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鶴と象のぶらり東京

「例えば私(埼玉在住)のために、はるばる遠路来てくれる人がいるかと考えたら、たぶんいない」

KaoRuさんにコメントで言われるまですっかり忘れていたけれど、清世さんの展覧会レポで大阪から歌原さんがお手伝いに来たことについて、こんなことを書いたんだった。

あれから約一年、象のアイコンでおなじみのとき子さんが、大阪からやってきた。
遠路はるばる、文学フリマ東京の売り子を手伝いに。
「たぶんいない」なんてしんみりすることなかったよ、私。

しみじみと喜びを噛み締めながら改札の外に立っていたら、到着したとき子さんは開口一番「旅行支援を申し込み忘れちゃって、なんと5000円も損したのよー!」と嘆いた。
久しぶりの再会を喜びあった直後の話題がこれである。
申請していればホテル代が4000円割引され、1000円分のお土産券がもらえたのだという。それは無念。
逆の立場だったら私も同じようにまくし立ててしまう自信があるけど、ホテルに荷物を預けて通りを歩いているときも悔しさ収まらず鼻息荒くぷりぷりするとき子さんは、ごめんなさいすごくおもしろかった。

この日は駅から私の家まで歩きながら、私が在学中から親しんでいる場所をめぐる「つる・るるるゆかりの地ツアー」を決行した。
とはいえまずは、腹を満たさねばならぬ。
ぶらぶらと大通りを歩いて、やたらうまい中華丼みたいなものを食べる。

やたらうまい丼

お腹がくちくなったところで、とき子さんをたんぽぽハウスにお連れした。
たんぽぽハウスはこれまで記事のなかで何度も推してきた、服飾系のリサイクルショップだ。
105円から服が買えるうえ商品の入れ替わりも激しいため常に掘り出し物が眠っている予感がするという、金鉱のような店である。

どれだけ安く、素敵な服、高く見える服、おもしろい服をゲットできるか。
店に入るときはいつも、緊張感と高揚感でちょっと震える。

とき子さんは、そんなみみっちい買い物を全力で楽しんでくれた。

「えー!これかわいい!しかも500円だって!興奮してきた!
「待ってつるちゃん!この服、超軽くてあったかそう!興奮してきた!

サンドウィッチマンの伊達さん並みにマメに興奮するとき子さん。

だんだんと目が慣れてきたとき子さんは次々に掘り出し物を見つけては、「これもう定価で服買えなくなるね!」と笑った。
そうそう、そうなんです。

そうして楽しく服を見て回っていたら、突然とき子さんが叫んだ。
「ちょっとつるちゃん!すごくつるちゃんっぽい服見つけちゃった!これ明日着ていきなよ!!!」

差し出してくれた500円のワンピースはサイズ感も色の感じもぴったりで、私も一目で気に入ってしまった。
ちょっととき子さん、たんぽぽハンターの素質ありすぎでは?

「もーおばちゃん買ったげる!」
お互いに試着を終えて、とき子さんは自分用の鮮やかなブルーのコートと「参観日に着ていけそう!」と絶賛していたシャツと私に買ってくれるワンピースを持ってレジに向かった。

文フリ当日の写真

そのまま大通りを歩いて、ウミネコ制作委員会への差し入れを選ぶ。
ぼんラジさんといえば落語だし、やっぱり和菓子かなぁ。
しゃべりながら歩いていたら、ぜんざいもなかを見つけた。なかにお餅が入っているらしい。
あんこのなかの丸いお餅を見た瞬間に、「ウミネコ色じゃん!」と興奮して買った。あとで調べたら、どうやら有名な老舗らしい。

