つるよしの

2020年中盤からアマチュア小説書きとしての投稿。その前はハンドメイドライター(ツルカ…

つるよしの

2020年中盤からアマチュア小説書きとしての投稿。その前はハンドメイドライター(ツルカワヨシコ)&ギャラリー主としての投稿。今は人間の業を書きたい物書き。カクコン9エッセイ部門特別賞・第二回角川武蔵野文学賞ラノベ部門大賞受賞。カクヨム・エブリスタ等に投稿しつつ文学フリマにも出店。

最近の記事

『誰がために花は咲く』第十八話【最終話】(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

  3日後、グルーが戻ったセヲォンの館は、様子がなにか違った。  部屋という部屋に灯り、いつもはひっそりとしている館の入り口を忙しくガザリア兵らしき人間が出入りしている。  グルーは表の門から館に入らず、勝手口からそっと馬を乗り入れた。途端にメリエラがグルーの姿を認めて小走りで駆けてくる。銀髪を翻し馬から下りたグルーも、思わず小声になりメリエラに声をかけた。 「何があった?」 「セヲォンさまが亡くなられたのよ」 「……えっ」  グルーは絶句した。メリエラの顔も、いつにな

    • 『誰がために花は咲く』第十七話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

      「お前と取引がしたい」  セヲォンがカロを伴って傷の癒えたグルーの部屋に訪れた。この館にやってきてふた月ほど経ったある日のことである。  セヲォンがグルーの部屋にやってくるのは異例のことで、何ごとかとグルーは改まってふたりの顔を見た。そしてセヲォンの第一声がそれであった。 「取引?」  セヲォンは、疑念の色を顔に示したグルーを一瞥したが、かまわず椅子に腰掛け、そして、驚くべき一言をさらりと言ってのけた。 「お前にテセの国をやろう」 「……テセを、俺に?」  グルーの

      • 『誰がために花は咲く』第十六話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

        「なんだと!」  グルーは立場も忘れて激怒した。思わず体が動かない事を忘れ、隻眼を燃やし、カロに躍りかかる。だが拳は力無くカロの前で止り、その身に届きすらしない。  グルーは自分のふがいなさに歯ぎしりし、カロとセヲォンを膿んだ右目で睨み付けるのみであった。 「気持ちは分かるが、そう怒るでない。やむにやまれぬ事情があったのだ。それにカロの亡くなった妻、メリアはお前と同じ病の者であった」 「なぜ、病の者が、自ら必要な薬草を絶やした!?」 「それは、おいおいカロから聞くが良い。

        • 『誰がために花は咲く』第十五話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

          「こんなはずでは……」  グルーは呻いた。手に負った傷からは絶えず血が流れている。意識が朦朧としてくる。グルーは気力をふり絞って、腹心の部下たちの名を叫んだ。 「ガルムド! サラーン! ヨヘド! ……生きてるか? いたら返事をしろ!」  だがその声に応える者はいない。ただ風が吹き、砂塵がばあーっとグルーの傷ついた体にまとわりつくのみだ。 「皆死んだか……ガザリアの奴らめ……」  テセとの国境に配置されたガザリア軍の作戦は巧妙だった。グルーたちが動き出す前夜のうちに、

        『誰がために花は咲く』第十八話【最終話】(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

        マガジン

        • ハンドメイド。その全てはわたしの中の河へ注ぎ、やがて溢れる。
          11本

        記事

          『誰がために花は咲く』第十四話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

           闇の中の眼下の村には、人々の暮らしを示す灯りがちらちら、光っている。 「そろそろ、いいだろう、行くぞ」  グルーがちいさな、だが鋭い声で言うと、仲間たちも静かに丘の下の村へと移動し始める。短剣をかざし、ひそやかに、だが素早く夜の丘を駆け下りる。やがて村の一番大きな家を囲むと、いきなり先頭の者が剣をふりかざしつつ、家の扉を蹴破った。  震えて家の片隅に固まる住人を包囲すると、銀髪を揺らしながらグルーが夜風が舞い込む家の中に現れた。  グルーは精悍な顔つきを崩さず、愛用の

