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2019年、僕の心を震わせたライブ10選+α

いつもお読み頂きありがとうございます。

音楽&映画ライターの松本侃士です。

新型コロナウイルスの本格的な感染爆発開始から、既に半年以上が経とうとしています。

この期間に開催を予定されていたほぼ全てのライブやフェスは、次々と中止・延期となってしまいました。そして残念ながら、この未曾有の事態について、未だに収束の目処は見えていません。

もちろん、この困難な状況の中においても、数々のアーティストたちは、創意工夫を重ねながらオンラインイベントの開催に挑み、僕たちに新しい音楽体験を提供してくれています。また、ソーシャル・ディスタンスを確保することを前提とした、全く新しい様式の有観客ライブも、少しずつ開催されるようになってきました。

あの頃のように、心から自由に音楽を楽しむことができる日が、いつか必ず来ることを信じて。今回は、昨年、僕が執筆した10本(+α)のライブレポートをダイジェスト形式(一部抜粋&各記事へのリンク)でお送りします。

この記事を通して、ライブやフェスの熱狂を、少しでも感じ取って頂けたら嬉しいです。


【邦楽ライブ 10選】

1/19(土)ストレイテナー @ 幕張メッセ・イベントホール

ストレイテナーに「ありがとう」を伝えたい

20周年ツアーの大団円となる1日だったからだろうか。これほどまでにサービス精神に溢れ、そしてバラエティに富んだステージは、彼らの長いライブ史を振り返っても、前例がないように思う。たとえば中盤では、フロアの中央に設けられたサブステージに移動。乱反射するミラーボールの光を浴びながら、四方を囲む観客に向けてダンスチューンを連打してみせた。特に、"KILLER TUNE"〜"DISCOGRAPHY"の流れは圧巻だった。続けて、ゲストに秦基博を招いて、コライト曲"灯り"を初披露。彼の代表曲"鱗"のカバーも素晴らしかった。さらにダブルアンコールでは、この日まで支え続けてくれたファンのために制作されたという新曲"SPIRAL"を届けてくれた。
この言葉で片付けてしまってはいけないかもしれないが、やはりこの日は、どうしようもなく「特別」な1日だったように思う。そして、この日が「特別」に成り得たのは、ストレイテナーが20年間にわたって、彼らが、そして僕たちが信じる「ロック」を、強靭な意志と覚悟をもって鳴らし続けてきたからに他ならない。その長年の歩みはまさに孤独な闘争であり、彼らが果敢に「ロック」の可能性を切り開いてくれていなかったら、日本のロックシーンは、今と全く違うものになっていただろう。だからこそ、この「特別」なアニバーサリーライブには、単なる「特別」以上の意義と価値が宿っていた。
これまでストレイテナーが鳴らし続けてきた、そして、これからも鳴らし続けていく「ロック」は、否応なく続いていく僕たちの未来への歩みを、輝かしい確信をもって称えてくれる。だからこそ僕たちは、これからも彼らの楽曲を求め続け、そしてまた、救われ続けていくのだろう。いよいよ21年目の第一歩を踏み出し始めたストレイテナー。彼らが愛され続ける日本のロックシーンに、僕は希望はあると思う。


6/22(土) RADWIMPS @ ZOZOマリンスタジアム

愛にできることは、まだあると信じたい。

昨年12月にリリースされた『ANTI ANTI GENERATION』の楽曲を基軸とした今回のツアー。あのアルバムが圧倒的な密度/濃度/熱量を誇っていたからだろう。あまりにもハイエナジーなロックサウンドが炸裂し続ける、怒涛の2時間半であった。特に後半の"IKIJIBIKI"、"君と羊と青"、"いいんですか?"という大合唱の3連打には、本当に胸が熱くなった。ステージ上の5人と、37,000人の観客が、それぞれの魂をお互いにぶつけ合うような、唯一無二のコミュニケーション。「音楽」の根源的な力、そして規格外の可能性を、空気の震えを通して確かに体感できた。スタジアムのワンマンライブだからこそ味わうことができた、あの歓喜、あの興奮、あの一体感を、僕はいつまでも忘れたくない。
そして、本編ラストに披露されたのは、新曲"愛にできることはまだあるかい"。あまりにも素晴らしいパフォーマンスだった。新海誠監督の最新作『天気の子』の予報映像において、既に楽曲の一部が公開されていたが、今回、初めてこの曲の全貌に触れたことで、野田洋次郎の「真意」が伝わってきたように思う。
あらゆるラブソングか歌われ尽くした後に。あらゆるラブストーリーが語られ尽くした後に。それでも、まだ「愛」にできることはあるのだろうか。そのように問いかける同曲には、同時に輝かしい確信が秘められている。そう、愛にできること、僕たちにできることは、まだあるんだ。RADWIMPSは、これまでの長いキャリアの中で、様々な形のラブソングを届けてきてくれた。しかし、僕たちが生きる今という時代に対して、「愛」の存在意義と可能性を、これほどまでに真摯に訴求してみせる楽曲は、かつてなかったのではないだろうか。語弊を恐れずに言えば、それは、「個」と「個」の関係性を超えた、壮大にして普遍的な、究極のラブソングだ。彼らはもう既に、『ANTI ANTI GENERATION』の先の景色を見据えている。その果敢な表現姿勢に、心を強く震わせられてしまった。


