WHO ECDD カンナビジオール(CBD)レビュー 2018 仮訳
(表紙: Designed by vectorjuice / Freepik)
2018年のWHO ECDD(世界保健機関 薬物依存専門家委員会)による大麻の精神作用のない成分カンナビジオール(CBD)についてのクリティカル・レビューの報告書仮訳を公表しています。(印刷用PDF1MB)
WHOはレビューの結果、CBDの治療効果を認め、乱用の可能性も示されていないことから、CBDは国際条約の規制対象に加えられるべきでないと勧告しました。
その後2018年11月に行われた会議で、WHOは大麻植物由来のCBDを主成分とする製品にごく微量含まれることのある精神活性物質Δ9-THCの上限を0.2%と定め、条約に"主としてカンナビジオールを含有し、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールが 0.2%を超えない製剤は、国際統制の対象としない”とする脚注を追加するよう勧告しました。
2020年12月の国連麻薬委員会で、この勧告についての投票が行われ、賛成6票、反対43票、棄権4票で否決されましたが、反対票を投じたすべての国が国際条約によるCBDの規制に賛成しているわけではありません。そこでは、むしろ規制対象に含まれない物質について条約に脚注を追加することの矛盾、THC含有量の上限に合意がみられなかったことなどが賛成できなかった理由として説明されており、EUやアメリカなどは、CBD抽出のための大麻植物の栽培が国際条約の規制を除外される産業目的の大麻(ヘンプ)栽培とみなされることを明言しています。こうした事情や経緯、解釈については以前の記事『EU司法裁判所、“花から採れたCBDも国際条約の規制対象外”』で詳しく解説していますので、是非そちらも合わせてご覧ください。
最近、CBD製品向けのヘンプ栽培にゴーサインを出したパキスタン政府のFawad Chaudhry科学技術大臣は、世界のヘンプ市場は25億ドル(2兆5千億円)にものぼり、好況のCBD市場でシェアを獲得すれば、今後3年間で約10億ドル(1,000億円)の収入が見込めるだろうと述べています。
2013年頃から日本でもCBDへの関心は徐々に高まり、さまざまな製品が流通しています。しかし、日本では大麻取締法の規制のために、茎や種子から採取されたCBDのみ合法で、成分が豊富に含まれる花や葉由来のCBDは違法とされ、原料や製品もすべて輸入に頼っています。このレビューでは、日本でもサプライチェーンの確立が期待されているCBDの健康影響についてのエビデンスが提供されています。以下本文です。
WHO Technical Report Series 1013
WHO 薬物依存専門家委員会
第 40 会期 報告書
この報告書は、国際的な専門家グループの見解を含むものであり、必ずしも世界保健機関の決定あるいは公式の方針を表すものであるとは限りません。
世界保健機関
原文
WHO Expert Committee on Drug Dependence: Fortieth report
(WHO Technical Report Series, No. 1013)
ISBN 978-92-4-121022-5
ISSN 0512-3054
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/279948/9789241210225-eng.pdf?ua=1
©World Health Organization 2018
WHO Expert Committee on Drug Dependence: forty-first report. Geneva: World Health Organization; 2018 (WHO Technical Report Series, No. 1013). Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
6. カンナビジオール
6.1 物質同定
化学的にはカンナビジオール(CBD)は、2-[(6R)-3-methyl-6-prop-1-en-2-ylcyclohex- 2-en-1- yl]-5-pentylbenzene-1,3-diolである。CBDは大麻植物にみられる天然に発生するカンナビノイドの一つである。それは前駆体カンナビジオール酸(CBDA)からの脱炭酸反応の後に形成される炭素21テルペノフェノリック化合物であるが、化学合成によって生産することも可能である。 CBDは2つの立体異性体をもつが、通常は天然に存在する(-)-エナンチオマーを指して用いられ る。(+)-CBDは合成されているが、あまり注目されていない。
6.2 化学
植物中ではΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)とCBDは、それぞれの酸性の前駆体Δ9- テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)とCBDAから生じる。光への曝露、加熱、熟成によるTHCAとCBDAの脱炭酸反応の結果としてΔ9-THCとCBDが生じる。CBDを生産する合成経路は利用可能であるが、いくつかの公開された方法での産出量は少量である。様々な生体試料におけるCBDの分析的検出のためのいくつかの公表された方法がある。
