技術を活用」し、「ビジネスモデルを変革」した上で、「競争上の優位性を確立すること」なのだ。もっと踏み込んでいうと、デジタルツールを導入したり、活用したりするのは当たり前で、競争上の優位性を確立するところまで昇華させる必要がある

もともと外食業界はテクノロジー化さえ進んでいない業界だった。DXとなると、まだまだ手をつけていない企業も多い。しかし、その中でも急速にDXを推し進めて、結果を出している企業もある。その一つがGOSSO株式会社の展開する「0秒レモンサワー®️ 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)である。

レモンサワーサーバー

ときわ亭の快進撃の秘密

ときわ亭は2019年12月に横浜西口に一号店をオープンさせて以降、ハイペースな展開を続けている。2021年には早くも50店舗を達成し、今急成長中のブランドとして注目度が高い。同ブランドの強みは全卓にサワーサーバーを設置し、文字通り0秒でレモンサワーをつくれる演出はもちろん、目玉メニューになっている仙台発祥の塩ホルモンだ。

一方で、DXの推進にも力を注ぎ、テーブルオーダーシステムや配膳ロボット「Servi」や、自社アプリなど、さまざまなツールを導入し、顧客体験価値と従業員満足度を向上させている。大衆感とテクノロジーをうまく融合させた成功例として、同ブランドを視察に訪れる業界関係者は少なくない。

コロナ禍でも快進撃を続けられる要因について、同社代表取締役の藤田建氏は次のように話す。
「一番大きな要因は、コロナ禍で換気の良さと、タッチパネルによる非接触型のオーダーが受け入れられたことにあると考えています。また、全卓に設置したサワーサーバーから、文字通り0秒でレモンサワーをつくれる仕掛けも楽しんでいただけているのではないでしょうか。とはいえ、僕たちは居酒屋ではありません。あくまでも焼き肉酒場です。だからA4やA5ランクのお肉の提供をメインとしていません。そういうお客様ではなく、日常の生活の中でちょっとした楽しみがほしいという方をターゲットにした店づくりをしています」

タッチパネル

藤田氏の思いを表現したコンセプトが、“ストレスフリーの焼き肉エンターテインメント”だ。コロナ禍になり、多くのイベントが中止になったり、国内外への旅行ができなかったりして社会に閉塞感が漂う。その中で、求められているのがエンターテインメントに他ならない。その重要性に関して、藤田氏もこのように見解を述べる。
「僕たちはただ焼き肉店を運営しているという意識は持っていません。ストレスフリーの焼き肉エンターテインメントという、今までに世の中になかった事業を展開している意識も、急成長を支える要因として無視できません。ただの焼き肉店なら、ここまでの成長は恐らくなかったでしょう。今後、外食業界とエンターテインメント業界の垣根はなくなっていくと思っています。もし、ときわ亭がその融合をいち早く実現できたら、さらに多くのエリアの方に元気を与えることができるでしょう。ときわ亭が街を活性化させる起点にもなるはずです」

全卓に設置したサワーサーバーで、0秒でレモンサワーがつくれる仕掛けは、まさにエンターテインメントを体現するコンテンツだ。しかし、エンターテインメントの提供で核となるのはスタッフのサービスにある。その実現を支えているのがDXだ。

ときわ亭のDX戦略

DXの推進に関する同社の方針について、藤田氏はこのように説明する。
「当社ではDXを推進して業務負担を少なくするのはもちろん、テクノロジーの導入で生まれた余裕を今まで行えなかった業務に充てて、新たな付加価値を生み出すことに注力しています。一方で、テクノロジーの導入に当たっては、どうすればお客様とスタッフにストレスフリーな環境を提供できるかという課題から、逆算して考えることを大切にしています」

その考えが最も象徴的に表れているのが、ソフトバンクロボティクス株式会社の配膳・運搬ロボット「Servi」の導入だ。

配膳サーヴィー

そもそも同社にとって、「Servi」の導入には二つの狙いがあった。一つ目はもちろんスタッフの負担軽減だ。ときわ亭はお客さま同士の密着感が生まれて、特別な時間が過ごせるようにテーブルがあえて小さい。しかし、空になったグラスや皿などを下げるバッシングの回数が増えると、スタッフの負担が大きくなってしまう。そこでバッシングをサポートするツールとしてServiを導入した。

バッシングに割く時間が減った分、スタッフはサービスにより注力できるようになる。例えば、同店では「行ってらっしゃーい」の掛け声とともに、スタッフがホルモンを網の上に流し込む。そのパフォーマンスが店内に活気を生んで、賑やかな雰囲気をつくっている。どんなに丁寧なバッシングをしても、そのサービスを覚えている人はいないだろう。それがリピーターの創出につながり、ときわ亭の強さを生み出している。