7/26(金) ELLEGARDEN @ 「FUJI ROCK FESTIVAL'19」

雨上がりの苗場で、ELLEGARDENを観た

ELLEGARDEN、11年ぶりのフジロック出演。編集者/ライターとして、あまりにも無防備なこの言葉を使うのを憚られる気持ちになるが、正直に伝えたい。まるで、夢の中にいるような時間だった。彼らの活動再開の報せが届けられてから、約1年2ヶ月が経つ。昨年のツアー「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」を経て、今年に入ってからも、ELLEGARDENの4人は「当たり前」のようにライブを敢行している。それでも、いやだからこそ、この表現を使わせて欲しい。2019年の今、ELLEGARDENのライブを観ることには、どうしたって「特別」な意義が宿る。
「せっかく時計の針が動き出したんで、ガキの頃には思いつかなかった新しい夢を一緒に見ましょう。」そう、彼らの活動再開は、決して一過性のものではない。この先の未来へと、物語は続いていくのだ。「新しい夢」という言葉に、どれだけ多くの人が心を打たれただろうか。どれだけ多くの人の想いが報われただろうか。そして、どれだけ多くの人が救われただろうか。「あり得ないんじゃねえかってことも、起こるんだよ。俺たちの人生には、たくさん。」その言葉の意義を深く味わうような、あまりにも美しく、輝かしい時間であった。雨上がりの客席エリアは、数え切れない参加者たちの涙と笑顔で満ち溢れていた。その光景に、胸がいっぱいになる。
言うまでもなく、この物語の主人公は、ELLEGARDENの4人、そして、僕たちだ。「新しい夢」を、みんなで一緒に見たい。


8/4(日) King Gnu @ 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」

破格の才能、King Gnuの快進撃が止まらない。

歪で、不可解。そして獰猛。そうだ、本来ロックとは、これほどまでに手に負えないものだったはずだ。それでいて、知的で、セクシーで、スタイリッシュ。彼らが僕たちに提示する新たなロック観は、最高にクールである。
そしてやはり、King Gnuの音楽の真髄は、ライブにこそ宿る。そのことを再確認できたステージだった。ボーカル・井口理は、その佇まいからして「華」を感じさせる、非常に稀有なフロントマンだと思う。フィクサーである常田大希の、ダーティーなオーラと挑発的なステージングも堪らない。また、メンバー4人からみなぎる堂々たる自信は、高い音楽リテラシーと精緻な技巧に裏付けされていることが分かる。全てのリズム、メロディ、アレンジに意義があり、ロジックがある。(特に、コーラスパートの音の重ね方は、少なくとも現行の邦楽ロックシーンでは見られないものだ。)その高みまで無自覚に達してしまうアーティストもいるが、おそらく、彼らの場合は意図的だろう。一つ一つの歪な「ロック」が、総体として「ポップ」な表現になるように緻密にチューニングされていることが、その証左だ。いずれにせよ、あまりにも濃厚な音楽体験だ。
そして、ついに披露された新曲"飛行艇"が圧巻であった。アメリカのスタジアムロックを彷彿とさせるギターリフ。グッと重心を下げたグルーヴ。そして、大陸的なスケール感を湛えたメロディ。これまでの楽曲の通奏低音となっていた祈りのブルースも、今回も高らかに鳴り響いている。この曲を手にした彼らは、ここから、もっと高く、もっと遠くまで飛んで行けるだろう。