6.3 規制物質への転換の容易性
実験室でCBDを1971年の向精神薬に関する国際連合条約の規制のもとにあるΔ9-THCに転換することが可能であるという若干のエビデンスがある。実験室でのCBDのΔ9-THCへの転換は、不確かな純度の製剤という結果をもたらす。この転換は酸の存在下で自然発生的に起こり得るという、わずかなイン・ビトロのエビデンスがある。しかしながら全体的にみれば、この変換がヒトにおけるCBDの経口投与の後に起こるというエビデンスはない。
6.4 一般薬理
臨床試験と調査研究では、CBDは一般にカプセルあるいは油剤(例えば、オリーブオイルやゴマ油)に溶かして経口で投与される。おそらく水への溶解性の低さのために消化管からのCBDの吸収は不規則であり、薬物動態プロファイルの結果は多様である。CBDは肝臓で広範に代謝され、 結果として経口デリバリーからの生物学的利用能はわずか6%になると推定されている。CBDは高い脂溶性のために脂肪組織に優先的に蓄積される可能性がある。イン・ビトロモデルにおいて、 CBDはシトクロムP450(CYP)アイソザイムの抑制を通して、他の薬物の濃縮に変化を起こすことが示されているが、同じ作用が臨床用量でも起こるかどうかは不明である。
2種類のカンナビノイド(CB)受容体が存在する: CB1は末梢組織における若干の発現とともに主に中枢神経系に存在し、CB2は免疫機能、消化管の細胞上の周辺部及び低密度で中枢神経系にみられる。CBDはCB1に直接的に作用しないようであり、大部分の研究はこの受容体に対するア ゴニスト作用を見出さなかった。CBDはCB2受容体にも低い親和性を示す。
ヒト及び動物における研究でCBDは、Δ9-THCとは非常に異なる作用を有することが示されている。マウスにおいて、Δ9-THCはCB1が活性化されたときに起こる全ての作用を誘発するが、 CBDはCB1活性化と関連する行動特性(例えば、自発運動の抑制、低体温、抗侵害受容作用)を生じさせない。ヒト及び動物における脳機能イメージング研究では、CBDはΔ9-THCと全体的に正反対の作用を有することが示されている。Δ9-THCとは対照的に、CBDは通常の状態のもとでは心拍数あるいは血圧に影響を及ぼさない。CBDは間接的なメカニズム及びいくつかの非エンドカンナビノイドシグナル伝達系によってエンドカンナビノイドシステムと関係する可能性があるが、仮にあるとしても、これら他のメカニズムがCBDの何らかの潜在的臨床あるいはその他の作用の原因であるかどうかは明らかでない。
6.5 毒性学
一般に、CBDは毒性が低いことが認められているが、研究は限られており、全ての潜在的作用が調査されているわけではない。
6.6 ヒトにおける有害反応
CBDはΔ9-THCに典型的にみられる作用を生じさせない。CBDは治療効果の可能性を調査するいくつかの対照試験及び非盲検試験を通して、一般に良好な安全性プロファイルとともに忍容性が良好であることが認められている。CBDの治療上の可能性を調査する臨床研究によって報告された有害事象には、傾眠、食欲減退、下痢、疲労が含まれるが、これに限られるものではない。
6.7 依存の可能性
実験動物あるいはヒトにおけるCBDの身体依存の可能性の対照研究に関する報告書を特定することは不可能であった。CBDに対する耐性は観測されていない。
6.8 乱用の可能性
いくつかの実験動物での研究は、CBDは多くの乱用薬物に共通する作用を生じさせず、より具体的にはΔ9-THCに匹敵するそれらの作用も生じさせないことを示した。特に、他の乱用薬物とは異なり、CBDは脳内の中脳辺縁ドーパミン(報酬)経路を活性化させず、報酬電気刺激の作用を増強しない。CBDは強化の条件付け場所嗜好性モデルにおいて作用を示さず、CBDの作用は薬物自覚効果の薬物弁別モデルにおいてΔ9-THCの作用と類似しない。
臨床研究は、高用量の経口のCBDであってもΔ9-THCのような作用(例えば、認知機能及び精神運動機能の低下、心拍数/頻脈の増加、ドライマウス)を引き起こさないことを示している。健康なボランティアにおいて評価された際には、1回の経口投与用量最大600mgのCBDは生理学的測定及びAddiction Research Centre Inventoryの尺度においてプラセボ様効果を有した。娯楽的大麻使用者における無作為化、二重盲検、被験者内実験的研究では、CBDは経口で最大800mgの用量で有意な精神活性作用、心血管系作用あるいは他の作用を生じさせなかった。全体的に、ヒトにおける経口のCBD投与が臨床的に関連性のあるΔ9-THC様の自覚効果あるいは生理的作用をもたらすというエビデンスはない。CBDの使用に関連する乱用あるいは依存の症例報告はない。
6.9 治療適用、治療的使用の範囲及び医療使用の疫学
CBDは現在いくつかの国でΔ9-THCとの組み合わせ比率1:1(Sativex®)で販売されている。CBDは統合失調症、脆弱X症候群、脳障害、小児欠神てんかん、新生児低酸素性虚血性脳症、周産期仮死を含む様々な治療適用に向けて開発中である。CBDの臨床使用はてんかんの治療において最も進展がみられる。臨床試験において、CBDは、多くの場合他の形態の薬物療法に効果がみられないレノックス・ガストー症候群(様々な種類の発作を生じさせる重症型てんかん性脳症)及びドラべ症候群(高い死亡率を有する複雑小児てんかん障害)の臨床研究において有効性が認められた一つの純粋なCBD製品(Epidiolex®)とともに、少なくともある形態のてんかんの治療への有効性が証明されている。
