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NPOのパフォーマンスを最大化するための無形資産の活用方法とは?海外の先行研究から学ぶ、ソーシャルセクターの人的資本・関係性資本を活かす道筋を探究する

非営利組織(NPO)は、資本主義のシステムの中で解決ができなかった社会課題の解決や、社会的価値の創出を目的として活動する組織です。

「無形資産」は主に営利企業の企業価値の評価の観点から、近年ますます注目が集まっていますが、著者はNPOも大きな無形資産を持っていると考えています。

NPOの「無形資産」には、 組織内の職員の経験や専門性組織が蓄積してきた社会課題の知見、そして組織のブランドイメージ組織文化といった要素が含まれます。

私自身、6年間でNPOで活動してきた経験や、他のNPOの方々との対話を通じて、ソーシャルセクターの持つ「無形資産」の可能性を感じる場面が多々ありました。

日本のソーシャルセクターは、資金調達難代表者の高齢化未来の経営層を担う人材の採用難など非常に多くの問題を抱えています。

著者は、NPOが直面する数多くの課題に対して、無形資産の理解と活用は新たな解決策をもたらす可能性があると考えています。しかし、日本のソーシャルセクターでは、これらの資産をどのように評価し活用すべきかについての研究や議論がまだ始まったばかりです。

そこで今回の記事では、イタリアで2020年に発表された「Intangible Assets and Performance in Nonprofit Organizations-A Systematic Literature Review」を基に、無形資産がNPOのパフォーマンスに与える影響について要約し、日本のソーシャルセクターの関係者に向けて情報を提供したいと考えています。

論文の概要

今回扱う論文は「Intangible Assets and Performance in Nonprofit Organizations:A Systematic Literature Review」、日本語訳をすると、「無形資産とNPOのパフォーマンス:系統的文献レビュー」というタイトルです

本論文は、NPOにおける無形資産の管理が、どのように組織のパフォーマンス向上につながるかについて、系統的レビュー(システマティック・レビュー)※で明らかにすることを目的とした論文です。

無形資産とNPOのパフォーマンス:系統的文献レビュー

システマティック・レビューとは、既存の文献を、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を同定、選択、評価を行なうことで作成するレビューする方法です。主に、エビデンスに基づく意思決定や実践が不可欠な政策立案や根拠に基づく医療の分野で使われる研究手法です。

営利企業における先行研究と「知的資本フレームワーク」について

営利企業の選考研究では、無形資産が組織のパフォーマンスとイノベーションに影響を与えることが確認されています。本論文では、無形資産、特に人的資本や組織内外の関係性、外部イメージ、ロイヤリティ、コミットメントなどの組織資本の管理が、NPOの社会的価値の創出にどのように寄与するかを考察しています。

論文では、無形資産を体系的に管理するための枠組みとして、「知的資本フレームワーク(Intellectual Capital Framework、以下ICフレームワーク)」が紹介されています。ICフレームワークは、無形資産を次の3つの主要なカテゴリーに分類します。

1、人的資本(Human Capital)

組織の中で育まれる知識やスキル。従業員やボランティアの専門知識、経験が含まれます。

2、関係資本(Relational Capital)

組織とそのステークホルダー間の関係性。顧客、パートナー、地域社会との関係がこのカテゴリーに該当します。

3、構造資本/組織資本(Structural/Organizational Capital)

組織のシステムやプロセス、文化。知識管理システムや組織文化が例として挙げられます。

無形資産は、NPOのパフォーマンスに影響するか?

システマティックレビューの結果、ICフレームワークとNPOのパフォーマンスの関連性について研究している論文が9つあり、無形資産を表す表現やNPOのパフォーマンスをどう評価するかの違いがあるものの、ICフレームワークで表現される無形資産と、NPOのパフォーマンスにインパクトを与えていることがわかりました

その中でも、人的資本関係性資本が組織内部・外部に与える効果という面でNPOのパフォーマンスに強い影響を与えていることがわかりました

Cady et al. (2018)の研究では、NPOのメンバーの自己効力感や、集団効力感、組織のメンバーへのサポートなどで計測された人的資本が、メンバーのタスクに没頭する努力に繋がり、結果的にNPOの財務パフォーマンスを向上させると結論づけました。

また、関係性資本とNPOのパフォーマンスの関連性の研究では、スポーツ関連の事業を行うNPOと、競合との協力関係を築くためのオペレーションに関する研究を取り上げ、自団体と同様のミッションを掲げる他のNPOとの協力する団体はより高い財務・物理的・人的資本を得ることができ、団体外のナレッジを使用することで、より高いパフォーマンスを上げることができると結論づけています

