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進む流通再編、チェーンストアの地殻変動が始まる

普段スーパーやコンビニ、ドラッグストアで買い物をしていると、他のお店で見たことがあるPB商品が売られていたり、いつの間にかお店の名前が変わっていたりして驚くことはありませんか?小売業界ではそのような業務提携や経営統合が定期的に発生していますが、近年もチェーンストアにおける“再編”の動きが活発化しているようです。
今回はスーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアの大手チェーンにおける流通再編の動向を、「販売革新」編集委員 梅澤聡さんにレポートいただきました。

日本の小売市場は新型コロナの5類移行や、インバウンド需要の復調なども加わり活性化しています。一方、中長期で見ると、人口減少や高齢化に伴い、市場の縮小が予測されます。地方では過疎化が進み、小売業の撤退も続き、買物困難者の増加も社会問題化しています。

そうした厳しい環境において、チェーンストアは淘汰の時代を迎えています。この先、大手チェーン企業を軸に流通再編はさらに進んでいくでしょう。この1年間に起きた流通再編に関する3つの事例(スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア)から、その背景と未来を考えていきます。

スーパーマーケット業態

地域課題の解決による 豊かな暮らしを創造

新生フジの尾崎英雄代表取締役会長(写真中央)と山口晋代表取締役社長(その左)
平尾健一代表取締役副社長(左端)、イオンの岡田元也代表執行役会長(右から2番目)と
吉田昭夫取締役兼代表執行役社長(右端)

最初にイオンが主導するSM(スーパーマーケット)事業の流通再編から見ていきます。
イオンの子会社で中四国においてSM事業を展開するフジ(持ち株会社)は2024年3月1日に、傘下の事業会社であるフジ・リテイリング(松山市)とマックスバリュ西日本を吸収合併しました。
この2社の吸収合併により中四国と兵庫県の計10県で、営業収益7,959億円、店舗数514店舗、従業員数4万9,000人の大手チェーンが誕生となりました。

ここまでの経緯が複雑なので簡単にまとめてみます。
イオンとフジは2018年10月12日に資本業務提携を締結、その2日前の10月10日にマックスバリュ西日本と、マルナカ(2011年10月にイオングループ入り)と山陽マルナカ(同左)の3社が「リージョナルシフト」「地域密着経営」の実践を理念に、中国・四国地域におけるナンバーワン・リージョナルリテイラーとして、統合することを発表しています。
21年6月、あらためて(新生)マックスバリュ西日本とフジが、24年3月に完全統合を目指すと発表、それに先がけて、22年3月から、フジを持ち株会社として、その傘下に、フジ・リテイリングとマックスバリュ西日本を配置して完全統合の準備を進めてきた経緯があります。

24年3月1日に吸収合併を果たした新生フジですが、フジ代表取締役会長の尾崎英雄氏は経営環境について次のように述べています。

足下の中国、四国の経営環境を見渡すと、少子高齢化、人口減少の進行は全国の水準を上回り、このトレンドは将来にわたり続くと予測されます。産業の担い手不足や、市場の縮小による地域の活力低下、社会保障制度の維持も危ぶまれています。近年さまざまな災害や、長期にわたるコロナ禍などを経て、世の中の流れも大きく変わっており、Eコマースの進展や新たな消費、購買スタイルも定着、拡大をしています

尾崎氏は小売業を取り巻く環境の変化の厳しさを挙げています。そして流通再編の意義を次のように説明します。

流通小売業は地域産業であり、地域とは不可分の存在。地域の暮らしと地域社会への貢献を経営理念とする2社が統合することにより、課題解決能力がさらに向上すると考えています

2社の統合により、中期経営計画にはさまざまな取り組みが盛り込まれていますが、特に統合効果、シナジーの創出には次のような項目があります。

1つ目はサプライチェーンの統合と効率化です。
商品マスター、発注システム、物流システムといったMD(マーチャンダイジング)システムの統合と、センターの集約、配送や構内作業の効率化といった物流の統合、また既存PC(プロセスセンター)の相互利用と既存機器の入れ替えの実施です。簡単にいえば、各々別個にあったサプライチェーンを1本化することで効率化を図ります。

2つ目は仕入れの統合と集約化です。
商品政策を統合して、仕入れと調達を1本化、スケールメリットを発揮していきます。

3つ目はプライベートブランド(PB)の拡大と推進です。
こちらもスケールメリットを活かしながら、イオングループのPB「トップバリュ商品」の展開を拡大。さらに地域に密着したPBの開発、留め型商品(メーカーが特定の小売業向けに製造する限定商品)の開発を推進していきます。売上規模と展開店舗数のスケールメリットをMDに活かしていくとしています。

イオングループは、SM事業において、2018年より国内6地域の経営統合を進めてきました。北海道、東北、東海中部、近畿、中四国、九州のエリアごとに、最も地域に貢献する企業体を目指し、流通再編を推進してきたのです。今回の中四国における吸収合併により6地域の経営統合が完了したことになりました。

イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は次のような意義を語ります。

われわれは、地域社会にとって、なくてはならない企業となり、その存在価値とパフォーマンスを発揮していく形をとってきました。これまで個社だけでは実現できなかったことが可能になる、そうした企業体を地域に合わせてつくっています。全国一律にコントロールできるものではありません。地域ごとにさまざまな課題があって、その課題を的確に地域の会社がこなしていくことで、地域が豊かになっていく。そういった設計ができればと思っています

イオンのSM事業における、リージョナルの流通再編は一段落した格好になります。今後は吉田社長のいう地域ごとの課題、その解決による豊かな暮らしの創造を深めていくことになります。

コンビニ業態

最新デジタル、通信をキーワードに 未来の店舗につくり変える

左より三菱商事代表取締役社長の中西勝也氏
ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏
KDDI代表取締役社長CEOの高橋誠氏

流通再編の2つ目の事例はコンビニ大手3チェーンの一角を占めるローソンです。
概要から説明します。三菱商事、KDDI、ローソンの3社は、2024年2月6日「リアル×デジタル×グリーン」を融合させた新たな生活者価値創出に向けた資本業務提携契約を締結しました。

三菱商事とKDDIは、公開買付けなどによるローソンの非公開化に関する取引に合意、KDDIはローソンに対する公開買付けを実施、24年4月26日、株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表しました。三菱商事とKDDIは、ローソンの議決権を50%ずつ保有し、両社は共同経営パートナーとして、ローソンの企業価値向上に向けて3社で取り組んでいくとしています。
この事案の前までローソン株式の過半数を所有していた三菱商事が共同経営に至った背景を、三菱商事代表取締役社長の中西勝也氏は次のように話します。

この時代の流れの速さの中で、コンビニ同士だけではなくて異業種が参入してきたときに、三菱商事として本当にローソンの価値にアドオンできる部分があるのか、これまで三菱グループの上流から流している食品デリバリーをはじめ、いろいろなところでアドオンしてきましたが、これ以上追加でサポートできることは何だろうと問い掛けをしたときに、通信との連携があったのです。三菱商事だけで、ローソンの企業価値を高めるには限界があろうかというところで、リアルとデジタルを掛け合わせて、新しい形のコンビニを作っていくことをワクワクしながら見守っていきたい

これまで積み上げてきた、食品小売業の利便性に対して、その価値を高めたり、あるいは全く新しい価値を付け加えながら、同質化競争から脱却を図るということなのでしょう。

本提携における検討事例は以下の3つです。

第1に、リアル領域における取り組み。
ローソンとKDDI合計約1万6,800拠点(ローソン店舗数が約1万4,600、au Style/auショップ店舗数が約2,200)のリアル店舗ネットワークを構築し、ローソンの店舗網拡大や機能強化を行い、お客のさらなる利便性向上を目指します。

第2にデジタル領域における取り組み。
KDDIとローソンが持つ会員情報(お客の属性・購買情報など)連携による国内最大級の顧客データ基盤の活用で、ローソンのお客様満足度とロイヤルティの向上を目指します。

第3にグリーン領域における取り組み。
3社の事業基盤を最大限活用し、グリーンでサステナブルな社会の実現を目指します。

本提携の狙いとして、国内有数の経済圏を持つ、特徴の異なる企業同士が、互いの顧客基盤やサービスを連携することで、ローソン・KDDIの店舗の相互活用による店舗網の拡大、ローソン店舗における通信、金融、ヘルスケアなどの提供サービスの拡充、ポイント経済圏の拡大など、リアル・デジタル融合型サービスを開発していきます。

KDDI代表取締役社長 CEOの髙橋誠氏は次のように期待します。

われわれの持つ通信、DXをフルに活用いただいて未来のコンビニを実現していきたい。例えばコンビニの店頭にいらっしゃるお客様に、専門の担当者がリモートで接客をします。銀行や保険の窓口として、金融資産形成の相談ができたり、オンラインによる服薬指導を得ながら、薬を受け取る窓口になったり、スマホのサポート窓口になったり、リモートの力を使えば、お客様の身近なお店が、より価値のあるものになっていくのではないでしょうか

さらに、高橋氏は最新テクノロジーを活用した未来のコンビニを透視します。

バーチャル空間で、アバターによる接客サービスを導入したり、ドローンを活用した遠隔地への配送をローソン拠点に実施したり、あるいは、ローソンの購買データと、われわれのお客様データを、AIを駆使して活用すれば、バリューチェーンを最適化でき、よりクイックに商品のお届けができます。さらには、コンビニと通信、スターリンク(衛星インターネットアクセスサービス)なども、非常時の防災拠点として活躍できるようなコンビニになれば素晴らしいと思っています

リアル店舗の充実は永遠の課題です。一方、リアルだけでは限界が見えており、実際にコンビニ業界の店舗数は一時の増加傾向にはありません。
その踊り場といってもよいコンビニ業界の突破口として期待されるのが最新デジタルの活用であり、そのときは通信がキーワードになると、今回の資本業務提携に際して3社は考えているようです。こうした全く異なる業種を加えての流通再編も、今後は増えていくと考えます。

