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食品強化に注力するドラッグストア各社の「真の狙い」

消費者ニーズに寄り添い、新しい店舗の形に取り組む企業が増えています。
以前noteでは小売DXの有識者・郡司昇氏にインタビューを行い、「アパレル×カフェ」「本屋×カフェ」「ドラッグストア×家電」など、異業種を掛け合わせたお店の可能性について話をお聞きしました
今回は、「ドラッグストア×食品」の取り組みに注目し、「販売革新」編集部さんにレポートいただきました。

ドラッグストアはその名のとおり、薬を売る店です。ところが、実はドラッグストアで今最も販売額が多いのは食品です。
ドラッグストアといえば、安売り価格の日用雑貨を集客のマグネット(集客装置)にして、高単価、高荒利の薬とコスメで売上と利益を作るのが、商売の基本でした。しかし時代は変わり、今では食品がドラッグストアの強力なマグネットになっています。
ドラッグストアが進める食品強化(マグネット化)の、真の狙いはどこにあるのでしょうか。

下の図表①(経済産業省「商業動態統計」より)にあるとおり、ドラッグストアの2021年の販売額に占める食品の割合は、業界全体で約30.6%(2兆2,338億円)。調剤医薬品(6,292億円)とOTC医薬品(8,682億円)の合計で20.5%ですから、ドラッグストアでは食品が医薬品の1.5倍も売れているのです。
また2015年以降、販売額の伸び率に占める商品別寄与度(貢献度)は食品が最も高く、ドラッグストアの成長拡大の原動力になっています。
ここ十数年、我が国では人口減少によって個人消費のマーケットが縮小し、一方でオーバーストアが進行しています。そのため小売業は、単に客数獲得を競う「市場シェア競争」から、顧客一人一人のライフタイムバリューの獲得を重視する「顧客シェア競争」に突入しました。
つまり自店へのロイヤリティが高い顧客、すなわち来店頻度、購買頻度の高い顧客の獲得が求められるのです。そのためには専門性だけでなく、利便性の高さも重要となってきました。ドラッグストアが食品の販売に注力するのは、顧客から「毎日の生活のために、より便利に使える店」として支持されることが狙いなのです。
数ある生活必需品の中で食品は最も購買頻度が高く、生活になくてはならないライフラインだと言えます。コンビニの例を引き出すまでもなく、便利な買い物のニーズに応えて購買頻度を高めるために、食品の品揃え強化は極めて重要だと言えます。

図表①ドラッグストア販売額の商品別内訳

ドラッグストアは顧客の利便性向上のために食品強化を行ってきたと述べました。その背景にあるのが、“狭小商圏”時代への対応という課題です。
ドラッグストアの店舗数が増加し、また異業種との競合が激化したことで、個々の店舗の商圏が縮小してきました。そのため、地域客の様々なニーズに応えて「顧客シェア」を高めることが重要になっています。
また超高齢社会の到来も、狭小商圏化を促します。2025年には約800万人の団塊世代が全員75歳の後期高齢者となります。日本は世界に例を見ない超高齢社会を迎えるのです。現状でも、運転免許返納などで郊外の大型商業施設での買い物が困難になり、近隣のドラッグストアやコンビニで食品などの生活必需品を購入する高齢者が増えています。
さらに、多忙な子育て世代や有職主婦の間でも、数店舗を買い回るよりも1か所で買い物を済ませたい、というニーズが高まっています。食品や雑貨を「ワンストップショッピング」できる店舗が求められているのが現状です。

以上のような状況に対応して、ドラッグストアでは食品の取り扱いを強化してきました。加工食品を中心にしながら、一部の店舗では野菜や精肉、日配品、冷凍食品の品揃えを拡大。多忙な顧客が便利に利用できる店へと変化しています。
そうした店舗のなかでも、近年は最大で400~450坪規模と大型の「フード&ドラッグ」と呼ばれる業態も開発されています。
しかし加工食品はともかく、ドラッグストアの生鮮食品は期待どおり売れるのでしょうか。ドラッグストアで扱う野菜は、キャベツやタマネギなどの高頻度アイテムに限られています。選択肢の豊富さではスーパーマーケット(SM)にかないません。

