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【展覧会メモ】望月章司個展「気分は上々」(彫刻・インスタレーション)

生きる、生きたいを表現し続けてきました。
生活で使っていた物
仕事で世話になった物を使い
「生」を表現していく。
そこには真実があると。
自分の考えや思いを作品にのせ
等身大でシンプルでストレートな作品に。

テキスト:望月章司

2022年10月、静岡県沼津市の”DHARMA沼津”で開催された、望月章司氏による個展の様子を撮影。

望月氏は、本業として富士市の茶農家を経営しているアーティスト。
作品の素材は農業に関係のあるものが多く見られ、目を引いて印象的だったのは複数の茶葉刈り機を組み合わせた立体作品。
中央の金属製の柱からツリー状に茶葉刈り機の刃の先が外側に広がるように固定されており、巨大で威圧感のある造形をしていた。
しかも、各々の茶葉刈り機は作動が可能で、中央の柱を軸として作品全体が回転するギミックを備えている。
今回の展覧会では実際に動いている様子は見られなかったが、入り口の受付付近で2018年に”富士の山ビエンナーレ”で展示された際の、作品が実際に動いている迫力のある映像が上映されていた。

別のフロアでは数点の写真作品やプロジェクター投影による映像作品も展示されており、必ずしも農業に直接的に関連した事物を作品の題材や素材とするとは限らないように見えた。

最上階の広間には、望月氏の実母とのやりとりを元に制作されたインスタレーションが展示されていた。

部屋の中は、どこからか風鈴の音が響いている。
空間を遮るように床から垂直に立てられたワイヤーメッシュには、トルソーに装飾が施されたような立体物が複数取り付けられ、手前の黒い展示台には「命の記録」と書かれたアルバムが乗せられていた。

そのアルバムには日記のような手記と、ベッドに横たわる女性の姿を写した写真などが収められている。

個展のタイトルであった「気分は上場」とは、アルバムに収めた望月氏の母が最後に残した言葉であると、後に作家本人の口から聞いた。
風鈴とトルソーも、当時の出来事に関係があるという。

最上階の広間の様子
風鈴の音がどこからか聞こえる演出がされていた
作品のトルソー
撮影時は作品の奥に座席が用意され、トークショーが開催されていた
命の記録と書かれたアルバム
中は日記や当時の写真が収められている

感想


なんと望月氏自身は、この展覧会開催の直前に脳出血で倒れ、入院と手術までする事態に直面している。その後、わずか一月も経たない間に退院してこの展覧会の搬入を終えるとは、凄まじい精神力だと思う。

私自信も、2021年に大病を患い入院をしていた経験がある。望月氏と同じ様に脳出血も経験し、現実的な意味で死に直面もした。
死という事象について多くは知らないが、当事者であろうとなかろうと、死と向き合うことができるのは生きている者だけで、私達が、死と向き合い、死を受け入れるチャンスは、たった一生の間にしかないことを、闘病を通じて知った。
運命はいつも劇的であるとは限らず、事故で唐突に亡くなる人もいれば、時間をかけてゆっくりと息絶える人もいる。ならばせめて平穏な時に、もっと人生の終末について考えを巡らせるべきだと思うようになった。

望月氏の作品からは、生命を直視して、ありのままを受け止めようとする姿勢を感じた。植物も生物も、同じ生き物であれば、やがて訪れる最後の瞬間を何度も目の当たりにしてきたのではないだろうか。
そして望月氏自身もまた一時は命の危機にさらされながらも、「生」を題材とした作品展示の手を止めることはなかった。私にはそれが何より尊いことのように感じた。
そのような望月氏の人柄と、ここに置かれた作品から、命と向き合う一人の人間の姿が垣間見える展覧会だった。

展覧会概要


市場町アートフェス2022グランプリ作品展
望月 章司 個展 「気分は上々」
2022年 10月 毎週土・日曜日、祝日(10日)
13:00〜17:00(最終日〜16:00)
場所:DHARMA沼津

写真
カメラ:X-T4
レンズ:XF16-80mmF4 R OIS WR
画質設定:S 3:2, JPG FINE, PROVIA STD
撮影:TSUZUKIToru

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