ドラッグストア業態

下位を2倍で引き離す経営統合 健康寿命延伸による新たな市場

左よりイオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏
ツルハホールディングス代表取締役社長執行役員の鶴羽順氏
ウエルシアホールディングス代表取締役社長の松本忠久氏(24年4月17日辞任)

日本チェーンドラッグストア協会が24年4月12日に「(2023年度)日本のドラッグストア実態調査」(速報)の結果を公表しました。全体売上高は9兆2,022億円(前年比105.6%)、全体店舗数2万3,041店舗(前年比957店舗増)となりました。継続して高い成長率を示している業界ですが、一方で寡占化も進行しています。

最後に3つ目の事例です。24年2月28日、イオン傘下のウエルシアホールディングス(HD)とツルハホールディングス(HD)の両社は2027年末までに経営統合する協議を開始したと発表しました。業界1位のウエルシアHDの売上高は1兆2,173億3,900万円(24年2月期、前期比6.4%増)、業界2位のツルハHDは1兆330億円(24年5月期予想、前期比6.5%増)となり、2社合計で2兆2,503億円に達します。

他方、業界3位のマツキヨココカラ&カンパニーは1兆300億円(24年3月期予想、売上高前期比8.3%増)とツルハHDに猛追、今期も同社が強いインバウンド需要を追い風に高い伸びが見込まれます。
業界4位のコスモス薬品の売上高は9,160億円(24年5月期予想、前期比10.7%増)となり、売上高の5割を超える食品部門の低価格戦略を強みに、25年5月期には1兆円を突破する計画となっており、今後も高い成長が考えられます。

このようにドラッグストアは、1兆円を超えて競合する勢力図を形作りますが、今回の1位と2位の経営統合により、それ以下のチェーンを2倍以上の売上高で引き離すことになります。

出店立地に関して、ツルハHDとウエルシアHDは、エリアで補完関係にあります。互いに統合の効果を得やすい関係にあるといえます。ツルハHDは、北海道、東北、中四国、九州に店舗密度が高く、ウエルシアHDは関東、関西に強いといったエリアの補完性があります。

経営統合のステップは、まずツルハHDがイオンの持分法適用会社になります。次にツルハHDとウエルシアHDの統合を株式交換により行い、ウエルシアHDをツルハHDの完全子会社にします。経営統合が完了した後、ツルハHDはイオンの連結子会社となり、イオングループにおける、ヘルス&ウエルネス事業における中核子会社となります。

ドラッグストアは、他社との差別化が難しく、売上高の大きさ、店舗数の多さが優位性を発揮する傾向が強いと見られています。売上で高い割合を占めるのが、大手製薬メーカーや大手日用品メーカーの商品であり、品揃えに独自性を発揮しづらいと考えられています。

食品スーパーであれば、地場で仕入れた青果物や鮮魚、精肉などが多く、全国一律の品揃えをしていません。コンビニであれば、弁当や惣菜、調理麺、調理パンなどチェーン専用の商品を開発しています。
一方のドラッグストアは、地域性も少なく、売れ筋も他店と同じ大手メーカーの商品を扱うため、スケールメリット勝負の面も色濃く出ます。特に価格が主要な来店動機になるため、業界1位、2位の統合により価格競争力が強化されると考えられます。

イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は昨今の業界に関して次のように指摘します。

出店競争による出店余地の減少、競合との価格競争の激化に加えて、薬価も継続的に引き下げられています。このようにドラッグストア業界は、現状モデルにおいて、成長期から成熟期、やや低成長期に入ってきたと認識しています

このような厳しい環境と認識しつつも、今後は期待も大きいと見ています。

高齢化による健康に対するニーズも高まってきました。健康寿命の延伸を目的とするサービスのウエートが大きくなっていきます。今日、健康社会を実現していくことに、どこまで積極的に関与していけるのか、ドラッグストア業界においては、重要であると考えます

そうしたマーケットの変化に加えて、アジアを中心に出店を強化していきます。

統合後は日本全国で5,000を超える店舗になります。それに加えて、今後、出店の拡大を目指すアジアにおきましても、誰もがヘルス&ウエルネスのサービスを等しく受けられる社会の実現を目指すとともに、中長期的に売上規模3兆円をターゲットとして、アジアナンバーワンのグローバル企業へと成長を目指していきます」(ツルハホールディングス代表取締役社長執行役員 鶴羽順氏)

以上、スーパーマーケットとコンビニ、ドラッグストアの流通再編を解説しました。縮小する国内のマーケットに対して、お客の立場に立った豊かな暮らしを実現すべく、三者三様の成長戦略を描いているようです。

(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)

スーパー、コンビニ、ドラッグストアで活性化する再編の動きと背景にある市況をレポートしていただきました。人口減少や高齢化に伴う市場の縮小という共通の課題に向き合いながら、地域社会への貢献やデジタル活用による店舗サービスの拡充、高まる健康ニーズへの対応など、それぞれ顧客目線に立った三者三様の戦略を描いているのが興味深いですね。国内に限らず、小売業界は時代の変化とともに再編を繰り返しながら社会に貢献し続けてきたと思います。今回の流通再編が社会に新たな価値を提供し、私たちのより豊かな暮らしに貢献してくれることを期待したいと思います。

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