「もうすぐ死ぬ」-こいぬばあちゃん、長生きの秘訣- #025
「これが、最後の正月かもしれないね」
妻の祖母(こいぬ)の誕生日は1月の最初で、つまり年始である。家族で集まると、こいぬばあちゃんは言う。
「来年は、いないかもしれないからね。多分もうすぐ死ぬから」
彼女は私に言う。
「いくつに見える?」
「60代くらいですか」
「いやぁー(笑顔)60ってそれはないよ」
「いくつになったんですか」
「88(小声)」
「ええっ、そうは見えませんよ」
「整骨院でも若い若いって言われるよ」
この会話を、10年くらい毎年繰り返している。しかし、こいぬばあちゃんは本当に若く見え、歳を追うごとに益々元気である。
元気の秘訣はいくつかありそうだ。
まず、すごいのは食欲だ。現在90歳を超えた彼女は、家族と一緒に焼肉食べ放題にいくと、肉だけでなく、コロッケやアメリカンドッグをばくばく食べている。タピオカに興味を持ち、「ふーん」と言いつつ飲んでいた。とにかく何でもよく食べるのである。
ただ、何を食べているかがよく分かっていない時もある。
この間は、中華料理をたらふく食べた後に、ばあちゃんは言った。
「ここは、中華の専門店だね!」
これだけ食べておいて、いまさら何を言っているのか。インドカレーを食べ、しばらく経ってから、「ここはカレー屋だね」とも言っていた。
もう一つの元気の秘訣は、人とたくさん会っていることだ。
こいぬばあちゃんは妻の家族と、2世帯住宅で暮らしている。その家は、建具屋をしていた夫(じいちゃん、故人)と建てた家で、昔から住んでいる土地である。そのため、近所のお茶のみ友達が、代わる代わる訪問してくる。
「年寄りは寂しいから。優しくしてもらわないと」
などとばあちゃんが言うため、予定を聞いてみると、今日はこの人、明日はあの人と会う、という。送迎付きの整骨院にも週数回通っている。私達夫婦や妻の家族より、よっぽど人に会っている。何が寂しいものか。
ここまででおわかりかと思うが、こいぬばあちゃんは、自由奔放である。
「あ、いけね」
彼女はおならをすると、そう言うのだが、全然いけないと思っている表情ではない。以前、私も一緒に、温泉旅行に行った際、こいぬばあちゃんのいびきがすごすぎて、私はほとんど眠れなかったのだったが、朝それを伝えると、
「それは悪かったねぇ」
と言いつつ、こいぬは爆笑していた。
90歳の誕生日になった時、妻が家族写真を撮ろうと企画し、こいぬに声をかけると、
「こんなしわしわなのを撮ってもねぇ」
と言っていたが、結局何カットも撮ってもらい、表情や、衣装を最後まで気にしていた。なんなら、衣装替えもしていた。どうやら遺影にするつもりらしい。
こういう自由奔放さは年を取ってからかというと、どうやらそうでもないようだ。
・若い頃、映画館に豆を持っていってぼりぼり食べ、途中、映画館中にばらまいた
・孫たちに「くすぐりに1分耐えられたら1000円やる」と言うものの、どれだけ耐えても、「今のはちょっとだめだね」と難癖をつけて、一度もお金をあげたことがない
・謎の創作料理を作る。油でべちょべちょの紫蘇としらす入りチヂミ風食べ物をなぜかよく作って人に食べさせていた
など、エピソードには事欠かない。
先日、AmazonのAI音声認識サービス、「アレクサAlexa」が家に届いた。ばあちゃんは「サ行」がなぜか「タ行」の発音になるため、「アレクタ!…アレクタ!」と繰り返し、反応しないことに、怒っていた。
これからも長生きして、伝説を量産してほしいものだ。
(追記)
「つなまよ、こいぬのこと早く書いた方がいいよ。いつ死ぬかわからないからね」と妻は言う。しかし家族に愛されすぎているからか、御陀仏の気配は未だない。
2023年10月28日執筆、2023年11月14日投稿
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