8/12(月) Dragon Ash @ 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」

Dragon Ashと僕たちの「ロックバンド」の物語は続く。

定刻の18:05。2000年から2018年に至るまでの「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」出演映像が、ハイライト形式で巨大ビジョンに映し出される。そう、Dragon Ashは、20年連続でGRASS STAGEに立ち続けてきた唯一のバンドだ。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の歩みと共に、この国の音楽シーンにおいて、「ロック」の精神を高らかに鳴らし続けてきた、孤高のロックバンドなのだ。このフェスとDragon Ashは、まさに運命共同体。だからこそ、彼らが、20回目の夏、5日間の大トリのステージに立つことには、あまりにも深い意義がある。
まるで、この日のセットリストは、彼らの20年間にわたる鮮烈な闘争史を凝縮したかのようであった。そして、共に闘い抜いてきた盟友たち、TAKUMA(10-FEET)、ラッパ我リヤ、SATOSHI(山嵐)、KO-JI ZERO THREE(GNz-WORD)も、Dragon Ashに力を貸すために、再びひたちなかに集結した。"Life goes on"では、「ひたちなかのみんな、ありがとう!」と感激の想いを告げ、"百合の咲く場所で"では、「ロックフェスはお前らのもんだぞ!」と叫ぶKj。決して、言葉数は多くはなかったが、20年間、GRASS STAGEの板に立ち続けてきた彼らの感慨が確かに伝わってきて、思わず胸が熱くなる。
「10代の頃からお世話になってるフェスなので。まだ生まれてなかったやつもいるかもしれないけど。お世話になりました。ありがとうございました。」Kjの感謝の言葉に導かれて、ラストナンバー"Viva la revolution"が幕を開ける。「まだ革命前夜!」その咆哮と、あの歓喜の光景を、僕はいつまでも忘れたくはない。


8/17(土) MAN WITH A MISSION @ 「SUMMER SONIC 2019」

MAN WITH A MISSION、魂の共震コラボ5連打!

いきなり2曲目で、TAKUMA(10-FEET)が登場。コラボ曲"database"を畳み掛ける。お互い別々の道から、日本におけるミクスチャー・ロックの在り方を模索し続けてきた両者の共演は、やはり何度観ても胸を熱くさせられる。立て続けて、マッティ・ルイス&アリ・タバタビィ(ZEBRAHEAD)がステージイン。轟音の中を掻い潜るように、けたたましく繰り広げられるボーカルリレー。まさに「オオカミ VS シマウマ」ともいうべき壮絶なコラボ曲"Out of Control"に、灼熱のMARINE STAGEが揺れる。
まだまだコラボの連打は止まらない。東京スカパラダイスオーケストラから、ホーンセクションの4人とギターの加藤隆志がステージイン。ライブ初披露のコラボ曲"Freak It !"で、日本人アーティストとしての「大和魂」を叩きつける。
そして、最後にして最強のコラボレーター・布袋寅泰がMARINE STAGEに降臨。果てしなくハイエナジーなコラボ曲"Give It To The Universe"が放たれる。五匹の究極生命体と、たった一人で互角にわたり合い、そして凌駕していく布袋。まさに怪物級のライブパフォーマンスに、誰しもが息を飲んだ。


8/17(土) サカナクション @ 「NF in MIDNIGHT SONIC」

AM2:00、サカナクションの「深層」へ潜る

深夜2時。こんなにも深い時間から幕を開けるライブだからこそ、きっと尋常じゃないものになるだろう。そんな熱狂的な期待で、超満員のMOUNTAIN STAGEが満たされていた。
続けて、最新アルバム『834.194』のナンバーが立て続けに披露されていく。その中でも、"忘れられないの"は、既に往年のスタンダードナンバーのような輝きを放っていたことに驚かされた。そして、"INORI"〜"ミュージック"を通して、心象風景の深淵へと潜り込んだ僕たちは、一気に「浮上」する。ラスト2曲"アイデンティティ"、"新宝島"の爆発力は圧巻であった。既に時計の針は深夜3時を回っていたことが、とても信じられない。
浅瀬だろうが、中層だろうが、深海だろうが、関係はない。たとえどの深さで向き合ったとしても、サカナクションの音楽は、僕たちの心を優しく満たしてくれる。そんな当たり前な、そして同時に、かけがえのない事実に、改めて気付かされてしまった。