そもそも、ドラッグストアで取り扱う生鮮商品に対し、顧客の期待度はどの程度なのでしょうか。
グルメモニターサイトの「ファンくる」が2023年1月、同サイトの会員を対象にドラッグストアについての意識調査を実施しました(n=992)。その中で「今後ドラッグストアで生鮮商品を購入したいか」の質問に対し、64%が「購入したい」と答えています。「購入したくない」の回答は10%でした。
(https://www.fancrew.co.jp/news/research/2302drugstorefreshfood.html)


イオングループのフード&ドラッグ「ウエルシア イオンタウン幕張西店」(売場面積424坪)

では、ドラッグストアは今後食品の品揃えを拡大し続け、SMと真正面から競合するようになるのでしょうか。
答えは「ノー」です。一部の例外はあるとしても、業界全体として、そういった方向性に進むとは考えられません。食品と非食品では、商品管理ひとつをとってもノウハウが大きく異なっています。
ですから、あえて時間とコストをかけてSMとの同質化競争に挑む必要はありません。「フード&ドラッグ」の大型店舗でも、食生活のニーズを全て満たす品揃えは、直営では難しいでしょう。ただし可能性としては、食品卸売業者にテナントとして食品コーナーを任せるという方法が考えられます。
あくまでディスカウント価格の加工食品を中心に、ついで買いや緊急買い程度の食品を品揃えして顧客に買い物の利便性を提供し、その結果、来店頻度を高めるのがドラッグストアの本領です。

ドラッグストアの食品強化は、顧客への利便性提供が第一の目的だと繰り返し申し上げてきました。しかし業界の現状を見ると、食品販売への力の入れようは各社各様です。
図表②に、主なドラッグストアの商品分類別売上構成比を示しました。この中ではコスモス薬品の食品が57.9%と極めて高い割合です。
また7社のうち5社で、食品の売上構成比が医薬品や化粧品のそれを上回っていますが、サンドラッグとマツキヨココカラ&カンパニーの2社は、医薬品や化粧品の方が食品を上回っています。
この図表にはありませんが、主要ドラッグストアの中で食品の売上構成比が最も高いのはゲンキー(福井県坂井市)です。同社の食品売上構成比は66.3%で、なんと年商の3分の2を占めています。自前で生鮮の加工施設を設けているほどの力の入れようだからこそ、この数字をたたき出せるのです。

図表②商品分類別売上構成比

「販売革新」編集部作成

この稿の冒頭で、食品がドラッグストアの強力なマグネットなっていると述べました。集客の最大要素は価格の「安さ」です。つまりドラッグストアは食品の値入率を下げて安売り販売を行い、集客の目玉にしているのです。
図表③に示した、ウエルシアHDとツルハHDの商品分類別売上総利益率(荒利益率)を見ると、両社とも食品の値入率を下げて低価格で販売していることが分かります。スーパーの食品も部門によって荒利益率が異なりますが、店舗全体での標準的な数値は25~26%。ツルハHDの食品は14.4%ですから、価格訴求力がかなり強いと思われます。
この2社のデータを見ると、医薬品の荒利益率が40%台、化粧品のそれが30%台と高い数値です。つまり、食品や日用雑貨を集客のためのマグネットと割り切ってディスカウントし、単価も荒利益も高い医薬品や化粧品の購買につなげる。それがドラッグストア各社の販売戦略上の狙いなのです。

図表③商品分類別売上総利益率

「販売革新」編集部作成

(取材・文:「販売革新」編集部)

ドラッグストアが食品を強化する理由について、その背景にある消費者の変化や企業の狙いをレポートしていただきました。
7社のうち5社の売上構成比で医薬品・化粧品よりも食品が上回っているという事実から、すでに消費者の間ではドラッグストアで食品を購入する習慣がある程度浸透し、ドラッグストアにとっても重要な役割を担っていることがうかがえます。
ドラッグストアとしては来店頻度・購買頻度の向上や、単価や荒利益が高い医薬品・化粧品の購買につなげることが主な目的のようですが、生鮮食品の継続利用意向が64%と決して低くないことから、さらなる品揃え強化や食品コーナーの拡大を望む消費者も少なくないかもしれません。
商品管理のノウハウの違いなどから、ドラッグストアで食生活のニーズを全て満たす品揃えは難しいのが現状のようなので、その課題を解決するテクノロジーやアイデアの登場にも期待したいです。


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