さらに、Álvarez-González et al., 2017の研究では、NPOや企業との競争関係が、ファンドレイジングやサービスの質、サービスを提供したユーザーの観点でパフォーマンスを向上させていると主張しています。

最後に、「Knowledge Centricity」(直訳で「知識中心」)の概念を使った研究を取り上げています。知識中心とは、ハード面・ソフト面の2つの側面を持ち、ハード面は主に人的資本(データ収集・管理、技術、報告に関連するスタッフの能力、スタッフの能力のレベル、トレーニング、役割など)を指し、ソフト面は主に組織 / 構造資本(理事のエンゲージメントの高さなど)を含むといいます。著者は、ハード・ソフト面の知識中心がNPOの財務のレジリエンス(主に月次の資本 / 資金調達の額、研究ではアート関連のNPOを対象とした)を向上させると結論づけました

NPOの無形資産マネジメント・パフォーマンス評価の課題とは

論文の結論では、NPOのパフォーマンスと無形資産の関連性を扱った論文は、NPOの成長と競争力を高めるためには、ICフレームワークの要素(人的資本・関係性資本)が不可欠であると強調しています。

その一方で、大半のNPOの無形資産のマネジメントやNPOのパフォーマンス評価は 無計画・非公式に行われていることが課題だと指摘しています。著者は、この非公式に行われてしまっているNPOのナレッジマネジメントのプロセスを、ICフレームワークに位置付けることによって、NPOのマネージャーやプラクティショナーに対しての啓発と、NPOの無形資産のマネジメントをより効果的・戦略的にすることを目指している、と結論づけています。

日本のNPOにおけるICフレームワークの可能性

論文の中で挙げられている課題について、私も非常に共感しています。体系的なパフォーマンス評価で言えば、SIMIの提唱する「Impact Measurement and Management(IMM)」のフレームワークなどがインパクト投資の文脈では扱われていますが、ソーシャルセクターでの活用は一部にとどまっています。
特にNPOの無形資産のマネジメント手法や、フレームワークについて、体系的な方法で行われている事例を聞いたことがありません。それぞれの団体にナレッジがないため、属人的に行われていることがほとんどなのではないでしょうか。

本論文でも言及されていましたが、日本のNPOにおいても、団体のパフォーマンスを高めるために、自団体の人的資本・関係資本・構造的/組織資本を最大限に活かすという考え方は、大きな可能性を秘めていると著者は考えています

組織内の無形資産の理解を深め、これを戦略的に管理することで、NPOはより高いパフォーマンスと社会的影響を実現できるでしょう。

特に、先行研究はカナダやマレーシア、イタリアなどのの非営利団体を事例として扱っているため、日本固有の文化や価値観を生かした人的資本の育成、地域や他組織との連携を強化する関係資本の構築が鍵になると考えています。

この論文の示唆に耳を傾け、日本のソーシャルセクターが直面する課題に対して、無形資産の価値を最大限に活かす道を探っていくことが、これからのNPOの発展に繋がるはずです。

私は、世界でのさまざまな営利/非営利の先行研究やフレームワークを基に、日本独自の社会的背景を踏まえた、NPOの無形資産評価のモデルを構築することを目指しています

最後に…!

今後、企業の無形資産を用いた社会課題解決や、NPOと企業との協働に関する情報交換や、コミュニティを作ってゆきたいと考えています。

具体的には、
・NPOと企業の協働、無形資産を通じた社会課題解決に関連する情報共有
・海外や日本の先行事例を学びあう会
・NPOや企業、アカデミアのゲストを呼んで、勉強し合う会

などなどができたらなと思っています!

もし、この記事を読んでご興味を持っていただいた方がいたら、ぜひ以下のSNSからDMや記事へのリアクションをいただけると大変嬉しいです。不定期ではありますが、今後も発信を続けて行ければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

  • Buonomo, I., Benevene, P., Barbieri, B., & Cortini, M. (2020). Intangible Assets and Performance in Nonprofit Organizations: A Systematic Literature Review. Frontiers in Psychology, 11, 729. DOI: 10.3389/fpsyg.2020.00729

  • Misener, K., & Doherty, A. (2013). Understanding capacity through the processes and outcomes of interorganizational relationships in nonprofit community sport organizations. Sport Management Review, 16(2), 135-147.

  • InIlaria B, Paula B, Barbara B, Michela C(2020),Intangible Assets and Performance in Nonprofit Organizations:A Systematic Literature Review,Front. Psychol., 05 May 2020
    Sec. Organizational Psychology
    Volume 11 - 2020 | https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.00729

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