9/18(水) 欅坂46 @ 東京ドーム

欅坂46、東京ドーム制圧。「反逆」のポップミュージックが、ここに結実する。

あれから3年半、ついに、欅坂46が掲げてきた「反逆」のポップミュージックが、ここに一つの結実を見せる。2019年9月18日、グループ初の東京ドーム公演。きっと、とてつもないドラマが生まれる。開催発表から当日まで、そんな壮絶な予感をずっと抱いていた。
そしてアンコール、ついに、長きにわたり封印されていた"不協和音"が解禁された。これぞまさに、絶対的エース・平手友梨奈の「完全復活」の鮮やかなる証明である。魂の絶叫とも呼ぶべきその全身全霊のパフォーマンスに、満場の東京ドームが揺れた。感情の臨界点があるとしたら、そんなものとっくに超えている。鬼気迫るメンバーたちの、そして何より平手の表情に、心が震えた。壮絶な余韻が、いつまでたっても消えない。それほどまでに、素晴らしいステージだった。
一夜が明けて、一つ思うことがあるとすれば、それは、3年半にもおよぶ欅坂46の孤高の闘争は、確かな意義のあるものだった、ということだ。彼女たちは、自らの力で、そして東京ドームのど真ん中で、そう証明した。だからこそ、ここから幕を開ける欅坂46の「第2章」への期待が止まらない。僕は、欅坂46の次なる挑戦を、全力で支持する。


11/4(月) BUMP OF CHICKEN @ 東京ドーム

今、BUMP OF CHICKENに「ありがとう」を伝えたい。

次々と披露される最新曲たち。既に日常に浸透しているはずのポップソングが、全く新しい輝きを放ちながら東京ドームに鳴りわたってゆく。その驚きを、興奮を、歓びを、5万人のリスナーと共有できた時間は、あまりにも眩いものであった。もちろん、今回のツアーで披露されたのは、最新曲ばかりではない。"車輪の唄"、"真っ赤な空を見ただろうか"、そして、"GO"の導入部において藤原基央が歌詞の一節をアレンジして口ずさんだ"メロディーフラッグ"。長年にわたってBUMP OF CHICKENを応援してきた人たちは、そうした往年の名曲が披露されるたびに、きっと報われるような思いを抱いたのではないだろうか。何を隠そう、僕がその一人だ。
出会いがあれば、いつか必ず別れが訪れる。得るものがあれば、いつか必ず失う時が来る。しかし、いや、だからこそ、「今」この瞬間は、「未来」のために懸命に輝きを放つ。そうした前提の上に成り立つからこそ、BUMP OF CHICKENと僕たちの音楽を通したコミュニケーションは、いつだってかけがえのないものになるのだ。この夜、BUMP OF CHICKENが表現し続けてきた「切なさ」の輪郭が、数々の名曲によって浮き彫りになっていく。そのあまりにも美しく一貫した表現姿勢に、僕は強く胸を打たれた。
5万人の観客が、どのような日常の先に、どのような想いを持って東京ドームに集まったのかは、決して知る由もない。それでも、一人ひとりの「僕」と「あなた」の物語は、あの日、あの時、BUMP OF CHICKENの音楽を通して、鮮やかに彩られ、力強く肯定され、そして一つに結ばれた。それぞれの旅路の先に、「今日」を、いや、「今」この瞬間を、4人と5万人で共有できたこと。だからこそ、破格なスケールの感動を味わうことができたこと。その奇跡のような現象に、涙が止まらない。音楽の根源的な力、そして規格外の可能性を、僕はあの日、空気の震えを通して確かに体感した。


