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アパレルブランドと製造をつなぐマッチングサービス

経済産業省の令和2年電子商取引に関する市場調査にもある通り、物販系分野のEC市場規模が拡大しています。それに伴い、デジタルを主戦場にするD2C(Direct to Consumer)に注目が集まっています。

アパレル業界でもD2Cはトレンドの一つとして、D2Cブランドを新たに立ち上げるスタートアップのほか、既存の大手メーカーがD2Cブランドにシフトするケースや、プラットフォーマーがPBとしてD2Cブランドを展開するケースが出てきています。

D2Cブランドの立ち上げは商品開発や製造、物流、集客、販売など多岐にわたって行う必要があるため、自社で全て賄えない場合は必要なリソースを見極め、ビジネスパートナーを見つけることが大切なステップの一つとなります。しかし、業界に十分なネットワークを持っていない事業者の場合、最適なパートナーを見つけるのは容易ではありません。

今回は、こうしたニーズに応えるサービスを調査し、実際にどのような取り組みが生まれているのか、事例を取り上げながらその動向を追ってみたいと思います。

投資家から熱視線を浴びる、アパレルと製造業マッチングのスタートアップ

最初に海外の事例をいくつか見てみましょう。多くの投資家たちから注目を集めているのが、2015年にシンガポールで設立されたスタートアップZILINGOです。同社はアパレルブランドやクリエイターと、縫製工場や生地メーカー、糸メーカーなどの製造をテクノロジーでつなぐBtoB向けプラットフォームを運営。アパレル製品を販売するブランドや個人のクリエイターは、バングラデシュ、インド、スリランカ、タイ、インドネシア、ベトナムなど幅広い国・地域のサプライヤーと直接つながることで、従来のプロセスと比べて最大25%早く、15%安く調達や取引を行うことができます。

同社はほかにも、複数のECサイトの価格設定や在庫、注文処理などを一元管理するプラットフォームや、工場のデジタル化を支援するソリューション、バイヤーに製品を販売できるオンラインストアサービスなどを展開。多角的なアプローチでアパレル業界の持続的な成長とサプライチェーンのDX化をサポートしています。同社はベルギーの持ち株会社SOFINAやドイツのBurda Principal Investments、アメリカのVCであるSequoia Capitalなどから資金調達を受け、グローバル規模で投資家の支持を得ています。

小規模事業者や個人デザイナーと製造をつなぐプラットフォームを提供しているのが2012年にアメリカで創業したMaker’s Rowです。同社が運営するWebサイトでは、アパレルメーカーやクリエイターが製品開発、パターン作成、材料サプライヤーなどの工場を検索し、メッセージ機能を介して見積りのリクエストなどを送り、気に入った工場に製造を依頼することができます。メーカー/クリエイター側は月額35ドル〜、工場側も月額49ドルと低価格でスタートできるのが特徴で、すでに10,000以上の工場やメーカー/クリエイターとネットワークを形成しています。Crunchbaseの情報によると、現在までに190万ドルの資金調達に成功しているようです。

アパレルブランドと“つくり手”の出会いを創出

一方、国内では経済産業省が2015年に「アパレル・サプライチェーン研究会」を立ち上げ、アパレル業界におけるサプライチェーンの課題と未来に向けた議論を推進。産業全体の課題の一つとして、アパレル業界では製造・卸・小売が分業され、原糸や生地の製造、染色加工、縫製の各段階も分業構造で地理的にも離れていることから、製品開発リードタイムの長期化や過剰発注/過剰在庫、差別化が困難といった問題が発生していると指摘しています。

また、同じく経産省の研究会「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」が2021年に発表した報告書では、大量生産・大量消費から循環型経済への移行や、サプライチェーン管理を通じた労働環境の整備など、サステナビリティの観点からも課題が挙げられています。

こうした国内アパレル業界の課題を解決する手段として、アパレル×製造のマッチング事業で存在感を発揮しているプレイヤーがいます。

生産・販売に関する課題解決を目指しているのが、2014年創業のシタテル株式会社が展開するクラウドサービス「sitateru CLOUD」です。「ひと・しくみ・テクノロジー」の力により、産業が抱える課題を解決し、豊かな社会の実現を目指す同社が提供するサービスは、生産ワークフローのデジタル化や、販売・配送までをワンストップで実現するECパッケージにより、あらゆる事業者のアパレル事業を支援するもの。その中の機能の一つとして、生産現場とのマッチングをサポートしています。同社は縫製工場、ニット工場、生地メーカー、糸メーカー、パタンナーといった豊富なサプライヤーとネットワークを構築。アパレル製品はもちろんのこと、グッズやライフスタイル製品などの生産に柔軟に対応できます。

