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展望台でワクチン接種の巻②

11月2日、ワクチン2回目。
てんやわんやしている会社をソッと抜けて、私は再び新宿の都庁展望台へ向かった。

前回学んだのは、展望台からの景色が望めないことと、ジョージ・オーウェルのおしゃれエッセイは人がひしめく会場では読みにくいこと。
その反省を生かし今回は眺望への期待は早々に捨て、大学時代の日記を持ってきた。

私だけかもしれないんですけど、昔の日記を読むと妙に元気になりませんか?
特に大学の頃。
授業受けてレポート書いてサークル行ってバイトに励んでいたなんて、大学生の一日の密度は異常だ。
よくそんなにいろいろ詰め込めたものだと、読めば読むほど呆れてしまう。

けれど、今日は。
若さ溢れる数年前からパワーを拝借して、来たるべき発熱に備えるべし。
一応飽きちゃったとき用に、鷺沢萠のブログの書籍化『サギサワ@オフィスめめ 毎日更新(気概だけ)』も持ってきた。
鷺沢さん、好きなんだよなぁ。
やっぱりこっちを先に読もうかな。

そんなことを思いながら無事に会場に着いてみたら、前回はビルの外に張られていたテントが一つも出ていない。


まさか会場を間違えた……?

一回目は都庁北展望台で、二回目は南展望台とか…?そんなトラップある…?めっちゃ遠かったらどうしよう。
慌てて接種券を確認したら、会場は一回目同様「都庁北展望台」だった。
合ってんじゃん!
憤然と自動ドアをくぐると、青いベストの係の人が何人かぺこりと頭を下げた。

そうか。もうテント張るほど接種する人がいないんだ。
前回はみっしりと会場が人で埋め尽くされていたけれど、今回は係の人も接種しにきた人もともにまばらだ。

あまりにも人がいないため問診票を書くや否や予約確認に移り、日記を開く暇もないまま、私は流しそうめんのように猛スピードで順路を流れた。

エレベーターに乗る前に「よろしければお取りくださーい」と何か小さな包みの入ったカゴを持った係の人がいた。
病院で注射した人は解熱剤をもらったと言っていたから、その類いかもしれない。ありがたく一つもらって、ポケットに入れる。

さてエレベーターに乗せられ、あっという間に45階に到着。自動ドアをくぐってからここまで10分もかかっていない。

展望台も見事にスカスカだった。
もう接種に来る人はそう多くはないのだろう、パーテーションもいくつか外されている。
今こそ景色を眺めるには絶好の機会なのに、私は心の準備を整えるのでいっぱいいっぱいだった。
だって今から私が受けるのは悪名高き2回目のワクチン。
高熱や強い頭痛や倦怠感に見舞われるという、恐怖の2回目

いやだな、怖いな。
じっくりと恐怖に浸る間もなく問診室に案内され、「前回それほど大きな副反応がなかったなら、今回もさほどひどくはならないと思いますよー」と気休めなんだかよくわからないやけにアッサリした説明を受けて、アッサリと肩に注射針を刺された。
筋肉注射って、全然痛くなくてすごい。

前回同様15分椅子に座って待ちながら日記を開いて、昔付き合っていた男の子と大学の銀杏を拾って「早稲田の銀杏」と銘打って家の前で販売し、飲み代を稼いだ話などを読む。馬鹿だったなぁ。

そして15分後、これから出るであろう高熱に備えてそそくさと会場をあとにした。
弱気な私は、彼の家に泊めてもらう約束をしていた。
だいぶ前に二回接種を終えた彼に、その経験を生かして看病してもらおうという魂胆だ。
あわよくば「熱さまシート」とかロキソニンとか、余っていたら使わせてもらおうというセコい企みと、「暑いからビールっ!」と発熱した私が飲酒に走らないよう見張ってもらう目的もあったのだけれど。


そういえば夕飯用に冷凍もののおかずを解凍しておいてほしいと連絡したけれど、何を解凍してくれたのかしら。

肩の鈍痛以外に目立った症状はなく、最寄駅でチョコモナカとペコちゃんのカスタードケーキを買った。
カスタードクリームの滋養強壮にあふれている感じがとても好きだ。
たとえ具合が悪くて食欲がなくても、これさえあればなんとかなるような気がする。

19時すぎにお夕飯。
彼が解凍していたのは、サラダチキンだった。

11月2日 夕ご飯
玄米 
切り干し大根とカブの味噌汁
サラダチキン

メインディッシュのサラダチキンがどことなく浮いているような気もするけれど、かまわず食べる。

夜22時。まだまだ元気。カスタードケーキを食べながらこのnoteを書いたり、人のnoteを読む。
鶫さんの「物語の欠片番外編-アヘキンに寄せて」を新宿に向かう電車の中でバタバタと読んでしまったので、落ち着いて再読。
なんかもう、とにかくすごいので鶫さんとめろしゃんのファンは、いや、まだファンじゃない人も絶対に読んだ方がいい。