二つ目は、お客のストレス軽減だ。「すいません」と、何度もスタッフを呼ぶことにストレスを感じているお客は多い。しかし同店では、下げてもらいたいお皿があったら、Serviに載せれば用事が済む。オーダーもテーブルオーダーシステムを導入しているので、スタッフを呼ぶ必要がない。さらにはドリンクも注ぎ放題なので、誰にも邪魔されることなく、仲間との時間を存分に楽しむことができるのだ。
ときわ亭はお客にとってだけではなく、現場で働くスタッフにとってもストレスフリーな環境になっている。それが同ブランドの肝になっているといっても過言ではない。

なお、Serviの導入はエンターテインメント性の演出にも結び付く。大衆感溢れる店内に突然ロボットがやって来るインパクトは大きい。現在、世の中には多くの飲食店が競い合っており、お客に忘れられないことは重要なテーマだ。だからこそ、Serviがいるだけで、「ロボットがいた店」というフックができ、お客の記憶に店のことが鮮明に残りやすい。

同社では自社アプリを活用して、顧客管理だけでなく、出店エリアの選定にも役立てている。ときわ亭は2022年に北海道や九州へ進出する予定だ。その決断ができたのも、ときわ亭の公式アプリを通して得た顧客情報があったからこそだ。アプリを通してお客がどこから来店したのか分かるので、どのエリアなら展開できるかの仮説も立てやすい。それと同時に、お客にいち早く新店情報を届けながらスピーディな展開をしていくことも可能となる。

DXの推進で実現したいビジョンを、藤田社長は次のように描く。
「ファンの中から、“ファミリー”と呼べるような熱狂的なファンをつくって、その方々がときわ亭のブランド価値を上げて、認知度をさらに広げてくれる。DXを推進しながら、そうした仕組みをつくっていければと考えています。ときわ亭の熱狂的なファンをたくさんつくることができれば、永続的に続くブランドになれるでしょう。そのためにもまずはストレスフリーな焼き肉エンターテインメントの提供が第一だと考えています」

外食産業で広がるDX化

コロナ禍で、飲食店の重要な経営指標である「FLR(F=Food cost/材料費、L=Labor cost/人件費、R=Rent/賃料)」」の考えが通用しなくなった。また、緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置が繰り返されたことで外食の利用が激減し、コロナ禍が収束しても以前のような需要が戻ってくる可能性は低い。その結果、外食、中食、内食の垣根を越えた、“食”をめぐるマーケットの奪い合いが起きている。その中で、加工食品メーカーといった内食のプレーヤ―や、コンビニエンスストア、スーパーマーケットをはじめとした中食のプレーヤーと戦わなくてはいけなくなった。

そうした危機感もあり、DXの流れは急速に進んでいる。その一つの例が、株式会社ダイヤモンドダイニングが運営する「焼鳥IPPON」だ。株式会社トレタの開発した店内モバイルオーダー「トレタO/X」を活用し、「個人注文」と「個人会計」、「完全キャッシュレス決済」を実現し、これまでにない顧客体験を提供しながら、新しい時代にフィットした外食の楽しみ方を提案している。

スマホアプリ画面

また、株式会社JR東日本クロスステーションフーズカンパニーの展開する立ち食いそばの「そばいち」では、コネクテッドロボティクス株式会社のそばロボットを導入し、飲食店における調理ロボットの活用シーンの可能性を大きく広げている。この二つの事例のようにベンダーが外食企業とタッグを組み、コロナ禍という未曽有の危機を乗り越えようとする動きも増えてきた。

DX推進の流れはまだ始まったばかりだ。しかし、その先に、外食業界の未来があるのは間違いない。
(文:「飲食店経営」副編集長 三輪大輔)

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ときわ亭の藤田氏はDX活用で業務効率化することはもちろんのこと、“ストレスフリーの焼き肉エンターテインメント”というコンセプトをしっかり持ち、外食業界とエンターテインメント業界の垣根がなくなっていくことを想定した上で、どんな価値を顧客に提供できるかを目指して取り組んでいることがとても印象的でした。
以前noteでは店舗での“体験”を付加価値として提供する「体験型店舗」についてお伝えしましたが、飲食店業界でも顧客だけではなく、従業員に対していかに付加価値を生み出せるかがキーになるのかもしれませんね。

東芝テックCVCでは今後も、飲食店をはじめとする店舗の課題解決につながる新しい価値創造を、スタートアップの皆さんと一緒に目指したいと考えています。出資や協業について相談してみたい方は、公式サイトよりお気軽にお問い合わせください!


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