2015 年、アメリカ合衆国の FDA は、新生児低酸素性虚血性脳症の治療のための CBD の静脈内投与に向けたファスト・トラック指定を承認した。欧州委員会もまた CBD の周産期仮死の治療における使用に向けた希少疾病用医薬品指定を承認した。現在これらの症状に向けた他の利用可能な治療法はないが、動物モデルにおける CBD の有効性のエビデンスがある。
6.10 WHO必須医薬品モデルリストへの掲載
カンナビジオールはWHO必須医薬品モデルリスト(第20版)あるいはWHO小児用必須医薬品モデルリスト(第6版)に掲載されていない。
6.11 (医薬品としての)販売許可
一つの純粋なCBD製品(Epidiolex®)がECDD会議の時点で登録に向けて検討中であった。開発中のいくつかの他のCBD製品がある。
6.12 産業用途
純粋なCBDに正当な産業用途はない。
6.13 非医療使用、乱用及び依存
純粋なCBDの非医療使用に関連する乱用あるいは依存の症例報告はない。しかしながらCBDを主成分とする製品は医薬品当局によって管理されていない製剤の状態で様々な医学的適応に使用されている。
6.14 不正使用、乱用及び依存に関連する公衆衛生上の問題の性質と規模
公衆衛生上の問題(例えば、薬物の影響下での運転、健康あるいは併存疾患への害)は純粋なCBDの使用と関連していない。
6.15 合法的な生産、消費及び国際貿易
医学研究に向けた合法的な生産は6.11項(医薬品としての販売許可)に記述されている。
6.16 違法製造、取引及び関連情報
入手可能な公表された統計データ(例えば、違法なCBDの押収に関する国別データ)はない。
6.17 現在の国際統制とその影響
CBDは1961年及び1972年の国連国際薬物統制条約の附表に含められることを明確に指定されておらず、1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約のもとでの麻薬及び向精神薬の違法製造に頻繁に使用される前駆物質及び化学物質リスト(6)にも含まれていない。しかしながら、もし大麻のエキスあるいはチンキとして調製された場合には、1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iにおいて規制される。
6.18 現在及び過去の国家的規制
いくつかの国々はCBDを何らかの形で規制管理している。しかしながら、ある国は近年CBDを部分的に医療使用目的あるいは研究目的でより利用しやすくするために規制を緩和した。
6.19 WHOレビューの歴史
CBDのプレレビューは、CBDを含む大麻関連物質に関するプレレビュー文書は次回の委員会の会議において準備され、評価されるとする第38会期ECDDからの勧告に従って、2017年11月の第39会期ECDD会議の期間に行われた。第39会期ECDD会議のプレレビューの後に委員会は、ほぼCBDのみを含むエキスおよび製剤は、第40会期ECDD会議においてクリティカルレビューの対象になると勧告した。
6.20 勧告
CBDは大麻植物にみられる天然に発生するカンナビノイドの一つである。純粋なCBDの使用に関連する乱用あるいは依存の症例報告はない。CBDの使用に関連する公衆衛生上の問題はない。
CBDは一般に忍容性が良好であり、良好な安全性プロファイルを有することが認められている。CBDの有害作用は、食欲減退、下痢、疲労を含む。
CBDの治療適用は様々な臨床用途に向けて研究されている。この分野の研究は、てんかんの治療において最も進展がみられる。臨床試験において純粋なCBD製品の一つは、多くの場合他の形態の薬物療法に効果がみられないレノックス・ガストー症候群及びドラベ症候群などのようなある形態のてんかんの治療への有効性が証明されている。
CBDは1961年、1972年あるいは1988年の国連国際薬物統制条約の附表に明確に掲げられていない。しかし、大麻のエキスあるいはチンキとして調製される場合は、1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iのもとに規制される。
CBDがそれぞれ1961年あるいは1972年の条約のもとに規制される物質である大麻またはΔ9-THCと同様の乱用と同様の悪影響を及ぼす傾向がある物質であるというエビデンスはない。
委員会は、純粋なCBDとみなされる製剤は、附表に加えられるべきでないと勧告した。
参考文献
6. List of precursors and chemicals frequently used in the illicit manufacture of narcotic drugs and psychotropic substances. Vienna: International Narcotics Control Board; 2017.
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