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Mr.Childrenと共に生きた日々、生きてゆく日々を想う。

【Mr.Children/『Mr.Children 2011-2015』『2015-2021&NOW』】

音楽は、時に、音符の並びと重なり合いによる純粋な音の体験を超えて、そして、その上で歌われる言葉の意味を超越して、聴く者の人生に非常に深い響きをもたらすことがある。

もはや、理論や理屈では説明することはできないけれど、音楽は、時に、聴く者の人生を彩り、導き、救い得る力を放つことがある。僕はそれを、ポップ・ミュージックにしか成し得ない奇跡のような事象だと思っている。

そして、ポップ・ミュージックには、もう一つの大切な特性がある。あえて僕なりの言葉で説明するならば、それは、「今を生きるアーティストによって鳴らされる、今を生きるリスナーのための音楽」ということになるのだと思う。

時代は常々と巡っていく。その過程では、それぞれの時代におけるムードや価値観も変わり続けていく。その絶え間ない変化の中で、その時々に鳴らされるべき必然を秘めた音楽が、時代の歌として、ポップ・ミュージックとして、不特定多数の人々によって受容されていく。

クラシック・ミュージックとして継承され続ける名曲たちが「永遠」という価値を内包しているのとは対称的に、ポップ・ミュージックの真価は、いつだって「今」という時代にこそ宿る。今日も、音楽シーンの最前線では、次々と新しい音楽が発表され、その中から、少しずつ、もしくは瞬く間に時代とシンクロを果たす楽曲が生まれる。そのようにして、ポップ・ミュージックの歴史は絶えず更新され続けていく。


前置きが非常に長くなってしまったが、この国の音楽シーンにおいて、常にその最前線を駆け抜けながら、数え切れないほどのポップ・ミュージックの奇跡を起こし続けてきたモンスターバンドがいる。それが、Mr.Childrenだ。

今回の2枚のベストアルバムに収録されているのは、2011年から2021年、そして2022年現在の楽曲たちである。この約10年間は、東日本大震災によって受けた傷と共に歩み始めざるを得なかった痛切な日々であり、そして現在もなお、私たちは、未曾有のパンデミックという新たな困難と逆境に苛まれ続けている。また、年号が平成から令和へと変わるに伴い、少しずつ旧来的な価値観からのパラダイムシフトが起きつつあるが、それでもなお、抑圧や差別、分断など、私たちが向き合うべきテーマは多い。

決して、手放しで明るい時代だったとは言い切れない約10年間だったと思う。それでも、Mr.Childrenが、懸命に新しい音楽を届け続けてくれたからこそ、そして、否応もなく流れていく日々の生活に、人生に、優しく誠実に寄り添い続けてくれたからこそ、そうした時代においてもなお、前を向いて生き続けられている人は少なくないと思う。今作を聴いて、それぞれの時代とその時々に届けられた楽曲を振り返ったことで、改めて、Mr.Childrenの偉大さを再確認した。


それぞれの楽曲の受け止め方・解釈の仕方は、それぞれのリスナーごとに異なるという大前提はありつつも、あえて、彼らの楽曲をそのメッセージを軸にして大きく分類すると、まず一つ挙げられるのが、強く深い愛を歌ったラブソングである。

その中でも特に、「君」という二人称が登場する楽曲のメッセージの力は凄まじく、そしてどの楽曲も、一人ひとりのリスナーが自分自身の人生に重ね合わせて聴くことのできる温かな普遍性を誇っている。

大切な人へ向けた愛をテーマにしたMr.Childrenの楽曲を並べていくと、そこに浮かび上がるのは、まさに人生そのものと呼ぶべき壮大で美しい物語だ。「君」と共に歩む人生という物語を祝福する圧倒的な肯定の力に、強く心を揺さぶられる。


睡眠不足が続く日でも
君に逢えるのなら飛んでく
その瞬間を待ち焦がれてる
チューニングを君に合わせて
同じ歌を口ずさもう
Everyday I sing for you

Marshmallow day(2012)


暗がりで咲いてるひまわり
嵐が去ったあとの陽だまり
そんな君に僕は恋してた
そんな君を僕はずっと

himawari(2017)