          『誰がために花は咲く』第十四話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

          『誰がために花は咲く』第十三話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

           昨日も今日も、赤い花の上でグルーは暮らしている。  呪われた草原と周りのひとは言う、かつてズームグと呼ばれた国の王都跡を望む赤い花の平原だ。病の人の呪いに満ち、彼らの亡霊が、健康な者を妬み、泥の中に引き込むことで知られる泥地である。  だが、そんな恐ろしい沼地でありながら、そこはどんな季節も赤い花の絨毯で埋め尽くされ、この世のものと思えぬ美しさであった。だが、その絨毯の上だけがグルーの生活の場であり、昼は青空を見上げ、夜となれば遠い星空に照らされる場だった。  グルーが

          『誰がために花は咲く』第十三話(第三章 地を這う星よ~グルーの物語~)

          『誰がために花は咲く』第十二話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          「久しぶりだな」 「……王弟殿下……いや、いまは陛下ですな、お久しゅうございます」  テセの王宮の薄暗い部屋にて、セヲォンは懐かしい顔を見た。  拷問によってその顔は赤黒くなってはいたが、カロの父は、ぼんやりとした意識から覚めて、はっきりとした声でセヲォンの声に応えた。 「余の副官だったお前が、ヴォーグを殺した真の理由は、分かっている。国境の村、フィードでの国境警備隊による虐殺事件。あの事件の、敵討ちだな」 「さすが賢明な陛下ですな……お見通しですか」 「そのために余の

          『誰がために花は咲く』第十二話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          『誰がために花は咲く』第十一話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

           光が緑の狭間から満ちてくる。カロが気付けば、新しい朝が訪れていた。  となりではメリアが、すやすやと寝息を立てている。ふたりが包まれている草のふんわりとしたベッドは森の衆が用意してくれたものだ。  そしてベッドの周りには、森の衆が、木の上から落としてくれた木の実を食べ散らかした跡がある。ほかでもない、カロとメリアの昨日の夕食の残骸だった。  そこまで思い出して、カロは自分が昨日この森にたどり着いたことと、この森を支配する「森の衆」といわれる民から聴いた、自分に関する重大な

          『誰がために花は咲く』第十一話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          『誰がために花は咲く』第十話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

           カロは運が良かった。  落ちてきた梁と梁の隙間に体が挟まっていたが、足を動かせば難なく外に這い出ることができた。メリアも同様だった。けほけほと咳き込みながら、藁と柱の間から体を浮かしカロの目の前に姿を現した。  運が無かったのは軍人ふたりだ。なんとか外に這い出たメリアとカロが見たのは、どす黒い大量の血が地を這って、崩壊した馬小屋の下から流れ出る様子だった。軍人ふたりは梁の下敷きになり、手を宙に突き出したまま死んでいた。カロは自分の運の良さを喜ぶ前に、その光景に唇を青くした

          『誰がために花は咲く』第十話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          『誰がために花は咲く』第九話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

           ようやくメリアは状況を理解した。自分がテセの神殿から逃げ出したこと。そして見知らぬ土地に迷い込み、ここでどうと疲れて倒れてしまったことも。    ――それにしてもここはどこなんだろう。 「……あの……ここは……どこの村、いや、国……なんでしょう?」 「ガザリアだよ」  カンテラの光のなか、目の前の少年が告げる。そういえばこの少年の装束もガザリア風だ。 「……まあ、なんと遠くまで来てしまったんでしょう……でも、生きている、私、生きているからそんなの全然問題ないわ!」

          『誰がために花は咲く』第九話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          『誰がために花は咲く』第八話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

