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EU司法裁判所、“花から採れたCBDも国際条約の規制対象外”

国連、大麻は”もはや危険な麻薬とはみなされなくなった”

2020年12月2日、国連麻薬委員会(The Commission on Narcotic Drugs: CND)は、2年間延期され続けてきた世界保健機関(WHO)による大麻と大麻関連物質の国際条約上の規制分類変更の勧告への投票を行い、大麻の治療効果の可能性を認め、大麻と大麻樹脂を最も危険な薬物のカテゴリー(1961年の麻薬に関する単一条約の附表Ⅳ)から削除する歴史的な決断を下しました。この件について、国連は公式ツイッターアカウントで、大麻は”もはや危険な麻薬とはみなされなくなった”とツイートしています。

この会議では、2019年1月にWHO事務局長から国連事務総長宛の手紙[全文訳]と付属書類[全文訳]によって提出されたWHO 薬物依存専門家委員会(Expert Committee on Drug Dependence: ECDD)による大麻と大麻関連物質の再分類に関する勧告について投票が行われ、上記の勧告(勧告5.1)以外はすべて反対多数で否決されました。残念ながら、日本政府代表は自国の要請によって採択された2009年の国連決議[全文訳](CND resolution 52/5)にしたがって実施されたWHO ECDDによる大麻及び大麻関連物質のクリティカル・レビューの結果からの勧告のすべてに反対票を投じました。

この会議で採決された勧告の内容と結果は、CNDのプレス・ステートメント[全文訳]で公表されています。この記事では、否決されたカンナビジオール(CBD)の規制に関連する2つの勧告(勧告5.4と勧告5.5)とCBDは、現在の国際条約の規制対象とされるのかどうかについて解説します。

WHOによる勧告の内容と投票結果

勧告5.1: 大麻及び大麻樹脂を1961年の麻薬に関する単一条約aの附表IVから削除する



↪︎賛成27票、反対25票、棄権1票で採択

勧告5.2.1: ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)を1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに追加する

↪︎賛成23票、反対28票、棄権2票で否決

勧告5.2.2: ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)を1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに追加する勧告を採用することを条件として、ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)の1971年の向精神薬に関する条約の付表IIから削除する

↪︎勧告5.2.1の否決にともなって自動的に否決

勧告5.3.1: ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)を1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに追加する勧告を採用することを条件として、テトラヒドロカンナビノール(現在1971年の向精神薬に関する条約の付表Iに掲げられている6つの異性体を指すと解されている)を1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに追加する

↪︎勧告5.2.1の否決にともなって自動的に否決

勧告5.3.2: テトラヒドロカンナビノールを1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに追加する勧告を採用することを条件として、テトラヒドロカンナビノール(現在1971年の向精神薬に関する条約の付表Iに掲げられている6つの異性体を指すと解されている)を、1971年の向精神薬に関する条約の付表Iから削除する

↪︎勧告5.2.1の否決にともなって自動的に否決

勧告5.4: 大麻のエキス及びチンキを1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iから削除する

↪︎賛成24票、反対27票、棄権2票で否決
勧告5.5: 1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iに”主としてカンナビジオールを含有し、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールが0.2%を超えない製剤は、国際統制の対象としない”とする脚注を追加する

↪︎賛成6票、反対43票、棄権4票で否決

勧告5.6: 単一または複数の成分によって医薬製剤として、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール)が容易に利用出来る方法によって復元不可能、あるいは公衆衛生へのリスクを引き起こさない方法で調合された、化学合成あるいは大麻の製剤として生産されたデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール)を含有する製剤を1961年の麻薬に関する単一条約の附表IIIへ追加する