しめしめ。今晩はきっと、マカニ(鶫さんの物語の舞台のひとつ)の夢が見られるわい。
そうほくそ笑んで就寝、翌朝9時。
熱を測ると37度2分
微熱じゃん!さすがはかつて「死神」と呼ばれた女。すごいぞ私、さすがだ私。

食欲もしっかりあるので、彼が買っておいてくれた朝食を食べる。

11月3日 朝ごはん
クロワッサン
りんごデニッシュ
アロエヨーグルト

パイ生地への熱いパッションを感じる献立である。

食べ終えて喋っていたらだんだんと身体がだるくなってきたので、再び布団に横になる。
そこで夢に出てきたのは、マカニじゃなくて鎌倉だった。
私は報国寺の竹林を歩きながら、金の松ぼっくりを探していたのだ(なぜ松林ではなく竹林を探していたのかは不明)。
夢の中で私は醜悪な小さなジジイに呼び止められ、金の松ぼっくりを見つけてくれないかと頼まれた。
その頼み方がとても横柄だったので冷たく断ったら、「穴という穴から汚いものを噴き出してお前の部屋で死んでやる」と騒ぎ出したので、仕方なく報国寺に向かったのだった。なんという悪夢。

そうそう、鎌倉も鶫さんの小説の舞台のひとつなんですよ。
こちらは最近連載が終わったばかり。
鶫さんの珍しい自分語りに「ひゃ〜!」と浮かれていたから、夢に出てきたのだろうか。
こちらの記事もネタバレはないので、安心してお読みいただけます。

13時に目覚めて体温を測ると、38度3分だった。熱のわりに身体は辛くないけどなぁと身体を起こすと、頭の芯がじんと痺れるような頭痛がした。同時にめまいも。
あ、こりゃヤバいや。

高熱にうなされながらも、腹は減っている。昨晩から冷蔵庫に移しておいた、カツオのたたきを食べよう。
ダウンしている私の代わりに、彼がたたきを切ってくれることに。解凍されたカツオのパッケージの端をおそるおそるつまみ、慎重に包丁を入れる彼の丸まった背中がなんとも愛しかった。

11月3日 昼ごはん
玄米
豆腐
カツオのたたき

サンチャゴ効果か、カツオのたたきを食べると力がみなぎってくる。
(カツオのたたきと私たちの因縁はこちら。いやしかし、宣伝が多いね今日は)

お昼を食べたあとは、寝ては起き、寝ては起き。目覚めて身じろぎしたりポカリを飲むたびに、気遣わしげに眉を寄せた彼と目が合う。
大丈夫と安心させてあげられないのが悲しい。親指だけ立てて、また寝る。

そしてまたこんこんと眠って15時半、ふいに頭痛が消えた。
熱を測ると36度6分
平熱だ。
一人むくりと身を起こし、水を飲む。
隣に並んだベッドを見ると、ジム帰りの彼が寝ていた。
安らかに上下する腹を少し撫でて、私も自分の布団に横になった。

夕方18時、36度5分
完全復活だ。
頭の痛みも熱のだるさも嘘のように引き、私はもりもりと滞っていたメールの返信を始めた。
一日中ほぼ寝て過ごしていたくせに、とっても空腹。
すぐに台所に立ってご飯を作った。
病み上がりなので栄養をしっかりと摂るべく、味噌汁に冷凍の牡蠣を入れる。

11月3日 夕ご飯
玄米
牡蠣と切り干し大根の味噌汁

味噌汁の匂いに釣られてか、彼氏が起き出してきた。
「もう大丈夫なの?」と聞かれたので接種されていない方の腕で力こぶを作ってみせる。
「あとでアイス食べよう」と私が笑うと、彼が急に

「ひゃっはぁん!!」

と盛大にくしゃみをした。
屈葬みたいに身体を曲げて。

えっ、もしかして形勢逆転ですか?
冗談交じりにそう言うと、彼は涙目で睨み上げてきた。
そして何か言おうとするも「ひゃっはぁ!」「へぁっしょん!」と特大のくしゃみに邪魔されていた。
うわ〜……ガチなやつじゃん。

昼寝を機に彼は本当に風邪を引いてしまったらしく、夕飯を食べるとさっさとベッドに潜ってしまった。
そんなこと、ある?
一方たっぷり寝た私は暇を持て余していたので、展望台でもらった小包を開けてみた。

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マグネット……ですかね?
オリパラ記念の余りかしら。
海老のような屈曲とひもQのような弛緩を繰り返す彼氏に「私のワクチンの対価、いらない?」と声をかけたら、よく聞こえなかったのか「ゴミ箱はそこ」と部屋の隅を指さされた。

捨てろと?

お読みいただきありがとうございました😆