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Spotifyデータで藤井風さんのアーティストネットワークを分析してみる

藤井風さんはどのような聴かれ方をしているのか?

藤井風さん(1997年生まれ)の紅白出場が発表さた2021年暮れ、その時点ですでにYoutubeで4億回近く再生されていた藤井風さんの楽曲が、リスナーにどのような聴かれ方をしているのかが気になりました。

そこでSpotifyが公開しているビッグデータを使って、藤井風さんのアーティストネットワーク分析をしたところ、なかなか驚きの構造が見えてきたのです。なるべく簡単に説明したいと思います。

データはPythonでコードを書いてWEB APIより21年12月25日取得。ネットワーク図の描画と分析にはCytoscapeを使用しました。

一見複雑で何が何やらわかりませんが、順を追って分析していくと、色々な地図が浮かび上がってきます。

ネットワーク分析に浮かび上がる、星野源さんの凄さ

まずSporifyの膨大な聴取データから「藤井風さんと一定の関連性がある」と導き出された160組のアーティストのうち、最も「媒介中心性」の強いアーティストは、

星野源さんでした。

媒介中心性が最も高いのは、星野源さん

他にはaikoさん、STUTSさん、Awesome City Clubさん、Tokyo Incidents(東京事変)さんなど。

ジャンルがぜんぜん違いますね!

図にはこの方々のノード(頂点。図の中の丸)を黄色くマーキングしてありますが、その黄色い円もあちこちに散らばっていることがわかります。

ネットワーク分析の理論における「中心性」というのは

「そのノードがネットワーク内で、どれだけ中心にあるかを示す量」

とされますが、最も中心性の高い星野源さんが、藤井さんと離れた位置に出現しているのです。

そしてあるノードの「媒介中心性が強い」ということは、逆に言えば

「そこが切れると、繋がるのに遠回りになってしまう」

あるいは

「そこが切れると、ネットワーク全体がバラバラになってしまう」

ということだとされます。

つまり星野源さんの存在は

「本来は藤井風さんのような音楽を聴かないリスナーが、たやすく藤井風さんに出会うことを可能にする結節点となっている」

という可能性が非常に強く示唆されているわけです。

星野源さん、出会わせてくれてありがとう。

従来のJ-POPで括れない藤井風さん

実際のところ、星野源さんの左側には、SEKAI NO OWARIさんなど、2010年代以降の、誰もが知っているJ-POPアーティストの方々が中心となった塊が形成されています。

星野源さんを介して、SEKAI NO OWARIさんなど、2010年代以降の誰もが知っているJ-POPアーティストの方々へネットワークが広がる

でも藤井風さんは、このJ-POPの島の中にはいない。

そうではなく藤井さんが現れるのは、Awesome City Clubさんのような、従来のJ-POPでは括ることが難しい、新しい音楽性を表現しているアーティストたちの島なのです。

このことはおそらく、藤井風さんが紅白出場以前の時点で既に、ジャンルや音楽的趣味の違いを超えて、非常に多様なリスナーから聴かれていたことを示唆しています。

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そしてその下方には、2010年代のJ-ロックと思われるアーティスト群や、いわゆるZ世代のシンガーソングライターの方々が小さな群島のように現れます。

藤井風さんの下方には、2010年代のJ-ロックと思われるアーティスト群や、いわゆるZ世代のシンガーソングライターの方々が広がる

このエリアにいるのは大きく言って、従来のプロデュースシステムではなく、YoutubeやSoundcloudといったプラットフォームを中心に頭角を現したアーティスト群…といってよいのかもしれません。

一方藤井風さんから右上には、STUTSさんやPUNPEEさんのような、メロディアスなDJや「トラックメイカー」と呼ばれるアーティストも含む半島のような広がりが見えます。

藤井風さんから右上には、STUTSさんやPUNPEEさんのような、メロディアスなDJや「トラックメイカー」と呼ばれるアーティストが広がる

このエリアの特徴は、音楽活動の中心がクラブという箱からインターネットに移ったアーティスト群、ということかもしれません。

データから、J-POPシーンの地殻変動が見える

こうして俯瞰して見ると、左側の島々は「年代違いのJ-POP」の島として括れそうですが、真ん中と右側のエリアは楽曲のジャンルというより「出自の違い」によって定義され始めているように見えます。

つまりレコード会社のオーディションやプロデュース、全国ネットの音楽番組といったいわば「狭き門」を経由せずに、宅録とインターネット配信という「小さき門」を通じていきなり広い世界と繋がることで、既存の音楽シーンの中に逆輸入的に流通するようになったアーティスト群、ということです。

その門は小さいけど、誰にでも開かれている。そして案外、東京やニューヨークではなく、身近にあったりする。

そう、自宅の部屋の中に。

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そう考えると、YoutubeやSpotifyの出現によって生まれた新しい音楽の生態系の姿が、ネットワーク分析の結果にもはっきり現れているように感じます。

そしてそのデータからは、「シーン」の裏側で、ゆっくりと、でも着々と進んでいる、リスナーの「聴き方」の大きな地殻変動のような変化が感じられます。

レコードからカセットへ、カセットからCDへ、そしてサブスクリプションとレコードの時代へ。

でも変わったのはメディアや流通のあり方だけではない。

作り手にとっては機材や録音のハードルも下がったし、配信まで一人でできるようにもなった。

リスナーにとっても、誰かが意図を持ってプロデュースした音楽や、ヒットチャートの上位の音楽だけでなく、世界の片隅からアップロードされた、まだカテゴライズすらされていない未知の音楽に遭遇できる環境が出現しています。

むちゃくちゃおもしろい時代ではないですか…!

そして右下の端っこに出現する「ぷにぷに電機」さんが気になりすぎる…

ぷにぷに電機さん…気になりすぎる…

ぷにぷに電機さん、良い…!

この分析を12月25日に行ったあと、大晦日がやってきました。紅白歌合戦を観ました。

藤井風さん、凄かったですね…

今回のネットワーク分析があの「席巻」具合を予言していたかのような気がしました。

そして顕著な媒介中心性を示していた星野源さんは、NHKで「星野源のおんがくこうろん」をスタートさせました。

適任すぎる…!

今後も音楽地殻変動が楽しみです。

そして僕も、Pythonというオープンソースのプログラミング言語、Spotifyのオープンデータ、Cytoscapeというオープンソースの分析ツールを介して、音楽の新しい可能性を目撃し、素晴らしいアーティストさんたちの魅力に出会うことができる。

学ぶことさえ忘れなければ、誰でも使える無料のツールで、世界のリアリティに触れることができる。

今という時代に生きていてよかった…!

以上、徒然研究室からでした。(最後に御礼&追記あります)


2022年3月17日追記)
最後までお読みいただきありがとうございました。公開して数日間にも関わらず想像以上にたくさんの方にお読みいただき、twitterでのコメントもいただいたりしてありがとうございます。

今回のネットワーク図の分析にあたっては私も初めて知る素晴らしいアーティストさんたちが多くその度に聴いてみたのですが、「このアーティストさん好き/知っている!」という方は、ぜひ感想や共通項を教えていただけると嬉しいです。

僕よりも音楽知識がある方が見た方が、もっと発見があると思います!

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