↪︎勧告 5.2.1の否決にともなって自動的に否決

CBDを薬物統制条約の規制対象に含めるという国際的な合意はない

この結果をみただけでは、CBDが国際的な薬物統制条約の規制対象とされるのかどうかわかりづらいですが、結論から述べると、CBDを薬物統制条約の規制対象に含めるという国際的な合意はありません。CBDは、1961年、1972年、1988年の条約のいずれの附表にも掲げられていません。したがって、大麻植物由来でない化学合成されたCBDは条約の規制対象ではありません。1961年の麻薬に関する単一条約は、大麻の花や大麻のエキス及びチンキを規制していますが、産業目的(繊維や種子)の大麻植物の栽培は適用を除外されています。CBDが大麻植物のエキスとして調製された場合、’大麻のエキス及びチンキ’として1961年の条約の規制対象とみなされるのかどうかについては解釈の相違がみられます。

WHOはCBDを規制対象とみなさなかった

WHOは、CBDと大麻及び大麻関連物質のレビューをそれぞれ別々に行いました。大麻及び大麻関連物質に先行して行われた2018年6月の第40会期ECDD会議でのCBDのクリティカル・レビューの結果[全文訳]、WHOは、当初、”CBDは1961年、1972年あるいは1988年の国連国際薬物統制条約の附表に明確に掲げられていない。しかし、大麻のエキスあるいはチンキとして調製される場合は、1961年の麻薬に関する単一条約の附表Iのもとに規制される。”としつつ、シンプルに”純粋なCBDとみなされる製剤は、附表に加えられるべきでない”と勧告しています。続いて2018年11月の第41会期ECDD会議での大麻及び大麻関連物質のクリティカル・レビューの結果[全文訳]、’大麻のエキス及びチンキ’という用語には、精神作用のあるものからないものまで、さまざまなものが含まれることから、大麻の”エキス及びチンキ”を1961年の附表Iから削除するよう勧告しました(勧告5.4)。さらに、大麻植物から抽出した純粋なCBDとみなされる製剤に、ごく微量含まれる可能性のあるΔ9-THC含有量の閾値について、カンナビジオール製剤Epidiolex®の例を持ち出して最高0.2%に設定し、脚注を付け加えて規制対象から除外する勧告を行いました(勧告5.5)。


INCBの分析

ところが、これに対して薬物統制条約の監視を務める国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board: INCB)は、2020年6月に各加盟国に配布されたという’INCBアナリシス’と呼ばれる文書の中で、CBDは附表に明示的に掲げられていないが、大麻のエキスとして1961年の条約のもとに規制されており、CBDの抽出のための栽培は、1961年の条約の適用から除外される産業目的(繊維と種子)の栽培とみなされないとする解釈を主張したと報道されています。しかし、この解釈は、のちに公表された2020年10月のINCB委員長の声明文書では言及されていません。

▪️単一条約から除外される産業目的の大麻栽培は、繊維と種子のみに限られない

1961年の麻薬に関する単一条約では、産業目的の大麻植物(ヘンプ)の栽培は、規制の適用を免除されています。産業目的の大麻植物の栽培の除外を規定する1961年の麻薬単一条約 第二十八条 大麻の統制 第2項は、英語版と外務省により公表されている日本語版とで産業上の目的の説明の表現が異なり、英語版では (fibre and seed)と表記されている箇所が、外務省により公表されている日本語版では(繊維及び種子に関する場合に限る。)と訳されており、英語版より日本語版の方が狭い範囲に限定された表現となっています。

英語版:

Article 28. Control of cannabis
2. This Convention shall not apply to the cultivation of the cannabis plant exclusively for industrial purposes (fibre and seed) or horticultural purposes.

