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穏やかな暮らし

 お久しぶりです。気がつけば前回投稿してから3ヶ月半も経っていました。

 近況としては、3月から勤め始めた仕事には早々に慣れることができて、毎日至極穏やかに暮らしています。

 唯一穏やかでなかったことと言えば、先月末新型コロナに罹患してしまったことくらい。世間は久方ぶりの規制のない大型連休に賑わう中、私は都内の小さなビジネスホテルの小さな部屋の中で一週間療養に努めていました。とは言っても、発熱もさほどではなく至って軽症だったので、病状よりも隔離状態をどう耐え忍ぶかのほうが多く私を悩ませたものでした。

 さて、どんな仕事に就いたのかと言うと、大学の事務職です。
 私は大学を卒業してからずっとIT系企業でキャリアを積んできたので、全くの畑違いな職種です。「企業」ですらありません。
 けれど、それが良いと思って選んだのです。もとより教育や研究という分野には社会的意義を強く感じていたことと、自分が最前線に立つよりも誰かを支える仕事のほうが、器用貧乏だけれど仕事の速さや気配りには自信のある自分は向いているんじゃないか。そう思って志望した職でした。
 と、まぁこれはそれらしく掲げてみた大義名分みたいなもので、実際のところは、うつ病からの病み上がりの自分でもできそうな易しい仕事であることや、これまでのキャリアとは縁遠いものであることが志望した本心です。

 うつ病を患った直接の原因は仕事ではなかったと思っているものの、少なからず一因にはなっていたはずです。もう、会社というものに縛られ、自分に無理やり高いハードルを設け、人間関係に悩むーーーそんなことを繰り返したくなかった。
 それから、「私がもしもキャリアに躓くことがなかったらこうなっていただろうか」と思ってしまうようなビジネスマンと関わらない場所で働きたかった。これは私の中に微かに残っている、しかし根強いプライドであって、無視することはできませんでした。「この立場は、もしかしたら自分だったかもしれないのにーーー」そんな"if"に出会ってしまう機会に直面するであろう場所には行きたくなかったのです。
 もうこれは要らないプライドだと理解しています。でも、頑張ってきた自分を讃える意味も込めてこの点は自分で自分を尊重して、守ってあげようと決めました。

 今は、毎日9時に出勤して、17時半ぴったりに退勤する、有給休暇もたっぷり与えられていて、取ろうと思えばいつでも取れる、そんな環境にいます。

 お給料はと言うと、月の手取りはうつ病になる前の半分です。半分。なんて少ないんだという思いもあるけれど、幸いなことに日々の暮らしは両親の恩恵を受けている(脛を齧っていると言うべきでしょうか)ので、これでも暮らしていけるのです。
 以前の自分からすればとんでもない低収入ではあるものの、今の仕事はコストパフォーマンスで言えば過去イチではないかと思っています。

 先にも書いた通り、私は自分でも言えるくらい仕事は速い方で、PCスキルもIT畑でそこそこ培ってきたこともあり、事務処理であればパパッと終わらせられます。そうして空いた時間には、こっそりPCにインストールしたkindleで小説を読み耽る。特に暇な日には1日で400ページくらいの小説を読了してしまうほどです。実務時間だけで換算したら、かなりの高時給なのでは?と、こっそり思っています。
読書は素晴らしいです。うつ状態になって活字を読めなくなった体験をしている分、より一層そう感じます。

 業務的な負荷が少ないことに加えて、精神的な負荷もほとんどありません。
 まず、今の環境は私の仕事ぶりを事細かにジャッジするような上司的な存在がありません。もちろん組織のトップはいますが、あとは別職種の人か、横並びの同僚がいるのみ。問題なく業務をこなしてさえいれば、誰かに怒られたり批評されたりすることもありません。
 それから、会社ではないので、面倒くさい研修や押し付けがましい企業理念もありません。コミュニティに馴染むことが苦手な私には、そういうものがいつも苦痛で仕方がなかった。この点で「大学」という職場を選んだことにとても満足しています。

 毎日決まった時間に起きて外出して仕事をして、決まった時間に帰宅して、家族と食事をして安心して眠る。そんななんでもないような日々を、今はやっと手にすることができています。

 でも、そんな毎日を順調に過ごしていると、ふとした瞬間にもともと描いていた自分への理想像がひょこっと顔を出してきて、今のなんでもない自分をものすごく情けなく感じてしまいそうになることがあります。
 この高すぎる理想像こそが私の敵であり、うまく付き合っていかなければならないものであることはもう解っています。
 以前の私はいつも他人と自分を比べる癖にひどく悩まされてきましたが、それは少しは解消している今、今度は過去の自分と今の自分を比べてしまいそうになるようになりました。
 しかしそれは、過去の自分と比較する土台に上げられるくらい、今の自分が基本的な健康を取り戻したことの証明とも言えます。

 うつ状態を克服して手に入れたこの穏やかな暮らしを、情けないと思わないこと。心身の健康の尊さを忘れないこと。これを心に留めながら、今はとにかく穏やかに暮らしを紡いでいこうと思っています。

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