君と僕が重ねてきた
歩んできた  たくさんの日々は
今となれば
この命よりも
失い難い宝物

Your Song(2018)


誰の目にも触れないドキュメンタリーフィルムを
今日も独り回し続ける
君の笑顔を繋ぎながら
きっと隠しきれない僕の心を映すだろう
君が笑うと
愛おしくて  泣きそうな僕を

Documentary film(2020)


僕しか知らない
愛おしい仕草を
この胸に焼き付けるよ
怒ってる顔も堪らなく好きだった
もう会えなくても
君は僕の中の
永遠

永遠(2022)


そして、もう一つの分類を挙げるとすれば、それは、この混迷の時代を生きるリスナーの心を、魂を奮い立たせる熱きメッセージソングである。

桜井和寿は、私たちと同じ時代を共に生き抜く中で、私たちと同じように、迷い、悲しみ、時に大切なものを失いながら、そうした戦いの日々におけるリアルな感情を音楽へと昇華させ続けてきた。苦難に満ちた日々の中に微かでも確かな光明を見い出し、その方向へとリスナーを導き続けてきた。

これら一つひとつの楽曲が、どれだけ多くの人々の生きる指針、また原動力となってきたか。もはや想像も追いつかない。


さぁ行こう
常識という壁を越え
描くイメージは
果てなく伸びる放物線
未来へ続く扉
相変わらず僕は
ノックし続ける

未完(2015)


僕だけが行ける世界で銃声が轟く
眩い  儚い  閃光が駆けていった
「何かが終わり  また何かが始まるんだ」
そう  きっとその光は僕にそう叫んでる

Starting Over(2015)


過去は消えず
未来は読めず
不安が付きまとう
だけど明日を変えていくんなら今
今だけがここにある

ヒカリノアトリエ(2017)


静かに葬ろうとした
憧れを解放したい
消えかけの可能星を見つけに行こう
何処かでまた迷うだろう
でも今なら遅くはない
新しい「欲しい」まで  もうすぐ

Brand new planet(2020)


ここから
またひとつ  強くなる
失くしたものの分まで
思いきり笑える
その日が来るまで
生きろ
生きろ

生きろ(2022)


そして、今作の数ある収録曲の中でも、やはり特筆すべきは、2022年現在のMr.Childrenが放つ2つの新曲「永遠」「生きろ」だ。

「永遠」は、2014年以降のセルフプロデュース期を経て、久々に盟友・小林武史とタッグを組んで制作された楽曲で、誰もが真っ先にイメージする王道のミスチルサウンドを、再び堂々と引き受けて鳴らす気概に満ち溢れている。過剰で過激なほどに美しく、ドラマティックなアレンジは圧巻で、やはり、これほどまでに壮大なバラードを担えるロックバンドは、彼らの他にいない。

「生きろ」は、『重力と呼吸』や『SOUNDTRACKS』を経て、自分たちのバンドサウンドを洗練させ続けてきた彼らが至った新たな到達点であり、いつまでも進化し続けるロックバンド・Mr.Childrenの矜持を示した勇壮のロックアンセムだ。引き続き、Steve Fitzmaurice、Simon Haleとタッグを組んで制作された楽曲であり、ロンドンチームとのコラボレーションによって実現したクリアで奥行きのある音像が非常に素晴らしい。この曲において、彼らは何度目かのキャリアハイを更新してしまったと言えるだろう。


2つの新曲が象徴しているように、今回のベストアルバムの意義は、これまでの活動を総括することではなく、新しいスタートラインに立ったことを宣言することにあるのだと思う。

現在、彼らは、デビュー30周年を記念した全国ツアーを敢行している。今回のツアーのタイトルは「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀のエントランス」であり、それはつまり、今回の30周年は50周年へ向かう入口に過ぎない、ということだ。そのフレッシュな決意と不屈のバイタリティは本当に凄い。

2020年代、2030年代、2040年代が、どのような時代へと突入しているのかは誰にも分からない。それでも、Mr.Childrenが音楽を鳴らし続けてくれる限り、そこには確かな希望があると思う。4人と私たちの旅は、終わることなく、これからも続いていく。



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