日本語版:
第二十八条 大麻の統制

2 この条約は、もつぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る。)又は園芸上の目的のための大麻植物の栽培には、適用しない。

この箇所はちょうどINCBが産業目的の大麻栽培は繊維及び種子に限られると解釈した箇所に該当しますが、2020年12月1日付で大麻関連の法律事務所Vicente Sederberg LLPからINCB宛に送付された書簡[*1]では、1961年の条約の大麻植物の栽培に関する規定の第二十八条 大麻の統制 第2項についての正式なコメンタリー[*2]が引用され、産業目的の大麻栽培が繊維と種子のみに限られるものではないことが明らかにされています。

“Paragraph 1 expressly states that this régime applies only to the cultivation of the cannabis plant for the production of cannabis and cannabis resin. Cultivation of the plant for any other purpose, and not only for the purposes mentioned in paragraph 2, is consequently exempted from the control régime provided for in article 23.” (p.312)

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在ウィーン国際機関アメリカ代表部の見解

勧告5.5に賛成した国はわずか6カ国ですが、反対票を投じたその他すべての国々は、CBDを国際条約の規制に含めることを支持したわけではありません。例えば、在ウィーン国際機関アメリカ代表部は、勧告5.5に反対票を投じた理由を以下のように説明しています。

“The United States was unable to vote in support of recommendation 5.5 on legal and procedural grounds. We do not dispute the scientific basis for the recommendation. Cannabidiol has not demonstrated abuse potential, and it is not our position that cannabidiol should be or is under the control of the international drug conventions.

Notably, the recommendation before the Commission for a vote today was in fact the second recommendation from the Expert Committee relating to cannabidiol preparations, and was explicitly designed – quote: “to give effect to the recommendation of the fortieth ECDD that preparations considered to be pure cannabidiol should not be scheduled within the international drug control conventions” end quote.

As a matter of past practice, when the ECDD recommends that a substance should not be subject to international control, no CND action is required to give effect to that recommendation; substances are presumed to be outside the scope of the conventions unless explicitly included in a Schedule. This recommendation to give effect to a state of affairs which already exists therefore breaks from past procedure and intrudes on the treaty-based mandate of the CND to make recommendations for the implementation of the aims and provisions of the drug control conventions.”

“アメリカ合衆国は、法的および手続き上の理由から、勧告5.5を支持する投票を行うことができませんでした。われわれは、勧告の科学的根拠に異議を唱えるものではありません。カンナビジオールは乱用の可能性を示しておらず、カンナビジオールが国際薬物統制条約の管理のもとにある、あるいはあるべきであるというのはわれわれの立場ではありません。

注目すべきことに、今日の委員会での投票の勧告は、実際にはカンナビジオール製剤に関する専門家委員会からの二回目の勧告であり、当初の勧告は明確に設計されていました–引用:「純粋なカンナビジオールとみなされる製剤は、国際的な薬物統制条約の附表に加えられるべきでないとする第40会期ECDDの勧告を実施する」-引用終。

過去の慣例として、ECDDがある物質を国際規制の対象とすべきでないと勧告した場合、その勧告を実施するためのCNDの行動は要求されません; 物質は、附表に明示的に含まれない限り、条約の適用範囲外であるとみなされます。このように既存の状況に影響を与えるこの勧告は、過去の手続きから逸脱しており、薬物統制条約の目的と規定の実施のための勧告を行うためのCNDの条約に基づく権限を侵害するものです。”(日本語仮訳)


在ウィーン国際機関EU代表部の見解

他に、在ウィーン国際機関EU代表部は、勧告5.5に反対票を投じた理由を以下のように説明しています。

“In relation to recommendation 5.5 concerning CBD preparations, the EU considered that it would lower the current control level for those preparations. Moreover, the establishment of the 0.2% THC limit is not supported by scientific evidence and the proposed wording does not exclude divergent interpretations concerning the calculation of that limit. In addition, we consider that there is no justification for the differentiated treatment of cannabidiol compared to other non-psychoactive cannabinoids. In general, we considered that the recommendation, as it has been drafted, does not offer the necessary legal certainty and does not constitute a proper solution for cannabidiol. Therefore, the 12 EU Member States who are also members of the Commission voted against the insertion of this footnote as this will preserve the current legal framework. However, the EU would welcome further consultation with all relevant stakeholders on a recommendation on the appropriate level of the international control for cannabis preparations with low THC content, while ensuring the protection of public health and welfare, taking into consideration the existing structure of the international drug control system for cannabis as well as technical and administrative capacity needed for its implementation.”