でも……文学フリマが終わってから思ったのだけれど、もなかって差し入れとしてどうなんだろう
みんなで分けて持って帰ろうとしたら粉々になるじゃん。
当時はそんな配慮を思いつくこともなく「いい買い物した!!」と二人でほくほく大興奮しながら、この町イチオシの喫茶店カフェゴトーに入った。
ここのケーキは、とにかくおいしいのだ。
ショーケースからケーキを選んでコーヒーと一緒にいただきながら、ようやく落ち着いて最近の生活の話や新刊の話、note仲間の話をする。

カフェゴトーのケーキ

ときどきお家にいる娘さんからLINEがきて微笑ましい。
「一緒に東京くる?って誘ったんだけど、大阪の文フリで飽きちゃって「もう文フリはいい。つるちゃんちは行きたいけど」って言われちゃったんよ〜」とのこと。
そっかそっか。
うちに来たいって言ってくれたの、すごく嬉しい。
今度またゆっくり遊べたらいいな。

そうしてひとしきり盛り上がったあと、ついに我が家に来ていただいた。
「ちょっとー!ここが「お邪魔します」が「ただいま」になった部屋!?
リビングに入るなり、またしても鼻息が荒くなるとき子さん。
新刊エッセイの半分くらいは、まさにこの部屋で書いたものである。そう思うと感慨深い。

夫を呼ぶと彼は飄々と挨拶をして、私たちが盛り上がっているうちにそっと自室に消えていた。
普段私の友だちが遊びに来るときも、彼は常にそんな感じだ。
幸いにして私の友だちは寛容な人が多くて夫が無言で消えてもさらっと流してくれるのだけれど、とき子さんはなんと消える夫を楽しんでくれた。
ねえ、夫さん消えたよ!すごくスーッと、ごくごく自然に「はい、俺の出番終わりました〜」みたいな感じでハケてったよ!かわいいんだけどもう!!」と大爆笑。
「いや、いた方がいいならいますけど……?」
爆笑に驚いて戻ってきた夫がタジタジになっている。

そして結婚祝いとして、私たちの出会いのきっかけになった風鈴をくださって。
かざすと虹色にキラキラ輝く風鈴は、シャボン玉みたいでとっても綺麗。

この虹色風鈴は、Marmaladeさんのつぶやきで知ったのだそう。

旦那さんからは「この季節に?!しかも、割れものを!?」と驚かれたらしいけど、私にとってはもらった瞬間から一生の宝物確定の、本当に素敵な結婚祝いだった。
新しい夏、この風鈴がチリチリ鳴るたびにとき子さんを思い出すんだろうな。

そろそろ夕飯の支度をしよう。
この日のぬか漬けは、とき子さんおもてなしバージョン。
厚揚げにゆで卵、きゅうり、それから彼女の大好物「にじりこ」こと人参の細切りというわりと豪華なラインナップ。

とき子さんのにじりこエピソードはこちら。

それから今朝作った、カレー味のふかしたじゃがいも。
メインディッシュは……豚肉
『フィンランドの昔話』という大好きな民話集に収められた一編のせいで、もう私のなかでご馳走と言えば豚肉になってしまったのだ。

とはいえ問題は調理法だ。
普通に茹でて味噌を溶いたら豚汁になってしまうし、生姜焼きもおいしいけれど、それではいかにも「育ち盛りのお弁当」だ。

簡単だけどおいしい、ご馳走感もあるみたいな、そんなレシピはないものか。
数日前に料理上手な友人に相談したら、「豚肉とりんごを炒めてバルサミコ酢と醤油とはちみつで味つけると、おいしいしおしゃれですよ」と教えてもらった。

おおお!!それいい、採用!!!
さっそくその晩にスーパーに行き、酢コーナーへと向かった。

ところが、バルサミコ酢は高かった。

小さな小瓶でも600円くらいするし、大きめの瓶になるともう、とても調味料とは思えない値段だった。素人が簡単には手を出しちゃいけない価格帯だ。
キューピーの個包装マヨネーズみたいに、一回分を小分けにして売ってくれたらいいのに。