12/20(金) UVERworld @ 東京ドーム

6 VS 45,000。その闘いの先に、UVERworldが見つけた「答え」。

そして、UVERworldは、その先へ行く。メンバーが必ず達成させる目標として掲げていた、東京ドームでの「男祭り」がついに実現。45,000枚のチケットは瞬く間にソールドアウト。この日を、こんなにも幸福な形で迎えることができるだけで、デビュー当時から彼らの活動を追い続けてきた一人として、既に胸がいっぱいになった。
ライブが進んでいくにつれて、僕の中で一つの確信が深まってゆく。6 VS 45,000。UVERworldは、この闘いに勝った。そして、その勝利は、彼ら6人の勝利を信じて東京ドームに集った45,000人全員で掴み取ったものなのだと思う。TAKUYA∞のこの一言が、全てを物語っていた。「俺たちと一緒に東京ドームに辿り着いてくれて本当にありがとう。俺たちを選んで、俺たちと闘うことを選んでくれて本当にありがとう。」UVERworldの、いや、俺たちの長きにわたる鮮烈な闘争史が、この日、最も美しい形で一つの結実を見せたのだ。僕はその光景を前にして、胸の高まりが、涙が、魂の震えが、止まらなかった。
「男祭り」は、こうして幕を閉じる。不思議だ。寂しいけれど、どこか誇らしい気持ちもある。こんなにも晴れやかな気持ちになるとは思っていなかった。そして、これからもUVERworldの音楽を真っ直ぐに受け止められるよう、後悔のない生き方をしようと決意した。それが、6人の生き様に惚れ込んでしまった僕が、「男祭り」で手にした「答え」だ。8年にわたり孤高の闘争史を紡ぎ続けてきたUVERworld。彼ら6人への最大限の愛と敬意を、ここに表したい。


【+α  洋楽ライブ 2選】

7/26(金) THOM YORKE TOMORROW'S MODERN BOXES @ 「FUJI ROCK FESTIVAL'19」

闇夜の苗場で、トム・ヨークを観た

ベースのフレーズを弾き倒し、ギターをかき鳴らし、まるで自意識から解放されたように踊り、叫び、歌う。先月リリースされたソロ作品『ANIMA』が、この数年間のライブ活動の結実であったからだろうか。あまりにもアグレッシブな彼の表現姿勢に、まず圧倒された。
最も特筆すべきは、やはり、トムの歌の美しさだ。まるで魂の在処を探るように、しなやかに宙を舞う幽玄な声は、恐ろしささえ感じさせる。ダブルアンコールにおいて、ピアノ弾き語りで披露された"Suspirium"には、もはや鳥肌が立った。全15曲、非の打ち所がない、果てしなくスリリングなライブ体験であった。
語弊を恐れずに言えば、これこそまさに、全く新しいロックの形だ。2019年というこの時代において、ロックが辿り着いた新境地だ。そして、それは同時に、音楽の可能性そのものでもある。大げさな言い方かもしれないが、彼が立つ場所が、いつだって現代音楽の最先端なのだ。圧倒的な事実として、世界の音楽シーンは、彼に導かれてきた。きっとそれは、これからも変わらないだろう。だからこそ、今回の来日公演には、あまりにも深い意義が宿っていたのだ。2019年の今、あのステージに立ち会えた感動を、僕は決して忘れはしない。


8/17(土) RED HOT CHILI PEPPERS @ 「SUMMER SONIC 2019」

「世界最強」のロックバンド・RED HOT CHILI PEPPERSを観た

SEもなく、突如としてステージ上に現れたフリー、チャド・スミス、ジョシュ・クリングホッファー。3人によるジャム・セッションは、拍数を刻むごとに熱と覇気を帯びていく。そして、ついに放たれた会心のギターリフ。"Can't Stop"だ。軽快に、それでいて豪快にリリックを畳み掛けるアンソニー・キーディス。もはや覚醒感すら感じさせる彼の佇まいは、まさにロック・スターそのもの。あまりにも鮮烈なステージの幕開けに、思わずため息が出た。
"Dani California"、"Californication"、"Around The World"、"Under The Bridge"、そして、"By The Way"。まさに、完全無欠のセットリストだ。ミクスチャー・ロック史の金字塔ともいえる必殺曲の連打に、ただただ心が震えた。そして彼らは、僕たちに教えてくれた。「ロック」とは、剥き出しの闘志であり、祈りのブルースであり、現在進行形の生き様であることを。「ロック」とは、僕たちに、果てしない全能感を与えてくれる希望であることを。タフで、クールで、ユーモラスな4人の姿と、その演奏、歌、言葉に、僕は、一人のロックリスナーとして心から救われた思いがした。
アンコールの最後に披露されたのは、"Give It Away"。もはや「聴く」「観る」という次元を遥かに超えた究極の音楽体験。ビートがけたたましく轟き、リフが鮮やかに弾け、無数の言葉が燦々と降り注ぐ。その音の洪水に身を委ねるだけで、一気に視界が開け、最後には無敵な気分になれる。そうだ、思い出した。これこそが、当時14歳の僕が出会ってしまった、そしてその後の人生を決定的に変えられてしまった「ロック」なんだ。令和元年の夏、こうしてレッチリと再会できたことが、心の底から誇らしい。



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