“CBD製剤に関する勧告5.5に関連して、EUはこれらの製剤の現在の規制レベルを引き下げることになると考えています。さらに、THC制限値0.2%の制定は科学的根拠に裏付けられておらず、提案されている文言は、その制限値の計算に関する多様な解釈を排除するものではありません。さらに、われわれは他の非精神活性カンナビノイドと比べて、カンナビジオールに差別化した扱いをする正当性はないと考えています。全般に、われわれは、起草された勧告は、必要とされる法的な確実性を提供しておらず、カンナビジオールのための適切な解決策を構成していないと考えました。そのため、委員会のメンバーでもある12のEU加盟国は、この脚注の挿入は現行の法的枠組みを維持することになるとして反対票を投じました。しかしながら、EUは、THC含有量の低い大麻製剤の国際的な規制の適切なレベルに関する勧告について、公衆衛生と福祉の保護を確保しつつ、大麻に関する国際的な薬物統制制度の既存の構造や、その実施に必要な技術的・行政的能力を考慮し、すべてのステークホルダーとのさらなる協議を歓迎します。”(日本語仮訳)

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▪️EU代表、“花から採れたCBDも規制対象外”とするEU司法裁判所の判決をCNDで共有

また、在ウィーン国際機関EU代表部は、CNDで勧告への採決が行われた翌日に、CBDは麻薬に関する国連単一条約の意味での「薬物」ではないと結論した2020年11月19日の欧州連合(EU)司法裁判所の判決[*3]を掲載した会議用文書[全文訳}を提出し、全ての加盟国と共有しました。この判決は、チェコで合法的に栽培されたヘンプの花や葉を含む植物全体から生産されたCBDを電子たばこのカートリッジとして販売するためにフランスに輸入した業者が、ヘンプの繊維と種子のみ商業利用できるとするフランスの法律のもとで刑事訴追され、有罪判決を受け、控訴していたケースで、他の国で合法的に生産されたCBDがCannabis sativa植物の繊維と種子のみからでなく、植物全体から生産されていた場合に販売を禁止しているフランスの法律のEU法への適合性についてのエクス・アン・プロヴァンス控訴裁判所の問い合わせに応じて示されました。EU司法裁判所は、フランスの国内法と欧州連合の機能に関する条約の第34条及び第36条との適合性を評価し、

“must be interpreted as precluding national legislation which prohibits the marketing of CBD lawfully produced in another Member State when it is extracted from the Cannabis sativa plant in its entirety and not solely from its fibre and seeds, unless that legislation is appropriate for securing the attainment of the objective of protecting public health and does not go beyond what is necessary for that purpose” (point 96 of the judgment).

「繊維及び種子のみからではなく、大麻(カンナビス・サティバ)植物全体から抽出された場合に、他の加盟国で合法的に生産されたCBDの販売を禁止する国内法を排除するものと解釈されなければならない、但し、当該法令が公衆衛生保護の目的の達成を確保するために適切であり、かつ、その目的のために必要な範囲を超えない場合はこの限りでない」(判決 point96)(日本語仮訳)

と判断しています。この判決はEMCDDA(欧州薬物・薬物依存監視センター)のニュースでも紹介され、この決定を受けて欧州委員会は、最近の記者会見でカンナビジオールは1961年の麻薬に関する単一条約の意味における薬物とみなされるべきでなく、EU食品安全規則の他の条件も満たされることを条件に、食品として認定することができると指摘したと報道されています。

EMCDDA、低THC大麻製品市場に関する報告書を公表

2020年12月21日に公表されたEMCDDAによるヨーロッパにおける低THC大麻製品(low-THC cannabis products)に関する報告書[*4]では、勧告5.5の否決により先送りにされた、大麻植物由来のCBDその他の非精神活性カンナビノイド製品へのTHC含有量のガイダンス値の設定やマーケティングについて詳細に検討されています。EMCDDAは低THC大麻製品(low-THC cannabis products)を次のように定義しています;