ぶつくさ思いながら棚から一歩離れると、特売のポップをつけたポン酢が目に入った。
なんと、360mlで213円だという。

ポン酢 ポンザー ポンゼスト〜〜〜♪


唐突に脳内に「ポン酢・ポンザー・ポンゼスト」(及川光博)の陽気なメロディーが鳴り響いた。
母娘でおうちベイベーの志麻さん(お母さまはramさん)から教えてもらってドハマりして、最近やっと落ち着いてきたところだったのに。まさかここで再燃するとは。
もう、とき子さんへのおもてなしをミッチーが応援しているとしか思えない。買おう。

作詞作曲及川光博の最強ポン酢ソングは下記サイトから試聴できるので、気になる方はぜひお聴きいただきたい。

もはや順調にベイベーの道を歩んでいる私は、口のなかで「ポン酢 ポンザー ポンゼスト~~~」と歌いながら意気揚々とポン酢をカゴに入れた。
でもポン酢って、絶対にりんごには合わないじゃない。
もやしとネギが安かったので、りんごの代わりに買った。

豚肉ともやしとネギのポン酢炒めなんて、いつもの夕飯とほぼ変わらない。
求めていたご馳走感から遠く離れていることに気付いたときには、すでに私はエコバッグを下げて通りを歩いていた。
ま、とき子さんなら喜んでくれるでしょう!

はたしてその楽観的な予想は当たり、とき子さんは「こういうご飯大好き!」と大喜びしてくれた。

完全にお家ご飯

食卓に並ぶのは、とき子さんがお土産で買ってきてくれたおこわとぬか漬けの盛り合わせ、カレー味のじゃがいもにポン酢豚炒め。
ご馳走感があるか否かと問われるとちょっと自信がないけれど、我が家にしては豪華なご飯。
もちろんビールで乾杯して、またひたすらしゃべる。
奮発したいちごをデザートに食べて、翌日の文学フリマへの士気を高める。

明日は私、めちゃ栞配るから!まかしといて!」とこぶしで胸を叩くとき子さん。
さっさと完売させて、打ち上げとかしたいよね!てか、できる気がする!」と意気込むとき子さん(実際には閉会後にお片付けがあります)。
いい意味で我が道を行く、率直に言って我関せずな態度を取りがちな夫を「ちょっと夫さん!また部屋に戻ろうとしてるでしょー!」とおもしろがってくれるとき子さん。

私たち、本当に二度目ましてなんだよね?
実際に会った回数を忘れてしまうくらい、ずっとずっと旧知の間柄のような感覚になってしまう。
旅行支援を申し込み忘れたことを嘆き、たんぽぽハウスで激安中古服を買い、豚肉ポン酢を食べて。
さらには22時ごろスーパーで、翌日の昼用の30%引きのパンやおむすびまで買い込んで。
今日一日、始まりから終わりまでみみっちい……!

でもそれだけ気兼ねなく遊べると、もう怖いものなしである。
リビングで録ってくれたすまいるスパイス用の音声は、夫も含めみんなとっても自然体。
ラスト7分くらいの「おまけのコーナー」に、淡々とよくわからないことを言っている夫と、「ミッチーに似てた!ミッチーに似てる!違う要素も入ってんだけど……なに要素?あと、肌がきれい!」とはしゃぐとき子さんと、それに爆笑している私の声が入っている。

前夜祭でこんなに盛り上がっちゃって大丈夫なんだろうか。
そのくらい、一日中楽しかった。

そして翌日はいよいよ、文学フリマ東京。
この日もこの日で、書きたいことが盛りだくさんの濃い一日だった。
というわけで、当日編に続く!

とき子さんサイドの当日編(その1)はこちら!
こっちの書き出しも「旅行支援の申請を忘れた」ですって(笑)

***
【追記】
この文フリ前日譚、とき子さんサイドの記事もアップされました〜!
とき子節全開でとにかくおもしろいので、ぜひ併せてお楽しみください💕


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