また、サプライヤーは無料でパートナー登録およびサービス利用が可能で、新規クライアントの開拓やメーカー側への新たなPR手段の獲得、閑散期の穴埋めといったメリットを提供しています。同サービスはD2Cブランドのみならず、大手メーカー・ブランドなどにも導入。経産省主催の「飛躍 Next Enterprise」プロジェクトに採択されるなど、業界の垣根を超えて注目を集めています。

次に紹介するのは、2015年創業のスタートアップ、株式会社ステイト・オブ・マインドが展開するオンライン縫製マッチングサービス「nutte」。個人を含めた小規模事業者にオリジナル商品の製作、洋服のリメイクなどを職人に依頼できるサービスで、小ロット、低予算などのニーズに幅広く対応しています。クリエイターと職人が力を合わせて製作したオリジナル製品は、同社が運営するECサイトと「teshioni」で販売することもできます。

似たような事例として、アパレルと縫製工場をつなぐマッチングサービスサイトを展開しているのが、株式会社ラクーンホールディングスの「SD factory」です。利用者は工場やパタンナーを探し、縫製可能なアイテムや対応可能なロット数、単価などの条件を確認。条件が合えば向上に直接問い合わせを行い、サンプル作成や本生産を行うことができます。同社は他にもアパレル・雑貨を中心とする小売業・サービス業などの事業者が、直接メーカーや問屋から商品・備品を仕入れることができる仕入れ・問屋・卸の専門サイト「SUPER DELIVERY」などを提供しています。

製造以外にも、アパレル業界でさまざまなマッチングサービスが登場

最後に、製造現場だけでなく、アパレル業界に関わるさまざまなプレイヤーとのマッチングを支援しているスタートアップを紹介します。

最初に取り上げるのは、ファッション・アパレル業界の「つながり」を支援している事例。ご紹介するのは、2016年創業の株式会社 READY TO FASHIONが運営するファッションビジネスマッチングアプリ「fatch」です。同社は、ファッション・アパレル業界でも課題となっている人材不足を解決すべく、採用効率化や生産性向上のためのマッチングサービスを展開しています。「fatch」は、業界における企業や業種の枠組みを超えた、あらゆるレイヤーとの「ビジネスの出会い」を創出するもの。アパレルメーカーや縫製メーカー、製糸工場、繊維メーカー、百貨店、量販店、デザイナー、スタイリスト、モデル、メディア、学生、他業界など、多種多様なカテゴリのプレイヤーが登録している点が特徴。新規顧客やパートナーの開拓だけでなく、人材獲得や人脈の拡大、情報交換やキャリアの模索なども含めて、緩やかでバラエティ豊かなマッチングを実現しています。

もう一つ取り上げるのが、2020年設立の株式会社ToRiMo pelが展開する、企業とモデルのマッチングを実現する「ToRiMo」です。ブランドは企業登録をしてモデルを募集し、その中から依頼するモデルを選択。撮影してほしい商品を発送すると、製品を身に付けたモデルの写真が納品されます。従来のようにモデルを探して交渉をする手間が省け、1案件1万円〜と比較的低価格で利用できる点が特長です。

モノづくり大国ニッポンの再来となるか?

先述した経産省の研究会は、アパレル業界におけるサプライチェーンの分断や劣化により、日本の強みを生かした商品づくりが難しくなっていることを問題視していました。アパレルに限らず広義の製造という意味でも、日本は世界に誇る“モノづくり大国”として経済成長を遂げてきましたが、近年はグローバルな競争力において低迷しているという見方もあります。

しかし、全国各地には老舗企業からスタートアップ企業まで、優れた技術や独自性のあるクリエイティブを強みとするモノづくりの担い手がたくさんいるのも事実です。経産省の研究会も、吸水速乾、抗菌などの高機能繊維をはじめ世界の高級ブランドから高く評価される生地も多く、特殊な細い糸やスマートテキスタイルなど先進的な技術開発への挑戦や、染色の繊細さや表現力などに、国内生産ならではの強みがあると説いています。

こうした素晴らしいプレイヤーを、必要とする相手につなぐサービスは、今後アパレル業界はもちろん、日本社会の発展に欠かせないファクターの一つとなるかもしれません。今後どのように発展していくのか、スタートアップ企業の動向も含めて引き続き注目していきたいと思います。

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