“The definition of low-THC cannabis products used in this publication is ‘products being or containing cannabis herb, resin, extracts or oils that claim or appear to have a very low percentage of THC and which would be unlikely to cause intoxication’. “

“本書で使用されている低THC大麻製品の定義は、「THCの含有率が非常に低く、酩酊作用を引き起こす可能性が低いと主張する、あるいはそのように考えられる大麻のハーブ、樹脂、抽出物、オイル、もしくはそれらを含む製品」です。”(日本語仮訳)

EUでは、大多数の国で健康志向やウェルネスの向上にフォーカスしたさまざまな低THC大麻製品が販売されており、専門店もあるほどだそうです。日本で合法的に販売される次世代の大麻製品はこうしたラインナップになるのかもしれません。

EUには、およそ70種類のヘンプの品種 ‘hemp – Cannabis sativa’ があり、いくつかのEU加盟国ではこれらの品種を麻薬の分類から除外しています。これには、種子、エキスとチンキ、樹脂など、大麻植物(ヘンプ)のすべての部位が含まれているそうです。

低THC大麻製品市場はスイス発祥

スイスでは、2011年に計測の不確実性と生物学的変動性を考慮して産業用ヘンプのTHC上限を0.3%から1%へと引き上げています。低THC大麻製品は、2016年に”たばこ代替製品”として販売されたのをきっかけに増加し、オーストリア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスなどに拡大しました。

2019年スイスのAddiction Switzerlandによる1,500人のCBDユーザを対象にした調査によると、主な3つのCBD製品の使用動機は次のようになっています;

①ウェルビーイング(ストレスや不眠への対処)
②健康(痛み、うつ病、吐き気の治療)
③違法な大麻使用の節制(違法使用やTHCの作用を減らす)

しかしTHC含有量の上限に関するガイドライン値などのような市場の統一的な基準の設定は発展途上の状態です。低THC大麻製品に許容される精神作用のないTHC含有量の上限を定めるのは難しく、EUでも検討中だそうです。

欧州食品安全機関 (EFSA) は、食品および汚染物質のリスク評価を実施する際に急性参照用量(ARfD)を用いており、EFSAのARfDは、体重1キログラムあたり、THC1マイクログラム(1μg Δ9-THC/kg b.w.)となっています。


急性参照用量 ARfD:Acute Reference Doseとは?

“ヒトの 24 時間又はそれより短時間の経口摂取で健康に悪影響を示さないと推定される 体重 1 kg 当たりの摂取量のこと。食品や飲料水を介して農薬等の化学物質のヒトへの急性影響を考慮するために設定される。”(内閣府, 食品安全委員会, 「食品の安全に関する用語集 第6版」

欧州産業用ヘンプ協会(EIHA)は、EFSAがARfD算出に用いた不確実係数(UF)はオピウム・アルカロイドなどと比べ高すぎるため、体重1キログラムあたり、THC7マイクログラム(7μg Δ9-THC/kg b.w. )とすべきと勧告しています。

不確実係数 UF:Uncertainty Factortとは?

“ある物質について、許容一日摂取量(ADI)、急性参照用量(ARfD)、耐容一日摂取量 (TDI)等の健康影響に基づく指標値(HBGV)を設定する際、無毒性量(NOAEL)等の POD(Point of Departure)に対して、動物の種差や個体差、その他の不確実性を考慮し、 安全性を確保するために用いる係数のこと。POD を安全係数(SF)又は不確実係数(UF) で除すことで HBGV を求める。SF は ADI や ARfD の、UF は TDI の算出に用いる。”(内閣府, 食品安全委員会, 「食品の安全に関する用語集 第6版」