           学院の塔の鐘が勢いよく鳴った。  生徒たちは待ちわびていた終業の時刻を迎え、わっと騒々しく連れだって家路に向かう。そのいつもの風景を、いつものように、カロはただひとり、教室の窓から見下ろしていた。 「カロ、まだ帰らないのか」  そんなカロを見て教師はそう声をかけた。 「はい、図書館に行ってから……帰ろうと思います」  カロは教師の方を見ようともせず応える。こいつはいつもそうだな。態度も、返事も。教師はそう思いながらカロをからかう。 「毎日、放課後に図書館に籠もって

          『誰がために花は咲く』第八話(第二章 カレイドスコープ~カロの物語~)

          『誰がために花は咲く』第七話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

           エスターは薬草園の中にいた。  そこは緑と水に満ち満ちた心地よい空間だった。あの廃墟の薬草園と何もかもが全く違った。  ただ同じなのは、あの大きな花弁がついた花が、すっくと天井に向かって何本も生えていることだった。ただ、その花はあの廃墟で見た姿とは少し違って見えた。なぜだろう。エスターはその違和感について少し考えた。  ――そうだ、色だ。色が違うのだ。ここの花は、赤くない。純白だ。あと、まだ咲いていない。みな蕾のままだ。  ――だが、これはこれで美しい。  エスターは

          『誰がために花は咲く』第七話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

          『誰がために花は咲く』第六話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

           テセに戻ってから、エスターとヴォーグは、しばらく静かに暮らした。  凱旋といって良い成果をもたらした帰還だったが、隠密行動であったし、またはいわば「前科者」でもあるエスターの存在をテセは公にもできなかったので、ヴォーグとエスターを英雄の如く遇したのは、ごく限られた人々、つまりは、女王セシリアと王弟セヲォンと、その腹心のものたちだけであった。  エスターは都の郊外に専用の館を与えられ、療養に専念し、ヴォーグといえば、まだ休暇の残りがあったので、自らの宿舎に戻り、軍の雑務をこ

          『誰がために花は咲く』第六話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

          『誰がために花は咲く』第五話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

           エスターは城壁の中に滑り込んだ。  急がねば……。そう焦るエスターの目を奪ったのは、おびただしい数の人骨である。至る所に転がる、骨・骨・骨。みなこの王都に暮らしていた者どもだろうか。これが父の勤めていた城のなれの果てか。ここで自分は産まれ、母と死に別れたのか。そして母と同じ疫病で死んでいった者どもが、今自分が踏みしめている人骨なのか……?  ――こうして、みな、滅びていったのか。  エスターは放心しかけたが、並ぶ人骨が皆同じ方向を向いて倒れているのに気が付いた。みな、ど

          『誰がために花は咲く』第五話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

          『誰がために花は咲く』第四話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

           ゆらゆらと体が揺れる。  目を開ける間もなく、潮の香りと風が押し寄せてくる。こうして目覚める朝も今日で12日目だ。さすがに慣れては、きた、が、今回の旅に至るまでエスターは海を見たことがなかった。だから、船倉から甲板に上がると、その果ての無い青の光景に、白い波に、未だ、子どものように心が躍る。  エスターには、まだ、自分の心が躍ることができるとはついぞ意外であったが、子どもの頃のように、海の光景はエスターの世界をたしかに美しくしつつあった。それが錯覚と、分かってはいても。

          『誰がために花は咲く』第四話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

          『誰がために花は咲く』第三話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)

          「父さん……ごめんなさい」  エスターは、もう駄目だ、死ぬ、と思うたびに心の中で父に詫びる。  ――ごめん、父さん。あなたに貰った命なのに。  自責の念で頭がいっぱいになり、いつしか意識が暗転する。だが、気が付けばエスターは生きている。それを一体、あの日、村を出てから何度繰り返しただろう。そんなことを思いながら身を起こし、またエスターは歩き出す。いつも、いつもその繰り返し。思わず乾いた笑いがエスターの口を刻む。今回もそうだった。だが、いつもとはどこか勝手が違う。  エ

          『誰がために花は咲く』第三話(第一章 名も無き花~エスターの物語~)