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第2話 旅する本

 読書が嫌いだった。夏休みの読書感想文はなるべく絵の多い本を選んで、なるべくマスを埋めようと必死だった。義務教育を終えても本を自分から読んだり、ましてはお金を払ってまで読んだ活字は一冊もない私が27歳の時に出会った本が「クジラの彼」だった。広島・山口を1人旅する時に空いた時間に恋愛を勉強しろと、不動産の社長に渡された自衛隊の彼とその女性を描いた恋愛短編集。道中で続きが気になりすぎて自分でもびっくりするほど熱中して読み込んだ。感情や情景を写真やイラストなしで言語化する言葉選びに感動した。そうか本にはこういった力があるのか。この一冊をきっかけに旅と本は私にとって欠かせないセットとなる。

 ある日インスタのストーリーで本を送ってくれないかと呼びかけたところ友人2人から返事があり5、6冊ほど日本から送ってくれた。送ってくれた本を見てその人の趣味思考が現れているのも面白い。最初に読んだのは「アルケミスト」羊飼いの少年がピラミッドを目指して旅する冒険物語。たくさんの友人がこの本を知っていたので初めにこの本から手を出したが内容が難しく私には早かったみたいだ。でも最後まで読み続けられたのは、人物の言葉にハッとさせられた事が何度もあったので、次はどんな言葉を少年にかけるのだろうとわくわくがあった。次に読んだのが「全ての装置を知恵に置き換えること」石川直樹さんがアウトドアメーカーのパタゴニアでアルバイトしてた頃の話から始まりブランドの理念『何が必要かよりも、何が必要でないか』から引き込まれた。この時から私はエッセイを読むにあたって、その人がどんな経験をしたかよりも、感じたことをどんな言葉を使って表現をするかに重きを置いているのがわかった。3冊目は「灯火亭」家庭や職場での困難や問題が人々の前に立ちはだかり、灯火亭という居酒屋での出会いをきっかけに乗り越えていく短編集。ちょっと辛口で、でも愛のある言葉を贈る店主は駒込にあるバーの店主に容姿もよく似ていた。料理の味いわゆる食レポにも力を入れているのが伝わり、どんな苦しい事があってもご飯を美味しいと思えるうちは人間大丈夫。と食の力を改めて知った。4冊目は「出会いは全て旅先だった」これは作者の松浦弥太郎さんのエッセイ集で行動がかなりファンキーでイカしてる。表現もストレートで私この人好きだ。直感で感じた。

 ニュージーランドで出会った日本人の友人とエディンバラで再会した。来月からカナダにワーキングホリデーで旅立つので読み終わった内の2冊を友人に渡した。日本からスコットランドへそして次はカナダに飛び立つその2冊は、まるで本が旅をしているみたいで素敵だなと思った。次は誰の手に渡るだろうか。

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