欧州産業用ヘンプ協会(EIHA)の示すTHCガイドライン値

体重70kgの人で

急性参照用量(ARfD):
体重1キログラムあたりΔ9-THC 7マイクログラム

無毒性量(NOAEL):
一回量Δ9-THC 2.5mg

最小毒性量(LOEL):
一日総摂取量5mg Δ9-THC(2.5mg x 2)
一日に体重1キログラムあたりΔ9-THC 0.07mg

欧州産業用ヘンプ協会(EIHA)の提案する食品中THC含有量ガイドライン値(2017年)

大麻種子ホールまたは外皮除去:10 000μg/kg
ヘンプシードオイル(食用油):10 000μg/kg
油粕(プロテイン・パウダー、粉末):10 000μg/kg

CBDは、THCの精神活性作用を抑制することが知られているため、主としてCBDを含有する低THC大麻製品へのTHC含有量の基準値は食品に適用される基準とは別に定めるべきかもしれません。尚、ここでは、医薬品としてでなく食品として低THC大麻製品を管理する場合の基準について検討されています。

日本の法規制

日本では、第二次世界大戦後にGHQの占領政策のもとで制定された大麻取締法の第一条により、大麻植物の茎と種子を除くすべての部位が大麻として規制されています。そのため、CBDを最も豊富に含む花や葉由来のCBDは違法と解釈され、CBDがほとんど含まれないとされる茎や種子由来と証明された製品のみが厚生労働省の承認を受けて販売されています。海外では医療用途や健康志向、ウェルネスの向上を目的として、花や葉を含む大麻植物の全体から抽出されたCBD製品が効率よく、合理的に利用されているにもかかわらず、私たちには利用できないのは理不尽です。



このような規制のあり方については、厚生労働省内部からも疑問視する声が上がっています。厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部鑑定課長津村ゆかり氏は、日本中毒学会機関紙、中毒研究、大麻中毒特集に掲載された文書[*5]の中で、大麻植物由来のCBD製剤の治療薬としての可能性を紹介しつつ、


“はたして大麻草の茎から実用可能な濃度のCBD製品を製造できるのであろうか?”


“このような部位からCBD製品を製造することに経済的合理性があるのかは不明である"

と述べられています。大麻取締法は第4条で医療用途の大麻使用を禁止しています。国連麻薬委員会で大麻の治療効果の可能性が認められ、規制分類が変更された現在では、この法律が医療用途の薬物を確保しつつ、公衆衛生への悪影響を防ぐという薬物統制条約の目的から大きく逸脱したものであることは以前にも増して明らかです。私たちは今、過去の世代の過ちを認め、科学的根拠に基づいて時代に合わせた法改正を実施する絶好の機会を迎えています。

参考文献

*1. Vicente Sederberg LLP, Memo to the INCB Regarding International Control of CBD Preparations and the Impacts of Potential Reforms
[最終閲覧日2020年12月31日]

https://vicentesederberg.com/img/blog/2020/12/VS_INCB_Contestation_Memo.pdf

*2. Commentary on the Single Convention on Narcotic Drugs, 1961

[最終閲覧日2020年12月31日] 
https://www.unodc.org/documents/treaties/organized_crime/Drug%20Convention/Commentary_on_the_single_convention_1961.pdf

*3. Case C-663/18 [(Commercialisation du cannabidiol (CBD)], ECLI:EU:C:2020:938,
[最終閲覧日2020年12月31日]
http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=233925&pageIndex=0&doclang=EN&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=15113594

*4. European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction (2020), Low-THC cannabis products in Europe, Publications Office of the European Union, Luxembourg. 
[最終閲覧日2020年12月31日] 
https://www.emcdda.europa.eu/system/files/publications/13471/TD0320749ENN01.pdf

*5. 津村ゆかり, 大麻の法的位置づけと利用・流通状況の変化, 中毒研究  第33巻第1号 2020年3月号 大麻中毒, へるす出版, p.23

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